ザ・職人
職人の朝は早い。
一日の始まりとして朝日を浴びながらの体操は欠かせない。
健康的な体を維持してこそ、いい仕事ができるというもの。
食生活も言わずもがな。気を遣う、が栄養価の高い食事をふんだんにとはいかない。
そう食える仕事でも万人から評価されるものでもないのだ。
自給自足。時には泥水だって啜る覚悟だ。
――あなたがこの仕事をしようと思ったきっかけは?
職人はこう答えた。
神にやれと言われたからさ、と。
まさに天命。これが己が生きる道。
そして職人は今日から新たな仕事に取り掛かる。
大事なのは素材選びから。職人は腕を組み、岩壁を見つめる。
風が吹き、日が傾いても職人は微動だにしない。
その鋭い眼光で完成図を描いているのだ。
職人がカッと目を見開くと、素材の切り出しに入る。
何人かの弟子に指示を出しつつ、職人も汗を流す。
決して手を抜こうとはしない。命を懸けている。
汗水、時には血を流す彼の姿に感服するばかりだ。
そうして切り出された岩。素人目にも美しく思える正方形である。
だが、職人の仕事はここからが本番だ。
まずは角を削ぎ落す。とは言え、慎重に行わなければならない。
気を抜けば仕上がりに影響を及ぼすのだ、
――あなたはこの作品を誰に見てもらいたいですか?
勿論、偉大なる我が神、そして無法者だね。
職人はニッと笑ってそう答えた。
神と無法者。対極にあるように思える両者。
彼は誰であろうとその胸を打ち震えさせたいのだ。
作業が終盤に差し掛かると職人の気迫はさらに激しいものとなった。
気は一切、抜かず丁寧な手つき。
この仕上げが最も根気がいる作業だと職人は言う。
表面をひたすら磨き、滑らかで艶やか、色気さえ感じるほどに仕上げるのだ。
職人はここで最も汗を流した。
冷や汗混じりだと、彼は我々を気遣い、笑みを見せて言う。
納期まで時間がないのだ。
これは共同作業の一大プロジェクト。他の職人との兼ね合いも考えねばならない。
できなければ神から罰が下る。しかし、手を抜くことは自分自身が許しはしない。
これが職人。これが誇り。
――あなたの偉業は……もしかしたら後世に伝えられることはないかもしれません。それでも……
いいんだよ。
彼はそう言った。
月明かりの下。彼の顔には寂しさも何もなく、少年のように純粋無垢であった。
「アンディー! 罠よ! 逃げて、岩が来るわ!」
「クソッ! よく転がりやがる!」
偉大なる神のご遺体が眠る神殿の宝を狙う恥知らずな者どもに職人の不朽の魂が迫る。
かわされた後は壁に激突し、その美しい球体は砕け、見向きもされない。
そしてそれはほんの数秒、数十秒の輝き。
しかし、芸術。
ほら、美しい花火のようではないだろうか。