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名無しキャストの短編集

悪役令嬢の逆ざまぁテンプレ展開の裏側

作者: 月嶋朔

 転生。断罪。溺愛。そんな悪役令嬢ものがありふれた中。ご多分に漏れず、私も事故死した後に前世でハマっていたソシャゲの世界に転生した。しかも転生先のキャラは悪役令嬢というテンプレ展開。

 となれば、やることはひとつ。

 ヒロインと、浮気者の婚約者にざまぁして、別のキャラに溺愛されてハッピーエンド。


 なんだけど。


 やっぱりというか、ヒロインも転生者だった。

 しかも彼女も『悪役令嬢から逆にざまぁされるテンプレ展開』があるだろうと心得た上で、効率プレイで私の婚約者とストーリーに登場するキャラ、そしてゲーム上では期間限定キャラだった隣国の王子を籠絡して私の逃げ道を塞ぎ。ついでに私に対して嫌がらせ(・・・・)をして、ストーリー通りに婚約破棄まで持っていった。

 そう。よくある別の王子や貴族からの『じゃあ私と婚約しましょう』『以前からお慕いしてました』っていうご都合展開を、ヒロインが全部つぶした状態だ。


 主人公としてキャラデザされているからそれはそれは可愛らしいヒロインを抱き寄せて、悪役らしいキャラデザをされた私を睨んで、男性キャラの中でも人気の高い見目麗しい婚約者の王子は「真実の愛に目覚めたから、お前との婚約を破棄する!」と声高に宣言する。

 ゲームでは「彼女に対する非道な行い」って台詞もあったけど、その事実がないからカットされたらしい。それでも後付けの理由で修道院送りにするつもりなのだろうけど。

 自作自演とか冤罪かけられたら利用してやり返そうとも思っていたけど、さすがに『悪役令嬢から逆にざまぁされるテンプレ展開』を知る彼女はそんなミスをしなかった。


 それにしても、真実の愛。

 真実の愛ですって!

 作られたシナリオだと知っている私にしてみれば、滑稽な喜劇でしかない。


 だけどその婚約破棄イベント(滑稽な喜劇)は滞りなく終わり、ヒロインと元婚約者が手を取り合って喜ぶ。見覚えのあるスチルだ。

 周囲は彼らには祝福の、私には憐れみと蔑みの視線を向ける。




 ここまでが、ゲーム上のメインストーリー。




 だから、この先はゲームには無い展開。




 私は、ずっと黙りこんで様子を見ていた元婚約者の父である陛下に振り返り、視線で合図を送る。

 陛下は婚約破棄を認め、そして元婚約者の廃嫡を言い渡す。

 誰よりもその宣言に驚いたのは、やっぱりヒロインだった。

 それはそう。

 だって、悪役令嬢もののテンプレ通りに話をひっくり返すことが私にはできなかったと思っていたのに、それが起きたのだから。


 私は静かに陛下の側に歩み寄る。

 それだけでざわめいた会場内は、更に立ち上がった陛下が私の手を取って傍らに寄せたことで更に声が大きくなる。

 混乱する周囲に陛下自ら、ご自分の寵愛が私にあること、そして私を側妃に迎えることを宣言した。

 元婚約者もヒロインも、彼女が籠絡したキャラ達も驚きすぎて声が出なくなっている。

 ややあってようやく元婚約者がどういうことなのかと口を開いた。陛下は愛しそうに私に向けていた目を、厳しく釣り上げて息子である元婚約者を見下ろす。

 その隣で私が陛下の代わりに全てを明かす。


 正妃様だけをずっと愛していた陛下は、彼女が亡くなった後もその席を空白にし、代わりの側妃を迎えることなく、二人の唯一の子である王子を大事にされてきた。

 だけど周囲は新しい妃を迎えることを進言し続けていて、陛下は心底ではずっとうんざりしていたという。何故なら、誰も彼もが『正妃様の存在を忘れさせようとしている』かのような態度だったからだとか。

 後継者が元婚約者だけでは彼に何かあれば王家の血が途切れてしまう、と王として理解していても、愛した正妃様以外に心を傾けたくない、と頑なになってしまった理由のひとつでもあったそうだ。

 だけど私は『正妃様を一途に思う陛下』に恋をした。

 陛下も最初は親子ほど年が離れていることを理由に私を遠ざけたけど、それとは裏腹に、正妃様を思う陛下がいいのだと言う私との距離は少しづつ縮まっていた。

 しかし周囲は陛下が私のことを『息子の婚約者』として認めたのだと勘違いして、王子と婚約を結んでしまった。

 否、最終的な決定権は陛下にある。

 陛下は、私を『息子の婚約者』として見ることを選んだ。

 私も陛下の意思を汲んで、恋心を隠し、『義父』として敬うことを決めた。

 だけど、王子が私を蔑ろにしてヒロインと浮気していると知ると、あんなに愛した人との間に産まれた王子を大事にしていたのに、ひどく怒り、そして頑なに越えようとしなかった一線を越え、私たちは結ばれた。


 浮気していたのかと元婚約者に詰め寄られたが、婚約して以降、私には(・・)彼からの贈り物がひとつもなかったこと。

 婚約者として交流する意思を彼から感じなかったこと。

  彼は、私ではなくヒロインの色を纏い、ヒロインも王子の色を纏っていたこと。

 最近の社交の際、彼の色ではなく陛下の色を纏って試したが、それを指摘するどころか気付きもしなかったこと。

 婚約者とは名ばかりの冷めた関係だったことも、王子の寵愛が明らかに私ではなくヒロインにあることも、周知だった事実。

 なにより、お前が言うな、状態であること。

 なお、王子との婚約が破談になり私に瑕疵が無い場合は、そのまま陛下の側室候補になるという契約を最初から交わしていたことも告げた。

 私は『王子』にではなく『王家』に嫁ぐ者。

 万一王子との間に何かあった場合(・・・・・・・)の保険は必要だろう。……と、陛下と両親と話し合って婚約式の後に追加したのだけど、どうやらその時点で彼はヒロインに夢中になっていたようで、確認もしなかったらしい。


 私の反論に呆然とする息子に陛下が言い放った「どうであれ、お前は約束された地位(婚約者)ではなく浮気相手(真実の愛)を選んだのだろう?」という言葉で、元婚約者はヒロインと共に膝から崩れ落ちた。




 ねえ、予定調和の真実の愛で満足しているヒロインさん。

 これこそ『真実の愛』だと思わない?




 そうして私を蔑ろにしていた浮気者の元婚約者は幽閉。

 多くの貴族を誑かした上に私に嫌がらせ(・・・・)していたヒロインは、彼女の取り巻きたちと一緒に、私が婚約破棄後に入れられるはずだった辺境の修道院に。

 ヒロインに誑かされたキャラ達もそれぞれの家から追い出され、隣国の王子は友好国の寵妃を蔑ろにしたとして王位継承権剥奪の他に相応の罰が与えられると言う。


 そして私はよくある『悪役令嬢』らしく、陛下に溺愛されてハッピーエンド、というわけ。


 めでたしめでたし。




 * * *




 そう、この世界は、元はゲーム。

 転生後のスタートもよくある幼い頃から、じゃなくてゲームのチュートリアルである『ヒロインと出会う学園に入学する前の、王子と悪役令嬢の婚約』からだった。世界もキャラ達の存在もずっとあったけど、前世の私の意識がはっきりしたのがそこから。という感じだろうか。

 これはヒロインも同じで、意識がはっきりしたのは学園に入学するメインストーリーからだったらしい。


 そんなヒロインが攻略していたのは、ガチャで得られるSSRの、しかもメインストーリーに関わっている学園のキャラのみ。

 要するに爵位の高い、イケメンの男子だけを侍らせてた。


 対して私が唯一攻略した陛下は、チュートリアルでしか喋らない。断罪イベントでも、スチルの背景の奥のほうに座っているのがぼんやり見えているだけの、Nキャラ。


 だけど、実は今回の逆転劇は、陛下の攻略が鍵になっている。


 まずゲーム内のキャラにはレベルや体力、知力といった基本的なステータスの他に『好感度』というものがあって、好感度に応じて称号があり、称号ごとにホームで聞ける台詞やキャラエピソードが読めるようになる。

 好感度最大では『親友』という称号がもらえるのだけど、特定条件で『隠しシナリオ』を解放して読むと、『親友』以上の『恋人』という称号がもらえる。

 これをもらうと『親友』まで聞けていたボイスが通常で聞けなくなる代わりに『恋人』の特殊ボイスになる。

 ただそれだけでキャラのステータスに変化があるわけじゃないから、推しキャラだけシナリオ解放したり、図鑑埋めに収集したり、その辺りは人それぞれだった。


 キャラによって隠しシナリオの解放条件は異なっていて、陛下の場合は『陛下のみ好感度を最大し(他のキャラの好感度は上がっていないこと)、シナリオ解放用のアイテムを使うこと』だった。

 ゲームでの陛下はチュートリアル終了時にもらえて、尚且つ低レアだからアイテムで完凸まで重ねやすく、ステータスの育成アイテムも手に入れやすい。

 ただ、隠しシナリオ解放に使うアイテム『正妃からの手紙』の入手と、好感度上げが少し手間だった。


 まず解放用アイテムは、メインストーリー攻略で加入する宮廷医師が持っていて、彼の好感度上げて『親友』になった後でしか得られない。

 先にも言ったように陛下の他に好感度が上がっているキャラがいると陛下の隠しシナリオが解放できないから、このキャラは解放アイテムをもらったら削除しなくてはならないが、ガチャでは出ないキャラなので二度と手に入らない。

 しかもこの宮廷医師、レアリティはSRだけど、実は序盤に無料で得られる貴重な回復役で、蘇生や全体回復の高スキルを持っているのはSSRが主だが、SRで持っているのはこの宮廷医師のみだった。

 無課金勢やガチャでなかなか回復役を引けないプレイヤーにとっては神キャラだったけど、私は陛下にしか思い入れがなかったから、ゲームでは割りとあっさり宮廷医師を削除した。

 一度図鑑に登録されれば削除しても台詞とかキャラのストーリーは見られるし。


 次に好感度は、ゲームでは編成に入れて戦闘で使ってキャラのレベルと同時に自動で上げたり、アイテムを使用して上げる。

 しかし陛下以外のキャラの好感度が上がっていると陛下の隠しシナリオの解放ができないため、どうしても陛下のみの単騎編成で攻略していくしかない。

 育成次第で単騎編成でも中盤まではいけるけど、時間がかかるし、なにより陛下より強いキャラはいっぱいいる。チュートリアル後にもらえるといっても、元々は編成に入れて戦闘させるキャラではないのだ。


 しかも陛下のみ隠しシナリオを読んで『恋人』になると、他キャラと『恋人』になれなくなる仕様になっている。

 言ってしまえばゲームだから複数のキャラと『恋人』になれるけど、陛下に関しては開発側がこだわったらしく、とにかく一途であることを求められた。

 陛下の隠しシナリオ解放は彼を推してる人じゃないとやらないだろう、とまで言われていた。

 まあ、サブアカウントで解放して隠しシナリオを見ていた人もいたけど。


 だけど前世の私の最推しは、陛下だ。

 モブ扱いとはいえキャラデザはイケおじ、ボイスも低音でしかも渋いことで有名な推し声優が起用されていて、性格も好み過ぎて、チュートリアルで一目惚れした。

 だから打算(・・)抜きにしても、陛下だけ好感度を上げることに躊躇いはなかった。

 何故ゲーム内で陛下のみ一途であることを求められたのか。実際に生きている陛下と接して、亡き正妃様だけを愛し続けている彼を口説くのだから、一途でなければ陛下もこちらを良く見ないという意図だったのだろうと、改めて思わされた。

 そしてそんな陛下が、この世界でも本当に好きになった。

 本気になってしまったことと、陛下だけ攻略して何度も何度もストーリーを読んでいたこともあってか、この世界の選択肢の無い会話だけで好感度を上げていくやり方でも攻略は順調だった。

 だけど、その前段階。アイテムをもらうため『親友』になった宮廷医師の『削除』はどうするかかなり悩んだ。

 彼が正妃様の死に関わっていたことが彼の隠しシナリオで判明することは知っていたから、ここではそれを利用して『処刑』という形でどうにかしたけど……正直後味はよくなかった。

 なにせ陛下の攻略のためとはいえ『親友』になるまで決して短くない時間をかけて交流したのだから、情がわいたというか……。

 この一件と正妃様の手紙を渡したことで陛下が私を恋愛対象として見てくれるようになったとはいえ、私が宮廷医師に与えたのは明確な『死』なのだから、複雑な心境にもなる。


 でも私には、陛下が推しキャラじゃなかったとしても、この打算(選択肢)しかなかった。


 どう足掻いても世界はストーリーに沿って動いている。

 実際にヒロインを虐めていなくても周囲は私を『悪役』として彼女を害する存在だと認識されていた。

 今は彼女に手を出していなくても、いつかは、絶対……。

 常にそういう目で見られていたから陛下に頼んで私に王家の影をつけてもらい、念のため冤罪を被せられたときの対策を取った。

 まぁ、冤罪はなかったけど。冤罪、は。

 そして私の将来のため、彼らより力があるキャラを味方にするため、国の最高権力者である陛下を攻略する必要があった。

 最高権力者(陛下)の寵愛があれば、婚約破棄後に修道院に入る展開は無くなる可能性があるし、上手くいけば側妃として、義母として、浮気した二人をちくちくイビる立場になれると思ったからだ。

 まぁ、義母として存在しているだけでも充分二人に対する嫌がらせにはなったのだろうけど。


 一番懸念していたのは、ヒロインの妨害だった。

 陛下の隠しシナリオはレアリティの割りに解放の難易度が高いことや特殊な仕様が界隈では有名だったし、陛下の攻略でしか『削除』されない宮廷医師が消されたことで私が陛下を攻略していることを彼女に知られるだろうと覚悟していた。

 だけど、ヒロインは陛下には興味がなかったらしく、邪魔が一切入らなかった。

 もしかしたら陛下はチュートリアルのみで、メインストーリーには全く関わっていないから、ここでは発言力が無いと思っていたのかもしれない。


 その結果。

 私の身は守られ、『悪役令嬢』に攻略された陛下の手によって元婚約者の廃嫡、ヒロインは修道院、他キャラもそれぞれ罰を受けるという、ゲームには無かった顛末になったのだけど。


 仮説だけど、私がプレイしていたときメインストーリーは婚約破棄を言い渡してヒロインと王子が手を取り合うところまでで、その先は存在してないから、ゲームの拘束力が無くて上手くいったのだろう。

 だから今後も心配してない。


 メインストーリーの後に更新されているのはキャラの掘り下げイベントで、そのキャラたちのほとんどは今回の一件で処分されている。なにより、イベントは自由参加だし、ヒロイン(プレイヤー)は不在。

 まあ、ログインされなくなったゲーム、ってところでしょう。


 改めて、めでたしめでたし。

 ふふっ。




 * * *




 あの女が鉄格子越しに語った全てを聞いて、やられたと思った。


 ヒロインである私をストーリー通りに虐めてこなかったことから『悪役令嬢』も同じ転生者だと判断した。

 だから高レアリティのキャラだけを選んで攻略して『恋人』にしていった。SRキャラでも好きなキャラはいたけど、ゲームを攻略する(・・・・・・・・)なら強いキャラで固めた方がいいと思ったから。

 あと囲まれるならイケメンの方が絶対いいに決まってるし。


 『断罪』イベントにはならなかったけど、最推しだった王子様はあの女との婚約を破棄して私の手を優しく取って、メインストーリーは恙無く終わった。


 なのに!


 スチルの背景だったはずの陛下をあの女は攻略していて、廃嫡だの寵愛だの側妃だの言ったと思えば、私はあっという間に牢に入れられ、そのまま『悪役令嬢』が入るはずだった修道院に送られてしまった。


 陛下の隠しシナリオのことは、もちろん知っていた。

 だけどまさか、実際にやってるなんて思わないじゃない。だって他のキャラの隠しシナリオ見られなくなっちゃうし。

 だからあの女がゲームでも陛下だけ隠しシナリオを解放して『恋人』の称号を取って、陛下だけ育成して編成にも常に入れて使ってた、って聞いたときは、ちょっと引いた。

 しかもくっついて側妃でしょ……ガチじゃん……。

 私はゲームでも陛下の好感度上げは全然していなかったから、興味も無かった。そもそもNキャラでそんなに強くないし、声は嫌いじゃなかったけど、イケメンキャラでイケメン声優使ってる最推しの王子様に比べたら、ね。

 それに王子様を攻略して『恋人』にする方が手っ取り早いのではと今でも思う。

 好感度上げのスタートも一緒だったし、一応婚約者だからあの女にも王子様を『恋人』にするチャンスはあったはず。『恋人』にしてしまえば婚約破棄イベントは起きなかっただろうし。


 だけどあの女は王子様ではなく、『最高権力者(陛下)』を利用して、立場を逆転させた。


 ゲームの主人公は、ヒロインの私。メインキャラはSSRの王子様達。

 だけどここは、ゲームの世界だけど、ゲームじゃない(・・・・・・・)。私やあの女にとっての現実の世界。


 背景とはいえ、チュートリアル配布のNキャラとはいえ、ゲームじゃないこの世界の『最高権力者(一番強いキャラ)』は、間違いなく陛下だ。


 だから私は王子様の攻略と同時に、あの女の攻略の邪魔をしなければならなかったんだ。

 噂で宮廷医師が死んだって聞いてはいたけど、気にとめなかった。あの時にあの女が陛下の攻略をしてることに気付いていれば、手は打てたのに……。

 お互いに転生者だとわかっていたし、なにより推しが被っていなかったんだから、協力して断罪イベントのないストーリーに改変していれば、私も未来の王妃として幸せになれてたのかもしれなかったのに。


 少なくとも嫌がらせしてなければ、あの女は私を助けてくれたかもしれない。

 王子じゃなくなったけど、私だって推しキャラと結婚できたかもしれない。

 二人だけの転生者で、このゲームのユーザーなのだから、色んな話ができたかもしれない。


 だけど私は、あの女が警戒して私を虐めてこないことに調子に乗って、逆にあの女に嫌がらせ(・・・・)をした。


 持ち物を隠した。そのうち壊してあの女に見える所に捨てて、反応を見て笑うようになった。

 制服を故意に汚した。そのうちドレスにわざと飲み物をかけて、だらしないと笑うようになった。

 陰口を囁いた。そのうち根も葉もない悪意ばかりの噂を声高に吹聴して、あの女を貶めるようになった。

 肩がぶつかる程度の接触を繰り返した。そのうち服で隠れる場所だけを狙った暴力になった。


 それを王家の影に見られていたせいで、私は修道院送りだ。

 罰が甘いように見えるけど、作中ではあそこは隠れ娼館になっていて、昼は先輩達にいびられ、夜は男達に凌辱されて、死ぬ方がましだという目に遭い続ける場所だ。

 ゲーム内では明言されてなかったけど、開発者がSNSで「そういう設定なんですよ」って呟いて話題になった。やりすぎだとか、えぐいだとか。私は「悪役令嬢ざまぁ」って笑ったけど、まさか自分がその立場になるなんて……。

 生前はとっくに処女じゃなかったけど、ここでは推しに捧げるために我慢してきた。皆に胸とかは触らせてあげてたけど、大事なとこは王子のために守ってた。

 なのに、見知らぬ汚い男どもに処女を奪われる未来確定とか、最悪。だったら苦しくてもいいからさっさと殺してほしい。


 あの女は最後に、最推しキャラの陛下に愛されて幸せだと言って、心底幸せそうに笑って、去っていった。


 ああ、くそ。

 私だって推しキャラと幸せになりたくて攻略していたのに。

 だけどもう遅い。

 ゲームだけど、ゲームじゃないから、リセマラもできない。

 この世界の決まりに従っただけ、あの女は本当なら私を虐める悪役だ、だから私がやっていたのは正当防衛だ。

 そう訴えたけど、頭がおかしくなったと思われるだけだった。

 悔しい。

 悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!!

 何であの女と仲良くしておかなかったのだろう。

 それが私が幸せになるため、一番手っ取り早い方法だったのに……!

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