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ミネストローネ

(カンカンカン)階段を上がる音が響いている、今日もまた僕は屋上へ行く。なんでかって?そりゃ死ぬために決まってんじゃんか、この汚れた世界に呆れちゃったんだ(笑)だから僕は死ぬよ。…そんな事を思いながら階段を上がる。…今日こそは死んでやろうと。でも、そう思っているのは毎日の事だ、結局怖くなって辞める。勇気がある日には柵の外側に行ってみたりもするが、気づいた。(僕、高所恐怖症だった。)毎日そんな感じで生きている白月白夜は今日もまた死ねなかったのである。

白夜は臆病であった、何をするにしてもまず「恐怖」が来るのであった。そんな毎日が嫌で嫌でしょうが無かった、何をするにしても周りよりも劣っている自分が嫌で嫌で仕方がなかった。その結果白夜は退屈な毎日だと感じていた、だってやる事が全て人より劣っているのだから。

「はぁ、今日も疲れたなぁ…何もしてないけど」

白夜は中学1年生にして学校を行くのを拒絶した。人さえ無理になってしまった白夜には学校など地獄以外の何ものでもなかったからだ。行けば過呼吸になり、倒れて保健室に連れていかれ行ったら行ったで保健室の先生が「大丈夫?」などと自分のことなど何も分かってないのに心配してくる。そんな毎日が気持ち悪く感じた。

「…23時か」

白夜は毎日外に行く。無論、人がほとんど居ない真夜中にだが。イヤホンで大好きな曲を聴きながら、少し口ずさみながら、どこを目指す訳でも無くただただ歩き続けるのが白夜の唯一好きな事だった。

「今日は、いいや」

どうやら屋上に行くのが面倒くさくなったみたいだ。白夜は誰もいない家に朝6時に帰って布団に入り目を瞑った。

…こんな白夜だが恋愛というものを1度だけした事がある。今思えばあれが白夜の人生をここまで狂わせたのかもしれない。元々恋愛に興味すらなかった白夜はある日突然女友達に告白されてただただ混乱していた。

「ねぇ、白夜?俺とさ、付き合ってよ」

「…え?どういう事?」

「え?そのままの意味だけど…俺なんか変なこと言った?」「え、だって君と僕…が?」

「うん、白夜、付き合お?」

「ん、え?」

「むぅ…鈍感すぎない?」

「いや、だって僕そんな事した事ないし、何したらいいのか全然わかんない…」

「…ふはっw何もしなくていいの!特にすることは変わんないけどね、お互い好きになんないとカレカノって成立しないんじゃないかと思うんだ、だから俺待つからさもし、俺のこと好きになったら付き合お?」

「…いいよ」

「ほんと!やったぁ」

まぁ、こんな感じで告白されたはいいものの鈍感すぎる白夜であった。そこから数ヶ月経ったある日、あれは授業中であっただろうか、ふと目線をそらすとそこに彼女がいた、彼女の名は黒羽と言った、負けん気が強く、男の子にも余裕で喧嘩をふっかけるやんちゃな子であった。白夜と黒羽は小学校に入ってから友達になった、告白されたのは小学校6年生の時だ、その時の白夜はまだ可愛くどちらかと言えば女の子みたいな子であった。黒羽を見ていると目が合った。それに気づいた彼女はその瞬間微笑んで小さく右手で手を振った。白夜はドキッとした、体がどんどん熱くなる、口から心臓が出てきそうなこの気持ちはなんだと思った。これが白夜の初恋であった。そこからというもの何かと黒羽のことが頭に残っていて、もはや黒羽の事しか考えられなくなっていた。そして、ある日黒羽が

「白夜!今日一緒に帰ろ?」

「ん、いいよ」

と返したはいいものの白夜の心臓はバックバクであった。なぜなら今日告白の返事を返そうと思っていたからである。

(白夜ならいける白夜ならいける白夜ならいける)

と自負する白夜であった。

その日の帰り、白夜の隣には黒羽が居た。白夜は黒羽よりも学校から家が遠い、だから黒羽を家に送ってから自分は家に帰る、つまりその間に言いたいことを全て言わなければならない。だから白夜は頑張った。言えるように

「そういやさ〜あのパン屋さん白夜行ったぁ?」

「ん、いやまだ行ってない…」

「俺も行ってないけんさ、また今度行こーや」

「いいよ」

「…白夜、なんかあったん?顔色悪いよ?」

「あのさ…」

「ん?どした?」

「黒羽、前告ってくれたじゃんか、」

「あ、うん」

「それでね…」

「うん」

「黒羽の事さ…」

「…」

「…ゆっくりでええよ白夜」

「…」

「黒羽の事、好きになった…」

「…だから付き合ってください」

「…嘘はついてない?、無理はしてない?」

「してない…」

「ふはっwありがとw」

「よろしくお願いします、白夜!」

「…いいの?」

「何言っとんよ告ったん俺やよ?w」

「…いや、僕で良かったのかなって」

「白夜”が”いいんです!」

「…これ、喜んでいいやつだよね、?」

「うんっ!」

「えへ、やったぁ」

(何だこの天使……)

「んじゃ、改めてよろしくな!白夜!」

「こちらこそよろしくね、黒羽」

こんな感じで付き合うことになったが、終始白夜の心臓は破裂しそうであった。そこから毎日が幸せであった。春は花見に行って、夏は海に行って、秋は紅葉を見に行った。全部白夜にとっては初めての事でありいつも目をキラキラさせていた。ただ幸せはいつか終わりが来る、それはこの2人にも降り掛かってきた。12月、冬休みになってクリスマスが来た。その日は雨が降っていて外に出れなかったので黒羽の家でお家デートをする予定だった。昼の11時に用意がすんでそのまま黒羽の家に向かった。黒羽の家の前に着くと、何やらいい匂いがする、なんの匂いだろうか。チャイムを鳴らすとエプロンを着た黒羽が出てきた。

「いらっしゃい、白夜」

「…この匂い、何?」

「あーw今日寒いでしょ、あったまれるようにミネストローネ作ってたんよw」

「…僕の為に?」

「うんっ」

「…ありがと」

「どういたしましてっ、さっ、入りな」

「お邪魔します…」

自分の為に料理を作ってくれる黒羽の事がまた好きになった。

「はいっ、どうぞ」

「…いただきます」

「美味しくできてるかな、?」

「…暖かい」

「味じゃないんだw白夜らしいw」

「…美味しい」

「よかったぁ…」

「…ほんと、ありがと」

「いえいえ、これぐらいならいつでも作るよ」

「…また作って欲しいな」

「もちろんっ」

そのミネストローネは暖かかったが、それはただ単に暖かかっただけでなく黒羽の心の温かさ故の暖かさだと思った。

…その次の日黒羽は死んだ。自殺だった。自室で首を吊って死んでいるのを家族が見つけたらしい。その事実を白夜が知るまでにそう時間はかからなかった。それを知った時白夜は悲しいよりも先に感情が消える方が早かった。精神は当たり前のごとく崩壊した。昨日まで目の前で笑っていた人がもうこの世には居なく、二度と話すことも出来ないと考えたらもう、何も思い浮かばなかった。ただただカッターで腕を傷つけながら血を流すことしか白夜にはできなかった。その日から白夜は変わってしまった。人と話さなくなって、話せば過呼吸を起こし毎日腕から血を流す。そんな毎日を繰り返していた。

そこから白夜が夜の街を徘徊し始めるのは必然と言えただろう。そんな白夜に嫌気が差し、兄弟、両親、ついには祖母にまで見捨てられてしまった。今はそのアパートで暮らしながら大家さんに面倒を見てもらっている(面倒を見てもらっていると言っても家賃を払っていないのを見逃してもらっているだけだが)そんな場所で過ごして早2年。腕には数え切れないほどの傷がついていて、布団は所々血だらけになっている。ほとんど廃墟とかしたこの部屋で今日も白夜は目を瞑る。誰もいない部屋に向かっていつも白夜はこう言う。

「おやすみなさい」

黒羽が死んだあの日からちょうど2年が経った日。白夜はいつもの屋上にいた。

「はぁ、今日も死ねないなぁ…」

「それにしてもここって高いなぁ…」

「柵の向こう側、久しぶりに行こ」

「うわっ、やっぱ怖いなぁ…」

(パラパラ、ザーッ)

「うわっ、雨降ってきた」

雨というものは一瞬で辺りを濡らし、時には命まで奪う。

「うわぁ、服びちゃびちゃだぁ」

「もーどろっ、」

「あっ」

これが白夜の最後の言葉となった。不運にも雨で足を滑らせマンションの6階から真っ逆さまに落ちた。足から落ちれば助かったのかもしれない…白夜は頭から落ちた。

「ドンッ」

という鈍い音とともに白夜はこの世から去った。雨でできた水溜まりに血が流れ出ていて、皮肉にも、それはあの日のミネストローネと同じ色になっていた。ただ、あの日と違うのはそのミネストローネは温かさなどなくただ冷たいだけであった。




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