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黒猫と戦国のお姫さま  作者: 市川甲斐
1 捨て猫
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(7)

 伊織はドキッとしてインターホンの画面の前に立った。そこには、若そうな女性と男性の姿が映っている。知らない人間だが私服のようであり、少なくとも警察ではなさそうだ。すると、海未もその画面を覗いた。


「あれ? 菜月じゃない」


 彼女はそう言って、「はーい。今行く」とインターホンで答えて、玄関に向かった。伊織もその様子をリビングからそっと見守る。


「ごめんね。朝早くから。ちょっと彼と出かける予定があったから、ついでに寄らせてもらったの」


「大丈夫よ。どうしたの?」


「実はこれ。海未の時計じゃないかと思って。昨日の飲み会の時、いつの間にか私のバッグに入っていたみたいだったから」


「あっ、本当。ちょっと飲みすぎちゃったから間違えたのかな。ありがとう」


「うん。……あれ? ちょっといい?」


 女性の声の後、しばらく静かになった。そして、何か小声で何か喋っている声がしたが、海未が急に「どういうこと?」と言う声が聞こえた。その声にリビングから顔を出して玄関の方を見ると、海未は女性たちを家の中に上げてきた。慌てて海未に近づいて小声で言う。


「ちょっと……姉ちゃん、大丈夫なの?」


「いいの。あの子に関係ありそうだから」


 海未はそう言って、リビングに女性を案内した。その女性は、背中の中ほどまで伸びた黒髪に、ベージュのロングコートをまとっている。海未よりも長身で、大きな瞳も目立つ。読者モデルでもやっているような、かなり綺麗な女性だ。そして、その後ろから、細身でかなりイケメン風の若い男もついてきた。すると、その女性はリビングダイニングの入口で、テーブルの前に座っている梓姫の方を見てハッとした。


「この子——」


 それだけ言って、女性は黙ったままじっと梓姫を見つめる。


「何じゃ。そなたは」


 梓姫もやや不審そうに女性の方を見つめると、その女性はニコッと笑顔を梓姫に向けた。


「大丈夫です。私はあなたの敵ではありません」


 そう女性が答えると、「まあ座って」と海未が椅子を案内した。


 女性は竹内菜月、男性は猪野遥人と名乗った。二人は付き合っていて、県北にある同じ村の出身らしい。菜月は海未と同様に4月から小学校教師になるらしく、海未とは教育実習で知り合ったという。


「菜月はね。第六感みたいなものがあって、結構、占いとかも当たるのよね」


「そんなこともないんだけど……。ただ、さっき、家の中から不思議な光が見えて、ちょっと気になったから、見させてもらおうと思って」


「光……ですか」


 伊織は昨日、ベランダから黒猫を部屋に入れた時の事を思い出す。すると、菜月は頷いてから、梓姫の方を向いた。


「ちょっと聞かせてほしいんですが」


「何じゃ、一体」


「あなたは、真月神社を知っていますね」


 菜月が尋ねると、梓姫は彼女の方をじっと見つめた。


「そなた……どういう事じゃ」


「私達はそこの関係者なんです。もしかして、こういうものを持っていませんか」


 菜月はそう言って、自分の左手を彼女の方に向けた。その薬指には指輪がはめられていたが、そこには黒っぽい石が付けられていた。


「それは……月の石か」


「ええ。でも、あなたが持っているものの方が、たぶんずっと強い」


 菜月が言うと、梓姫はその方をじっと見つめてから、自分の首に掛けられた紐を引き上げる。そしてそれにつけられた袋を広げて、中に手を入れ、そこから真っ黒な石を取り出した。それは黒く怪しく光っているように見える。


「これは母上の形見の品。母上は、これのことを『月の石』だと言っておった」


 梓姫が答えるのに、菜月は頷く。そして、その石に手を伸ばそうとした。すると、隣で黙っていた遥人が急にその腕を掴んだ。


「待って、菜月。大丈夫かな?」


「そうね。じゃあ、念のため」


 遥人はその左手を菜月の右手と繋ぐ。そして菜月は、左手で梓姫の持っている黒い石に手を伸ばした。その瞬間だった。


 バチン!


 火花のような強い光が飛び散った。海未が「キャッ」と悲鳴を上げる。伊織も驚いて反射的に体を引いた。菜月は既にその黒い石から手を放して、それをじっと見つめている。


「何……今のは」


 海未が青ざめた表情で菜月に尋ねた。すると、菜月は大きくため息をついて、海未の方に顔を向けた。


「ちょっと、困ったことになってるかも」

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