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黒猫と戦国のお姫さま  作者: 市川甲斐
3 迷い猫
25/55

(3)

 車は広い砂利の駐車場に入っていった。既に辺りは暗くなっていたが、そこに1台の黒いミニバンが停まっている。その車の近くに海未が車を停めて3人が車を降りると、そのミニバンから、菜月とその彼氏の遥人が降りてきた。


「ありがとう。ごめんね。こんなところまで呼び出して」


「大丈夫。こっちこそ遅くなっちゃって。ここって、向日葵ひまわり畑が有名な場所よね」


「そうそう。でも冬は咲いていないから全然風景が違うのよね。この時期は、向日葵の種とか茎を使った加工品を作ってるの」


 そう言われて思い出した。この辺りは高原地帯で、夏の時期は向日葵畑が一面に広がっている風景が有名な地域だ。しかし、薄暗い中で見える範囲では、所々に何かの作物が植えられているようだが、大部分はただの地面が広がっている。すると、菜月は梓姫の方に顔を向けた。


「やっぱり……進んでいるようね」


 菜月は梓姫の姿を見つめて言った。


「えっ? どういうこと?」


「ううん。……じゃあ、私達の車の後ろからついてきてくれる?」


 菜月たちはそう言って車に戻っていく。伊織たちも同じように再び車に乗り込んだ。



 彼らの黒いミニバンの後ろをついていく。車はどんどん細い坂道を上がっていき、やがて辛うじて車が1台通れる程の細い道になった。深い森の中を通るその道の周りは、既に真っ暗で何も見えない。菜月たちの車が前を走っていなければ引き返したくなるような感じだったが、その道をかなり進んだ先で、急に森が切り開かれた広い場所に出た。車はそこでようやく停まった。


 車を降りると、冷え切った風が頬を撫でた。街灯が一つだけあって、その光が大きな色あせた朱い鳥居を暗闇から照らし出している。そこから参道のような砂利道が少しだけ続いているようだが、その先は真っ暗で何も見えない。何か不気味な感じがして背筋がゾクッとした。


「行きましょうか」


 菜月と遥人が先に立って歩いて行く。辺りには人気も全くない。このような奥まった場所にどうして神社があるのだろうかと不思議に思いながら歩いて行くと、暗闇の中にぼんやりと神社の建物が見えてきた。それは古そうな木造の建物だった。


 すると梓姫が突然立ち止まった。


「待て。ここは……」


「どうしたの?」


「ここは……月の里の真月神社ではないか」


「月の里?」


 尋ねる伊織の前から、菜月が振り返って答えた。


「ええ。ここは真月神社。かつては、月の里と呼ばれた場所にあった神社だと言われています」


「そうなのか……ここが」


 梓姫は黙ったまま建物を見上げる。


「さあ。寒いですから、中に入りましょう」


 菜月が言って、その建物の引き戸を開けた。


 中は真っ暗だったが、遥人がスイッチを入れると天井に付けられた電灯が光った。さすがにこのような山奥でも電気はきているらしい。そして彼は、置いてあった3台の石油ストーブに順番に火をつけていく。ボッ、ボッ、と音を立てて少しずつ火がついていく。


「ストーブの周りに座ってください」


 遥人はそう言いながら、部屋の端に置かれていた折りたたんだパイプ椅子をストーブの周りに置いていく。伊織もそれを手伝ってから、ストーブの周りに座った。

 

 しばらく無言でその場所にいた。ようやくその場所が温かく感じられるようになった頃に、本殿の引き戸がガラッと開いた。


「あっ、先生。ありがとうございます」


 菜月が入口に近寄って行く。入ってきたのは、少し皺の寄った60代くらいのお婆さんだった。


「いいのよ。私はもう暇にしてるから。水月みづきちゃんもこういう時に限っていないのよね。それよりも——」


 彼女が梓姫の方に視線を向けた。そして、ゆっくりとその前に近づいてくる。


「あなたね」


 それだけ言って、梓姫の顔をじっと見つめた。


「そなた、一体何者じゃ」


 不審そうに梓姫が言うと、女性は少し笑顔を見せて答えた。


「そうね。急にごめんなさい。でも、私達はたぶん、あなたと関係が深い」


「私と?」


「ええ。私達は、かつて月の里の長と呼ばれた人の末裔です」

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