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赤いきつね3個男と半熟似たまご女

夢じゃないだろうか。

私の大好きな人が目の前で『赤いきつね』を食べている。


(グシャ)


「あ・・・」


放課後の家庭科室。

料理部の、半熟似たまごの研究のために持ってきた、たまごパック10個入り198円を今、落としたところだ。


ドアを開けたところで、私の大好きな人が目の前で『赤いきつね』を食べている。

それも、2個目。


「あ、わり・・・驚かしたか?」


「いえ・・・」


彼の名前は、山田幸太郎くん16歳。

インターハイ水泳で県内2位の大有望株の期待のルーキー。


小学校の時は、日曜日に一緒の水泳教室に通っていた。

家が近所だったのと、親同士の仲が良かったので、水泳教室の後に一緒にご飯を食べることもあった。


日曜日の水泳教室の後はカップ麺。

何となくこの頃のスタンダードになっていた。

日曜日の昼とプールの塩素のにおいとカップ麺が私のイメージではつながっている。


こーちゃんは、どんな種類でも必ずカップ麺にたまごを入れていた。

私は何も入れないのが好きだった。


だけど、小学校5年生になったとき、クラスの男子たちに揶揄われて、こーちゃんとはあまり話さなくなった。

私は逃げたのだ。


中学は同じ中学だったけど、やっぱり一言も話していない。

でも、こーちゃんは水泳部に入って活躍していた。

高校も何とか進学先を調べて、ついていった。

こーちゃんは当然のように水泳部に入った。


私は、何となく料理部に入った。

何となく、『最高の煮たまご』を完成すべく、ゆで時間やたれに漬ける時間、たれの調合などにこだわっていた。


入学から半年以上経つけれど、一言も話せていないのが現状だった。

もう、こーちゃんは私を忘れている。

私だけはこーちゃんを忘れられていない。


それが今。


「いや~、部室のポットが壊れてさ。部活始まる前に食べておきたくて」


「あぁ、家庭科室ならお湯が沸かせますからね」


「ああ、何個か割れたな・・・ごめん」


こーちゃんが私の落としたたまごパックを拾ってくれた。

たしかに、たまごは、最低3個は割れている。

視界に入った。


でも、今はどうでもいい。

たまごさんには申し訳ない。

後で私がおいしくいただくから、考えるのは少し後にさせて。


恥ずかしくて顔が上げられない。

せっかくのこーちゃんの顔が見れない。


きっと『根暗な料理部員の女子』と思われているに違いない。


「これ食べたら退散するから」


こーちゃんは、3個目にお湯を注ぐとそう言った。

挨拶もなかった。

『よう、久しぶり』みたいな。

もう、私のことなんて忘れてしまっているだろう。


長い髪が好きだと言っていたので、私は髪は小学生のころから伸ばしていた。

それも小学生の頃の話。

今、私は知らない女子。


「あのっ・・・」


「はい?」


「試食っ・・・してもらえませんか?もし、よかったら・・・」


「試食?」


「に、煮たまご・・・作ったのがあるので・・・」


昨日、作って冷蔵庫に入れておいた半熟煮たまごがあったはず。


「マジ!?食べる食べる!そろそろ味変したくて」


私は冷蔵庫から作っておいた煮たまごを出す。

丁寧に殻をむいて、包丁で2つに切る。

指が震える。

今だけは止まって!


黄身が黄金色になった煮たまごだ。

研究に研究を重ねた自信作。


お湯を注いでから5分以上は経ってしまったが、こーちゃんがふたを開けたところに煮たまごを入れる。

料理用の手袋はしたけれど、知らない人の料理なんて気持ち悪かったかな・・・


多分、もう、一生こんなことはないだろう。


「すごい!黄身が金色だ!食べていい!?」


「あ、あの・・・どうぞ」


食べるのが早い。

研究に3か月。

調理に30分。

たれへの漬け置き時間24時間。

殻向き5分。


それが一瞬でなくなった。

3個目の赤いきつねと共に。


「うまかった~。ありがと、煮たまご」


「いえ・・・良かったです。あの・・・わたっ、私のこと・・・」


「え?」


「いえ・・・部活頑張ってください」


「ありがと。あの・・・小園千晴こぞのちはるさんっ!」


「は、はいいっ!」


突然名前を呼ばれた。

何が起こったのか分からなかった。


「また昔みたいに話しかけていいかな?」


「はい」


ちゃんと返事できたかな。

こーちゃんどんな顔してたのかな。

何でか涙がこぼれてきて何も見えなかったから・・・

こちらもよろしくお願いします。


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