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練習③



 皆が見えなくなったとき琴海が話し出す。

「球宮くん、これもあなたの想定内?」

「……いえ、こうなる可能性はありましたがそれでも一パーセント未満でした。最悪の想定内は休憩が一回ある程度でしたので。でもあれを見る限り休憩なんてありませんよね」

「球宮くん……」

 琴海は元成に何かを言おうとしたがやめた。琴海が元成の顔を見ると完全に切れたかのような顔をしていたのだ。

「すぅぅぅ、はぁぁぁ。先生俺のカバンにスポーツドリンクが入っているので山之内達に渡してきてくれませんか? あの三人が帰った後に、それとこの紙も、本当はあの三人にも書いてほしかったんですが六人に渡してくれればいいです」

「うん、わかったわ」

 そう言って元成のカバンを持ち、琴海は部室に戻っていった。それから十数秒後に朋紀たちが帰ってきた。

 しかし、表情はとても怒りに満ち溢れていた。

「チッ、あいつら! 自分たちだけ練習さぼって何が疲れただ!」

「落ち着きなさい、朋紀」

「これが落ちついてられるか! このままじゃあいつら本当に壊れちまうぞ!」

「分かってる。でも、これであの人たちがこの部活にいられなくなると思うと我慢できるわ。一応さっき秋穂にも、今は我慢して、って伝えたから」

 二人は言い合いながら元成のところに向かう。

「茅山、海熊、バレーをするときは怒りの感情をあまり持つな。それはバレーに失礼だ」

「つってもな~」

「大丈夫だ。もう対策は考えている」

 元成の「対策を考えている」という言葉にひとまず落ち着く朋紀と朱莉。それを見た元成は次の練習内容を伝える。

「次の練習内容は茅山のサーブ強化だ。海熊、この黄色いラインに〇を合わせるから、ここから十七メートルまで引っ張ってそこで構えていてくれ」

「分かったわ」

 朱莉は言われた通りメジャーを引っ張り十七メートルの位置まで行き、そこに立った。

「よし茅山、今からジャンプサーブを打ってもらうが、ラインを越えないようにして海熊のところまでノーバンで打て」

「? ネットがないけどいいのか?」

「あくまでこれはラインを越えないように飛ぶ練習だからな。サーブコントロールはその後だ」

「オッケー」

 朋紀は右手にボールを持ち上に上げる。それと同時に助走を開始し腰を落として上に跳びボールを打つ。ボールは朱莉の前でバウンドして転がる。

「あークソ! 届かなかった」

「ついでに言うとラインも踏んでた」

「うるせぇ!」

 そんなことを言い合っていると生徒玄関から三人の人影が見えた。

「やぁやぁ君たち。こんな遅くまでお疲れさまだね」

 高原たちだった。その三人を見た元成は伝えなければいけないことを思い出した。

「明日から終わるのは五時半でいいですよ」

「マジ? ラッキー!」

 その言葉を聞いた高原たちは驚き喜びの声をあげて帰っていった。

「なるほど、球宮が言っていた対策って終了時間を早めることだったのか」

 朱莉からボールを受け取った朋紀は先程の対策について思い出した。

「まぁな、決行は金曜日なんだ。それまでに選手が壊れたら嫌だからな。だったら早く練習を終わらせて休ませた方がいいだろ?」

 元成はそれだけ言うと、朋紀の方を向いて「さ、練習、練習」と言いサーブ練習を再開させる。

 一方部室では部員のほとんどが着替えずに寝転がっていた。

「……もう、辞めようかな」

 人一倍声の小さいコウの声がとても静な部室に響き渡った。

 その声に反応して皆コウの方を見る。

「え、いや、あの、その……」

「ま、コウちゃんの言うことわかるかな~。私も去年同じこと言ったし」

 咲良は去年のことを思い浮かべながら話を続ける。

「でも、去年辞めようと思ったとき三枝先輩が話しかけてきてくれたんだ。『今は我慢だ。いつか報われるときが必ず来る』って。その言葉を聞いたとき三枝先輩自身がそう信じてるってわかった。だから私はやめなかった。コウちゃんも信じてみようよ、報われる時を」

 咲良は一通り話し終えると部室のドアが開かれ、そこには琴海がたっていた。

「咲良さんの言う通りもう少しだけ球宮くんを信じてくれないかな? 彼なら今のバレー部にある不安要素を取り払ってくれると思うから」

「先生……私ももう少し我慢するよ」

 そういうのは秋穂だった。

「さっき朱莉とすれ違った時、今は我慢して、って言われたの、だから私は我慢して待つ!」

 その声に他のメンバーも声をあげて「我慢する」という言葉が出てくる。

「うんうん、そんなみんなに球宮くんからスポーツドリンクの差し入れと。この紙に書いてほしいことがあるからこれから一週間書いてね」

 琴海は元成から預かっていたスポーツドリンクと部活動記録日誌の紙をを渡す。

「それを書いたら私のところに持って来てね。みんなが報われるようになるために必要だから」

『はい!』

 それだけ言い琴海は部室を後にした。

 部室では日誌に今日の感想や練習担当者の評価を書く欄にそれぞれ書きたいことを書いていった。

 その後、元成、三枝、華のグループも練習を終え部室で記録用紙を書きそれぞれ帰路につく。

「はい、球宮くん、今日の日誌」

「ありがとうございます」

「三枝ちゃんが言っていたわよ。バレー部のためにできることがあったら手伝う、って」

「……今は他の部員を見てくれているだけで助かってるので大丈夫です。それより先生、例のものは順調ですか?」

「うん、担当の先生に聞いたら探してくれるって」

「すみません。頭下げさせっちゃって」

「気にしなくていいよ。バレー部のためなら。それじゃあ明日もよろしくね球宮くん」

「はい! さようなら」

 球宮は挨拶をして帰路につく。

 火曜日、水曜日、木曜日の三日でグループを入れ替えていき、それぞれの選手が何とか一日を乗り切り、ついに決戦の金曜日となる。

 その日も残りのやっていない担当とペアを組ませ、元成はそれぞれの担当者に「五時半にミーティングを行うからそれまでに練習を終えて二年三組に集まってほしい」と伝える。

 伝えた通り全グループが五時半には二年三組の教室に集まって座っていた。

 元成は壇上に立ち話を始める。琴海は用事があるためまだ来ていない。

「起立、お願いします!」

『お願いします!』

「よろしく、座ってくれ」

 元成の合図に皆同時に座る。

「まず最初に今後の試合でメインとなるレギュラーを発表する。あくまで今現状だ。今後変えるかもしれないし、対戦相手によっては相性でレギュラーになることもあるので、努力を怠らないように、それじゃあレギュラーを発表するぞ」


読んでくださってありがとうございます。

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