練習試合終了後①
「増国先輩。お疲れさまです」
一つずつ丁寧にこなしていく三枝に元成は声をかける。
「球宮くん、見に来てくれてありがとう。どうだった? 今日の試合は、午前中は不甲斐ない試合になってしまったが……」
「いえ、バレー部の現状と見ることができましたし、午後の試合は面白かったですよ」
「そうか……。それでコーチの件だが引き受けてくれるだろうか?」
「……それについてですが——」
「増国三枝!」
元成が話そうとしたとき彼の後ろから来た人物の声により妨げられてしまう。
元成と三枝は声のした方を向くと、そこには大淀川高校のジャージを着た三人の女子がたっていた。
「増国三枝、今日の試合は私の負けということにしといて上げるわ。でも次戦うときは私が勝つから覚えておきなさい!」
「ははは、悪いね三枝。ボクのチームメイトが迷惑かけちゃって、でも彼女の言った通り次は負けないから」
「こら、二人とも、私たちはただ挨拶をしに来ただけなんだから喧嘩を売るようなことはやめなさい!」
絹恵、紅炎、夜光の三人だった。絹恵は腕を組み威張るように立ち、紅炎と夜光が絹恵の後ろに立っている。その三人に対して三枝は一言。
「紅炎は分かるけど他の二人は誰?」
「ぶふっ」
と言い放つ。
この言葉に絹恵は表情は変えずにいたがたくさんの冷や汗を出した。紅炎は三枝を知っているからこそ苦笑いで通す。
夜光は絹恵が自分のことをすでに知ってもらっていると思い声をかけたにもかかわらず、知られていなかったことに面白くて吹いてしまった。
「……わ、私は大淀川高校女子バレー部の主将桐山絹恵よ! 覚えておきなさい!」
「ごめんね、大淀川のキャプテンが。私は椎葉夜光。セッターをやってます。よろしくね」
「よろしく」
夜光と三枝は握手を交わす。
「とりあえず自己紹介も終わったし、仕切り直してもう一度言わせてもらうわよ。増国三枝、次戦うときは私が——」
絹恵が先ほど言ったことを繰り返そうとすると、彼女の目に元成が映る。すると絹恵はわなわなと震えだし元成を見た後に再び三枝を見る。
「ま、増国三枝。も、もしかしてそちらの男子は、き、き、貴様の、か、かかか、彼氏か⁉」
絹恵の想定外の言葉に三枝と元成は呆気を取られ、こう答える。
「違う」「違います」
二人同時に否定した。
((((これでようやく話が進む))))
四人は絹恵が元に戻ると思った。しかし絹恵のとった行動は予想だにしなものだった。
「う、わ、私に彼氏がいないからって、同情するな! 私だって彼氏が欲しいのに、私だって、……うわーん! 覚えてろ~増国三枝ー! 次会うときは、そんな奴より頭がよくて、かっこよくて、優しい彼氏を捕まえて自慢してやるからなー! うわーん!」
絹恵は泣きながら走って逃げた。
「待ちなさい、絹恵! すみません私は絹恵を追いかけますので失礼します。紅炎、後は頼んだわよ」
「了解、そっちも絹恵のこと頼むよ」
「いわれるまでもないわ」
夜光も走って絹恵を追いかける。紅炎は手を振り夜光を見送る。元成と三枝は現状を全く理解できていなかった。
「いやーごめんごめん、絹恵は彼氏いない歴=年齢だから周りの女子たちが彼氏を作っていくのが妬ましいらしく、あんなふうになってしまうんだ」
「いや、そういうことなら気にするな。ただ、私と彼は本当に恋人ではないと伝えておいてくれ。じゃなければ彼に申し訳ないからな」
「確かに、元成君にはもっといい女性がいるしね。例えばー、ボクとか?」
「ムグッ⁉」
紅炎はそう言い元成の横に行き、彼の頭を掴んで胸に抱き寄せた。
(や、やわらかい。試合中も観ていたけどこの人いい体型すぎるだろ! てか、苦しい)
元成は少しずつ足をばたつかせ離れようとする。しかし、紅炎は力強く両手で押さえているため抜け出せないでいる。
「おい、離してやれ、球宮くんが苦しそうだろ」
「え? あ、本当だ。悪いね元成くん。三枝にはない大きな胸に押さえつけてしまったせいで苦しかっただろ? 申し訳ない」
「あ、いえ」
「それで、三枝にはないボクの大きな胸はどうだった?」
「……やわらかかったです」
「ははは、正直に答えるとは、可愛い子だね」
「恥ずかしいのでやめてください」
「本当にかわいいな、ほれほれ」
そう言いながら紅炎は左手の人差し指で元成の頬を突く。
「紅炎、そこらまでにしろ。球宮くんは馬ケ背高校の生徒だ。あまりちょっかいを出すな」
今まで黙ってみていた三枝が元成の頬を突いていた左手を握り引っ張って離す。
「もー、せっかく元成くんといちゃラブしていたのになぜ邪魔をするんだい? 三枝」
「馬ケ背高校の生徒が他校の生徒にちょっかいを出されていたら助けるのは普通じゃないか」
「とか言って、本当は元成くんが捕られるのが嫌なんだろ?」
「違う」
「それなら邪魔しないでくれるかな?」
「そういうわけにもいかない。もし紅炎が生徒に迷惑をかけるようなことをしたら君たちを招き入れたバレー部の問題にもなるからな。それにもう帰らないとやばいんじゃないか?」
三枝はそう言いながら外にあるバスを指さす。そこには大淀川高校の生徒が荷物を積んでおり既に帰る準備を始めていた。
「確かにやばいね。それじゃあ元成くん、三枝、ボクはこの辺で失礼するよ。それじゃあまたね」
「お疲れさまでした」
「次にやるときも楽しみにしているぞ」
二人の声を聴いた紅炎は、笑顔のまま階段を下りてバスに乗る。
それを二階席で見届ける元成と三枝。バスが校門を通ると三枝は気になっていたことを元成に聞く。
「球宮くん、君はいつから紅炎と知り合いになったんだい?」
率直な疑問だった。三枝にとって元成はコーチになるかもしれない存在。その人物が他校の生徒と逢引きなどしていたら不信感が募るのは当然である。
「知り合いになったと言っても二試合目が始まる前ですよ。たまたまここから帰っていくバレー部の三人を見ていた時に後ろから声かけられ、少し話したくらいですね」
「なるほど」
三枝は元成の答えに頷き、嘗め回すかのように見る。
「……あの、なにか?」
少し恥ずかしくなった元成は三枝に何をしているのかを訊く。
「……いや、もしかしてと思ってみていたがやっぱりそうだったようだ」
「……え? いったい何がそうだったんですか?」
一人で納得する三枝に元成は訊き返す。
三枝から帰ってきた言葉は元成が予想だにしない言葉だった。
「ん? ああ、君は紅炎の好みの特徴なんだよ」
「……はい?」
元成はさっぱり理解できなかったがそれでも三枝は続ける。
「紅炎が求めている男性と特徴は、身長は百七十六センチから百八十二センチまで、痩せている人で髪の毛が短め、顔のパーツはどうでもいいが輪郭がシュッとしている人物だ。ちなみに性格は仲良くなっていけば分かるらしいから最初はどうでもいいらしい」
「…………」
三枝による紅炎の好きな男性の特徴話を聞き元成は口が開き呆けてしまった。
そんな元成に三枝は続けて話す。
「ちなみにだが紅炎の好みのタイプが決まったのは中学三年の頃からで、あの時から身長が百八十センチあったから誰とも付き合えたことがない。なんせ中学の男たちときたら自分より身長の小さい女子が可愛いと思っているやつが多かったからな。紅炎も告白されることはあったが全員バスケ部やバレー部と身長が高い男子だったり、紅炎をお姉さまと呼ぶ女子ばかりだったからまともの恋愛をしたことがなくてな」
「そ、それはすごいですね」
三枝の長い紅炎の過去を聞いていた元成は苦笑いで応える。
三枝が再び話し出そうとしたときチャイム音が鳴り、二人同時に時計を見る。時計の時刻は既に四時を示しており体育館はある程度片付いていた。
「もうそんな時間か。球宮くん、すまないが私はこれで失礼させてもらう。先生が仕事で忙しいため帰りの挨拶を任せられているのでな」
「あ、はい、わかりました。自分もよるところがあるのでこれで失礼します。お疲れさまでした」
「うん。今日は見に来てくれてありがとう。お疲れ」
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