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バレー嫌いの俺が、女子バレー部のコーチします!  作者: 桝田光汰朗
第一章 バレー部との出会い
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増国三枝

昼食をとって教室に向かうと二年の廊下がやけに騒がしかった。何事かと思い群がっている生徒の先頭に顔を出してみると、そこは俺の教室だった。そして、周りの生徒が視線を向けているところに俺も視線を向けると、このように群がる原因がすぐに分かった。そこにいたのは、今朝俺と目が合ったバレー部の部長で、女性なのに自分への罰として坊主にしたという噂の立っている増国先輩だった。

 それを確認した俺はそぐにその場を立ち去ることにした。俺に用があったのかは分からない。それでもこの場から離れることにした。

幸いにも増国先輩は入口の壁にもたれ目を瞑っていたので俺に気づくことはない。

人の群れを抜け出した俺はしばらくの間、第三校舎・通称芸術校舎で時間をつぶすことにした。昼休みとだけあって人は誰もいない。昼に浴びるからこそ風がとても肌身に染みる。

 階段を使って最上階の四階まで昇る。ここは俺のお気に入りの場所の一つだ。

 風が気持ちよく、山の上なので見渡す景色も悪くない。階段を使って昇るのは正直つらいがこの景色を見るためならば何の苦でもない。

「もっと強い球来ーい!」

……人が気持ちよく風にあたっているのに大声を出しているのは誰だろうか。近所迷惑にもほどがある。

「ちゃんとボール見て! 逃げたらだめっ!」

…………ちょっとうるさいと注意してやろうか。

 しかし俺はこのことを後悔するのであった。

声のするところに向かう。ここは四階なので上から見下ろす形になってしまう。

声のした場所は生徒玄関と駐輪場の間だった。そこまではいい、……そこまでは。

声がした場所には二人の女子生徒がいた。その二人はバレーボールを使いレシーブ練習をしていた。うちの学校はボールの持ち込みは禁止である。つまり、今使っているバレーボールは女子バレー部のボールということになる。

もしこれがただ遊んでいるだけなら別にいいのだが、二人の生徒は明らかに本気でやりあっている。つまりあの二人はバレー部の部員で、ただ今練習中というわけだ。

もしかしたら今日は厄日かもしれない。去年はバレーに関わることなんてあまりなかった。それなのに今日はよくバレーに関わってしまう。もうこれ以上関わらないように、端のほうまで行き再び景色を見る。

「やっと見つけた。ずいぶん探したよ」

 静かに外の景色を見ていたけど誰か来てしまったらしい。声からして女性の声だが少し低い。どうしてか振り返らないほうがいい気がしてきた。

「できればこちらを向いてくれないか? 顔を確認したい」

 そうか、人違いの可能性もある。正直言ってこの学校に話す男子は少しいても、話す女子はほとんどいない。俺の勘が振り返らないほうがいいと言っているが、静かにしてもらうために人違いだと認識してもらおう。

 振り返るとそこにはよく知った顔の人がいた。

「間違いじゃなくてよかった。君が今朝私たちの練習を見ていた生徒だね?」

「違います、人違いです。僕バレー嫌いなので先輩の練習を見ていません」

「……私、バレー部って言ったっけ?」

 しまった! 早く逃げたいがあまりボロが出てしまった。……いや、まだ何とかなる。

「せ、先輩って有名じゃないですか。去年、自身のミスで負けたから坊主にしてきたって、それで分かったんですよ」

「なるほど、よくわかった」

 ようやく理解してくれたようだ。これで静に過ごせ——

「今朝、私たちの練習を見ていたのが君だということがね」

……はい?

「私、昔から耳がよくてね、ある程度の声なら聴きとってしまうんだ。そして君の声は今朝私たちの練習を見ていた男子生徒の声と同じ音だった」

「お、俺、声は出していませんよ?」

 これは最後のあがきだ。これを論破されてしまったらもう諦めるしかない。

「言っただろ? 私は耳がいいと。私は君が言った言葉をしっかり覚えている。まじめにする気がないなら練習するなよ、だったね。その前に舌打ちもしていたけど」

 これはもうお手上げだ。ここまで完璧な証拠を出されたら言い逃れすることはできない。

 だがよく思えば今朝俺が言ったことへの文句かもしれないし意味を聞きたかったのかもしれない。それなら逃げる必要もないし、バレーに関することでもないだろう。

 ……なんだ、俺の早とちりか。

「それで要件は何ですか?」

「今朝の発言と、私たちバレー部のことについてだ」

 すべての希望が崩れ去った。今すぐここから逃げたい。もしかしたら今日は本当に厄日かもしれない。

「このまま話していたいが、もうすぐチャイムが鳴る。君はその足のせいであまり運動しないほうがいいのだろ? 放課後に君の所に行くから、その時要件を話そう」

 うん逃げよう。少しだけなら走ることができる。そうすれば先輩に会うことはないだろう。

「君、今逃げようとしてたよね?」

「めめ、滅相もございません」

「まあ、逃げたいなら逃げてもいいよ」

 マジ?

「わかりました。なら逃げます。それじゃあ、またいずれ」

 もう会いたくないけど……。

「ああ、でも君は逃げきれない、いや、逃げられないよ。私が追いかけなくてもね」

 どういう意味か分からなかったが、おそらく追いかけるまでもなく捕まえることができるという意味だろう。なら逃げ切るのみ。

 決心を固くして教室へ戻った。


読んでくださってありがとうございます。

誤字脱字がありましたら是非ご指摘お願いします。

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