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作戦

 時間は十数分前に遡る。

 薫が体育館を出て行ったあと、三枝は二セット目の指示を伝えていた。

「秋穂は二セット目、里桜のところだけリベロに入ってくれ」

「……。わかりました」

「里桜も途中で葵と変わるから全力を出してもいいぞ」

「はい」

 秋穂は一度少し息が上がり始めた華を見て返事をする。

 その返事を聞いた三枝は試合に出ていない一年を見る。

「次のセットは一年も出していくからいつ来てもいいように心の準備はしておけ」

『はいっ!』

「そして、このセットを取って次のセットまで持ち込むぞ」

『はいっ!』

 返事をした選手たちはそれぞれのポジションに向かう。

 大淀川陣営では三枝に対する対策会議が行われていた。

「ねぇねぇ、相手の増国三枝どうやって止める⁉」

「絹恵落ち着きなさい。でも、確かにそうね。一セット目の後半はほとんど彼女の動きが得点に関わっていたわね」

「そうですよ! 私なんてまだ気持ちよくスパイク決められてないんですよ!」

 大淀川選手は三枝の化け物っぷりを振り返りある一つの答えにたどり着く。

『弱点ないかな?』

 大淀川のほとんどの選手がつぶやいたとき、今まで一言もしゃべっていなかった少女が口を開く。

「あの人を一番知っている青島先輩に聞いたらいいじゃないですか?」

 紅炎と同じもう一人のミドルブロッカーのレギュラーである、二年の小林風夏がそう言い、当の紅炎を見る。

 その視線につられ皆が紅炎に目を向ける。

 話の一部始終を聞いていた紅炎は問いただすことなく三枝のことを告げる。

「三枝にも弱点はあるよ、人間だもん。でも、それを教えたからどうにかなるってことは無いよ。それでも聞きたい?」

 紅炎の問いに絹恵と楓は首を大きく縦に振り、他のメンバーも小さく頷く。

「はぁ、あまり意味がないと思うけど分かったよ。まず一つはジャンプしたら体の向きにしかスパイクが打てないことだね」

「……つまり、体の向きがクロス方向に向いていたらクロスにしか打てない、ということかしら?」

「正解だよ夜光。ストレートの方を向いていたらストレートしか打てない。クロス方向を向いていたらクロスにしか打てない」

「それじゃあコースはもう読むことができたということか!」

「そうなるよ」

『おおー!』

 歓喜の声が響き渡るがそこに待ったをかける者がいた。

「喜ぶのは早いわよあなたたち。コースは分かっても止めるすべがないじゃない」

「た、確かに……どうするの紅炎!」

 夜光の言葉で我に返った絹恵は紅炎に詰め寄り対処法を聞く。

「ソフトブロックでボールを上にあげればいいんだよ。手首が少し痛くなるかもしれないけどそうすればレシーブしやすくなると思うし」

「そうすれば止められるのね! みんな今の聞いたわね! 増国三枝のスパイクはソフトブロックでボールを上にあげてレシーブしやすくするのよ!」

『はいっ!』

 絹恵の号令でそれぞれのポジションに入る。三枝の攻略法を知った絹恵や楓たちレギュラー陣は徹底的(てっていてき)に三枝を見ていた。そんな中、三枝の情報話教えた紅炎はベンチでボトルを持っていた。

「あまり意味がないと思う、って言ったのもう忘れたのかい、全く。」

 小さな声でそうつぶやきボトルをおいてポジションに戻る。

(『あまり意味がない』というのはどういうことだ? 少なくともこの弱点であればこのチームは簡単に対処できてしまいそうだが)

その小さなつぶやきが耳に入った菊は不思議に思ってしまう。

 そして、紅炎のつぶやきの答えはすぐに分かることになるのだった。


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