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バレー嫌いの俺が、女子バレー部のコーチします!  作者: 桝田光汰朗
第一章 バレー部との出会い
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出会い

きれいな桜が咲く四月中旬、たくさんの生徒が学校前の坂を上っている。自転車を押している生徒もいれば、話しながら登っている生徒もいる。俺も例外なくこの山道を登っている。朝からこの山道を登るのはとてもつらい。エスカレーターとかないのかと思いながら、俺は山道を歩く。

 俺は、(たま)(みや)元成(もとなり)。身長百七十七センチで短めの黒髪が自分に似合っていると思っている宮崎県の馬ケ背高校に通う高校二年生だ。

 うちの学校は山の上にある進学校で、クラスは普通科六クラスとフロンティア科二クラスの、それなりに大きい学校だ。

 ようやく山を登り終えた俺は歩き生徒用の道を歩いて生徒玄関に向かう。途中に体育館がありその中から声が聞こえた。少し覗いてみるとネットを張っているのが分かったので女子バレー部だとわかる。ここ馬ケ背高校には体育館が一つしかないのに体育館を使って練習する部活は男女バスケ部、バドミントン部、女子バレー部の三つだ。放課後は二つの部活が体育館を使うため、残り一つの部活が朝練で体育館を使うことが許されている。使う順番も決まっており今日の午前中は女子バレー部だったようだ。

正直に言おう。俺はバレーボールが嫌いだ。小学生の頃はバレーボールが好きだったが、怪我をしてバレーができなくなってから少しずつバレーを嫌いになっていった。中学の時に妹とバレー部の部長に監督をしてくれと頼まれ、一時期マネージャー兼監督をしていたが、中学最後の大会の時に部長を怪我させてしまい、そこから一気にバレーが嫌いになっていった。

「朝から日本代表のバレーの試合を見るし、学校に登校したら女子バレー部が練習しているタイミングで体育館の近くを通るし、今日の体育もアレだし、とことんついてねぇ」

 さっさとこの場から離れたいのになかなか足が進まない。どうしてもバレーの練習をしている選手を見てしまう。新一年生は今日まで部活に参加できないので女子バレー部の人数は少ない。

顧問の先生はまだ来ていないようで生徒たちだけで練習をしている。まじめにやっている生徒もいる中、先生がいないことでさぼっている生徒もいる。

「チッ、まじめにする気がないなら練習するなよ」

 昔の癖でまじめに練習していない人に陰口を言ってしまった。さぼっている生徒から目を離し、まじめにやっている生徒のほうを見るとその中の一人がこちらを見ていることに気づいた。目が怖く、遠くから見ても身長が高いというのはしっかりした足を見ればわかった。そして俺は一つの噂を思い出す。去年、女子バレー部の一人が自分のミスで負けてしまい罰として自ら坊主にしたという噂を。確か名前は(ます)(ぐに)三枝(みえ)先輩、勉強もでき運動もできる優等生で、男女ともに人気のある先輩だ。

 その先輩がこちらに近づいてきた。俺はとっさにその場を離れた。速く走ることは不可能なので早歩きだ。しばらく歩いて振り返ってみると増国先輩の姿は見えるが追いかけてきていないようだった。そのまま生徒玄関に向かい上履きに履き替え三階にある教室に入り、自分の机がある窓側の一番後ろの席に座った。足をけがしてから必要最低限は動かないようにしている。

 中学の時は作戦を考えたり、練習メニューを考えたりして時間をつぶしていたが転校してからはそれもやっていない。しかし、久しぶりにバレーの練習を見てしまったからか中学生の時のようにノートを机に広げてバレーのコートを書いてしまった。それをどうしようか迷っているとチャイムが鳴った。名残惜しいがノートをしまった。

——ちょっと待て、どうして俺は名残惜しいと思ったんだ? 俺はバレーが嫌いなんだ名残惜しいことは無いだろ。

 心にはそう言い聞かせているが、どうしても朝のことが頭の中から消えない。俺はバレーが嫌いになった。もうバレーにかかわることは無いと今でも思っている。それでもこのノートは手放さずに持っていた。

 バレーに対する嫌悪感が頭の中をめぐり、午前中は全く授業に集中できなかった。二時間目に関しては教師に対して舌打ちをしてしまったので生徒指導室に連れていかれた。これが国語担当の先生なら教室での注意ですんだが、公民担当のいかつい先生だったので普通に説教されてしまった。

 久しぶりにバレーのことで頭を使ったので、とてもお腹がすいていた。気持ちをリセットするために今日は第二校舎と第一校舎、体育館の三角形の間にある中庭で食べることにした。俺のお気に入りの場所の一つだ。

 階段を降り、下駄箱で靴を取り出して中庭に向かう。行く途中に体育館の横を通るので覗いて見るが誰もいない。増国先輩がいないことに安心するとともに気持ちをリセットしやすくなった。

 中庭には大きな一本の木がたっており、その半径三メートルくらいに段差があり石段で囲まれている。気持ちを落ち着かせたいときは石に座りご飯を食べている。気持ち良い風が吹いてリラックスできるが、虫も多くいるため利用する人は少ない。

 大きな木が見え麓のほうに目を向けるとピンク色の髪をした女子生徒が木を見つめていた。その後ろ姿を見ていると中学の時の後輩を思い浮かべてしまう。

——彼女は今でもバレーを続けているのだろうか?

 気持ちをリセットするためにここに来たのにバレーのことを考えてしまった。

 すぐさまその生徒に背を向ける形で座り昼食をとることにした。今の俺は一人暮らしなので弁当に入れている具材は自分好みにできる。幸いにも今日は好物ばかりを入れたチキン南蛮弁当だ。前住んでいた福岡県にもチキン南蛮はあったが、宮崎県のチキン南蛮のほうが断然おいしく、味を再現するために長い時間を使って特製のチキン南蛮を作ることができた。もちろん栄養バランスには気を付けるためにトマトや卵焼きも入っている。白米に関しては弁当の半分を占領している。



——————ぐううぅぅぅぅ



 黙々と箸を進めていると後ろから大きな音が鳴った。振り返ってみると先程の女子生徒が俺の後ろで、俺の弁当を見ていた。少しよだれも垂れている。弁当を上に動かすと目線が弁当のほうに行く。いろいろ動かしてみるが目線がその方向に動いてとても面白い。

「腹減ってんのか?」

「……うん」

「食うか?」

「…………」

 彼女は食べるとは答えなかったが小さく頷いた。それ見た俺は弁当袋にあった割り箸を取り出し彼女に渡した。

「それで食え、手で食うのは汚いだろ?」

「割り箸ももったいない、君が持っているやつで食べさせて?」

 俺の持っている箸を指さしながら言ってきた。つか、それがどういう意味か分かってんのかこの子、間接キスだぞ、今あったばかりの男と。

 しかし、彼女の半開き目を見ているとどうしても断れそうにない。仕方なく俺の箸でチキン南蛮をつかんで彼女の口に運んだ。彼女はチキン南蛮を口に含みおいしそうに食べている。

「おいしかった。また会えるといいね、それじゃ、ありがとう」

 それだけ言って校舎のほうに戻っていった。嵐のような子だと思うと同時に割り箸を返されていないことに気づく。

流石に間接キスは避けたいので新しい割り箸を取り出そうとしたが、彼女に渡したのが最後の割り箸だったようで仕方なく自分の持っている箸で昼食をとった。

彼女はまた会えるといいね、と言っていたが俺は会うことは無いだろうと思う。

一つ気になったことがあった。それは彼女からは微かに変なにおいがした。香水などの特殊なにおいではない。

しいて言うなら汗のにおい。中学の時にバレー部の監督として選手を育ててきたからか、汗のにおいには敏感になってしまった。

汗のにおいがするのは暑いせいで汗が出るか、運動をして体の体温が上がり汗が出るかだ。

しかし、今は四月なのでそこまで熱くなく、汗をかくようなことはあまりない。そうなると後者の運動して出てきた汗ということになるが、おそらく彼女は今日の授業で運動をしていない。

彼女のはいていた靴は一年生を表す白に黄色のマーク。基本靴は自由なのだが一応学校指定の靴はある。つまり彼女は一年生になる。

しかし、一年生は今日の午前中は健康診断で汗をかく可能性は少ない。そうなると汗をかくようなことをしたのは女子バレー部の朝練のみ。

本来新入生は今日まで部活に参加するのは禁止されている。しかし、それには一つ例外がある。それは、スポーツ推薦で入学した生徒だ。

スポーツ推薦の新入生のみ四月の頭から部活に参加することが許されている。もし彼女がスポーツ推薦だった場合、彼女は女子バレー部でスポーツ推薦でうちに来た選手ということになる。

「……いや、ないな。うちの女子バレー部そこまで強くないらしいし、推薦したところで誰も来ないだろ」

 馬鹿な考えはやめることにしてチキン南蛮を一つ口に運んだ。


読んでくださってありがとうございました。

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