激突! 馬ケ背高校VS大淀川高校④
『もう一本、ナイッサー!』
紅炎は再びボールを持ち狙いを定める。そして笛が鳴り、二秒の間隔をあけてサーブを打つ。
ボールは先程より機動は高い状態で馬ケ背コートに飛んでいく。
ボールは薫のところに飛んでいきボールの起動を見た薫はボールをよけ、
「アウト!」
と叫びボールが落ちた後、線審を見る。線審は旗を下に向けていた。つまりボールイン、大淀川の得点だ。
「ノータッチエース!」
「ナイスサーブ紅炎!」
「ははは、ありがとう。でも、今のは半分ラッキーだったよ」
大淀川ここで三対五と点差をつけどんどん活気があふれだしてきた。
一方馬ケ背はというと。
「す、すみません⁉」
ジャッジミスをした薫がチームメイトに頭を下げていた。
「気にしなくていい、取られた分は私たちが取り返す」
「そうだぜ、一年は黙って私たちの背中を見てればいいんだよ」
三枝と朋紀は落ち込む薫に励ましの言葉を送る。それでも薫の顔色は明るくならない。
「はいはい、反省は後でいいから試合に集中するわよ。みんなポジションに戻りなさい」
華はいつまでも変わらない薫にしびれを切らし三枝たちをそれぞれのポジションに戻す。
そこから薫はミスの連続だった。正面に来たサーブはレシーブを上げるもセッターである華とは全く違うところに飛んでいき、不十分な攻撃しかできずなかなか点を取ることができなかったり、アウトのボールに触ってしまい相手の点数にしてしまったりした。朋紀たちもそのミスした点数を取り返そうと力が入ってしまい、ミスが増えていく。
十三対十九と点数が開いたころに馬ケ背高校は一度タイムアウトを取る。ベンチに戻ってきた選手の空気は悪く、薫に関しては少し涙が見えていた。
「……」
琴海もこの時どのような言葉を投げかければいいのか分からずに固まっている。
そんな中いつも通りの人物で、今日一度もミスしていない選手が一人いた。
「華、次からレシーブが乱れたら私に頂戴。決めるから」
「……三枝」
そう、たった一人どんな状況でも空気を読まない人間、三枝だ。三枝だけがこの状況の中ミスをしないという絶対的自身があった。
「先生、当初の予定どうりこのセットは薫が出て、次のセットから秋穂ということでいいですよね?」
「え、ええ」
「そういうことだから、薫」
「は、はい」
「このセットはいくらでもミスをしていい。むしろ練習試合なんだからミスをしろ。そしてセットが終わったら外に行って泣いてこい。今回だけは見なかったことにするから」
「……はい」
「そして、二・三年。お前たちは何をしている」
『……』
三枝は華と二年を見て話し始める。
「後輩一人がミスしたらお前たちもミスをするのか?」
『……』
誰も何も言うことができない。
「もしかして久しぶりの試合だから浮かれているのか?」
『……』
ここでも誰も答えない。三枝が言っていることは曲がりなく事実なのだから。
「朋紀、朱莉、咲良、里桜、練習中はあんなに試合に出たいといっていたのに、試合に出たらこれか?」
「「「「……」」」」
四人はあまりの悔しさにした唇をかむ。
「秋穂、葵、恵、お前たちはウォームアップエリアで何をしていた。ただ、試合を見ていただけか? 後輩が頑張っているのになぜ声を出して応援しない。なぜ称賛の言葉を送らない」
「「「……」」」
「華、私はあの約束忘れたつもりはないぞ」
「三枝」
三枝はそれだけ言い今度は一年の方を見て言う。
「一年、これが今のうちのバレー部の現状だ。がっかりしただろう。だが気にするな! 今から見せてやろう。ここから変わる私たちを!」
三枝の言葉に一年の顔には笑顔が見え始めた。
二年と華は今一度気を引き締める。
チームメイトが気を引き締めたのを確認した三枝は顔を上げ二階席でこちらを見ている男子生徒・元成を見た。
その目はまるで「本当の私たちを見ていてくれ」とでもいうように。
その目線に気づいた元成は軽く会釈をして他の選手たちを見る。
(さっきまでお通夜状態だったのに何人かの選手には笑顔が見られるな。あと真剣な目が。……だけどあのリベロ、一年か? あの子だけが今の状態を抜け出せていないな。……まぁ仕方ないか高校初の試合ならだれでも緊張するだろうし、一年の自分がミスしたせいで相手に流れを与えてしまったんだから平常に行くという方が無理だろ)
元成は雰囲気の変わった馬ケ背ベンチを見て、その中で顔に不安が見える薫に目を向ける。
現に薫は顔を下に向けている。
(あの場面、私じゃなくて山之内先輩だったらジャッジミスなんてなかったんだろうな。しかも私はミスを引きずって、連続でレシーブミス。増国先輩にまで迷惑かけちゃうし。ホント、なにやってるんだろ)
薫は既に泣きそうになっていた。しかし、涙を流そうとすると三枝のあの言葉を思い出す。
『セットが終わったら外に行って泣いてこい。今回だけは見なかったことにするから』
(この言葉の意味は今は泣かずに試合に集中しろって意味だ。泣いたらダメ、今は泣いたら)
三枝の言葉通りあふれそうになる涙を手で拭い顔を上げる。薫の顔にはもう涙が見られない。
「もう大丈夫だな、薫。それじゃあ行こうか」
「はい!」
タイムアウトは明け、夜光のサーブで試合再開する。
夜光はその場でボールを上げフローターサーブを打つ。
ボールはもちろん薫のところに飛んでいく。
薫はレシーブでボールを上げるも華のいる場所とはかけ離れた場所だった。
華は素早くボールの落下地点に入り三枝がタイムアウト中に言っていたことを思い出す。
『レシーブが乱れたら私に頂戴。決めるから』
(本当に、あんたがキャプテンでよかったと思ってるよ。だって——)
「三枝!」
そう言って華は体勢を崩して三枝にトスを上げる。高めのトスだ。
三枝はそのトスに合わせて助走を開始し、ボールが来ると同時に跳ぶ。
ブロックは三枚付いており三枝のスパイクを猛烈に警戒する。
華は三枝のスパイクが決まるのを確信していた。
「だって、三枝はその実力とバレーに対する思い、そして優しい性格で私たちを引っ張ってくれるから」
三枝は腕を振り三枚ブロックの中で身長が一番小さい夜光の上からボールを床にめがけて叩き落した。
そのスパイクには反応するも、誰一人として跳びついてレシーブすることはできなかった。
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