激突! 馬ケ背高校VS大淀川高校③
再び朱莉のサーブでスタートする。
朱莉はボールを上げ打つ。
打ったボールは美郷の正面に飛んでいく。
守備専門の美郷がミスるはずもなく、ボールはAパスでセッターのもとに。
夜光は一度スパイカーを見て誰にトスを上げるかを決める。
「絹恵!」
ボールが落ちてきたところでオーバーハンドで構え絹恵にトスを上げる。
絹恵は助走を開始し、ボールが来たところでブレーキを踏み上に跳ぶ。
そのタイミングに合わせ三枝と華も跳ぶ。
(ストレートの子はそこまで高くない。ならこの子の上を打ち抜く!)
絹恵は華の手の上から叩きつけるように腕を振りボールを打つ。
ボールは華の上を抜ける。しかし、その後ろに三枝の左手があった。いち早く絹恵の打つコースに気づいた三枝が華の後ろに左腕を振り待ち構えていたのだ。
三枝は左手で絹恵のスパイクに触るが不十分の体制ではボールを上にあげることさえかなわず、軌道がずれ馬ケ背コートのサイドライン外にボールが落ちる。大淀川の得点だ。
「ごめんなさい三枝、私のせいで無茶させちゃって」
「気にするな、今のは相手がすごかったと褒めるべきだろう」
「……そうだね」
ブロックについていた三枝と華はスパイクを打った絹恵をほめる。
一方絹恵はというと先程の三枝の動きに驚きを隠せないでいた。
「ちょっと紅炎、あんたの元チームメイト何者? あいつの動き怖いんだけど!」
「あー、三枝は元々運動神経だけじゃなく視力もよかったからね。多分絹恵の目の動きで打つコースを察知したんじゃないかな?」
紅炎のその言葉に絹恵以外の五人が鳥肌を立てる。紅炎は簡単に言っているが傍から見たら化け物だと感じるだろう。
紅炎の言葉を聞いて恐怖を感じないのは戦闘狂しかいないだろう。そして大淀川にも戦闘狂が一人。
「紅炎、なにそいつ。とても倒しがいがあるじゃない。あー、なんでそんな選手が今まで有名にならなかったのよ。あぁ、ぞくぞくする。戦って倒したい」
絹恵だ。生粋の戦闘狂である絹恵は強い相手が現れたことに喜びを感じている。
「最近、骨のある奴がお嬢様学校の滝口火鳥ばかりで面白みがなかったけどいいじゃない、馬ケ背のキャプテン。えっと名前は……」
「増国三枝」
「そう、増国三枝! 今日中にぶち抜いて見せる!」
そう言って絹恵はボールを持ちエンドラインより少し後ろに下がる。
審判の笛が鳴ると同時に両手でボールを上げ、ジャンプフローターサーブを打つ。
ボールは無回転のまま馬ケ背コートに飛んでいく。
「私が行きます!」
そう声に出して現時点の落下地点とボールの間に入ったのは一年の日車薫だった。
薫はボールが飛んできている間にレシーブの体制に入る。
(捕らえた!)
薫がそう思い油断した時だった。ボールは大きく軌道を変える。薫がボールの動きに反応するも体はついていかなかった。
ボールは薫の左肩にあたり後ろの方に飛んでいく。薫と同じ後衛の朱莉と咲良は追いかけるが届くはずもなくボールは床に落ちる。
『ナイッサー‼』
ボールが落ちた瞬間二階席の大淀川選手たちが声を出して絹恵に称賛の言葉を送る。
ボールをとらえ損ねた薫はすぐさま先程のサーブを分析する。
(あのサーブは無回転だった。無回転のボールと言えば野球のナックルボールでしょうか。確かあのボールもぶれるボールだったはず。もし、ぶれるボールなら……ぶれる前に捕まえればいいだけですね)
分析が終わりすぐにポジションに戻る薫。
朱莉と咲良はレシーブでミスした薫に声をかけようとしたが、真剣な薫の顔を見てやめた。
絹恵は再びボールを持ち、笛と同時にジャンプフローターサーブを打つ。
ボールは薫の方に向かって飛んでいく。
薫はその場にとどまらず前に駆け出す。
『⁉』
その行動を見ていた誰もが薫の行動に驚いた。
ジャンプフローターサーブの捕らえ方の成功例は、ボールが変化する前にオーバーハンドで捕らえる。
しかし薫はボールに向かって走っている。誰もがこの後どうやってサーブをとらえるのかが気になった。
ボールが落ちてくる瞬間に薫は両手を顔の前に構え小さく跳ぶ。
ボールは薫の両手をめがけて落ちていき、薫は両手でボールを上げる。
上に高く上がったボールはセンターネットのちょうど真上に落ちる形になった。
「三枝押し込んで!」
「分かった」
三枝はネットの前で構えボールが落ちてくるのを待つ。
「紅炎、後衛の私の代わりに押し込みなさい!」
「もちろん、そのつもりだよ!」
絹恵の言葉に返事を返し紅炎は三枝の前で構える。
ボールは次第に高度を落としていく。それと同時に三枝と紅炎は上に跳びボールに手を伸ばす。
三枝の方が少し高く跳んでいた。それをしっかり見ていた美郷は前に跳び出していた。
しかしここで予想外のことが起こる。三枝はボールを押し込まず手首を横に払い、ボールを馬ケ背コートに戻したのだ。その行動に驚きを隠すなか一人上に跳んでいる選手がいた。
「ナイストスです、三枝先輩!」
朋紀だ。
ボールが来た瞬間腕を振り、先程まで美郷のいたストレート側にスパイクを打つ。とっさのことで体が固まっていた大淀川の選手は反応することができず、ボールは床にたたきつけられた。
「朋紀、ナイススパイク」
「三枝先輩が視線で合図してくれたおかげです!」
朋紀と三枝はハイタッチをする。
三枝の想定外の行動に朋紀がついていけたのには理由があった。
誰もが押し合いしかないと思っていた中、三枝はわざとらしく朋紀を見ていた。その視線に気づかないほど朋紀は鈍感ではない。三枝の視線から朋紀は何かをすると感じ取り、いつでも動く準備をしていた。そして三枝が飛んだ時に朋紀は気づいた。「さっきの視線はトスを上げる」という意味ではないかと。
理解した朋紀の行動は早く、タイミングよくスパイクに入ることができたのだ。
そして次は朋紀のサーブの番。朋紀はボールをもってエンドラインから八メートル後ろに下がる。
審判の笛が鳴り、一つ息を吸って吐く。右手に持っていたボールを生きおいよく上に投げ、朋紀は助走を開始する。エンドライン手前で左足に体重をため前に跳び腕を振ってボールを打つ。
ボールは勢いよく大淀川コートに落ちる。大淀川の選手は女子ではジャンプサーブを打つ選手は珍しいため、見入ってしまい反応が遅れてしまった。
三対二。そして朋紀のサーブはまだ続く。
朋紀は先程と同じようにボールを上げ助走を開始。エンドライン前で前に跳び、サーブを打つ。
ボールは美郷と夜光の間に飛んでいく。
「私ですっ!」
美郷は声で夜光をどけ朋紀のスパイクサーブを上にあげる。
レシーブは少しネットから離れていたが夜光は問題なくボールの落下地点に入る。
「恵聖!」
恵聖の名前を呼び、トスを上げる。
恵聖は助走に入っており、ボールが落ちてくる瞬間に上に跳ぶ。
ブロックには三枝が入っている。
恵聖は打つ瞬間、手首をクロスに向ける。
それを三枝は見逃さず、コースをふさいだ。
しかし、恵聖は強く打つことは無く、軽く手に当てて馬ケ背コートにボールを入れる。フェイントだ。
その攻撃に朱莉は反応するもギリギリのところでボールが落ちる。
『ナイス、フェイントー!』
二階席から再び大きな声で称賛の言葉が贈られる。
次のサーバーである紅炎はボールをもってエンドラインの後ろに立つ。
笛が鳴ると同時にボールを上げフローターサーブを打つ。
ボールは低い軌道のまま進み、白帯にあたって馬ケ背コートに落ちる。ネットインとなり大淀川の連続得点だ。
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