昼休憩
観客席で試合を見ていた元成は猫背で試合を見ていたため、背伸びをして風に当たるべく窓の近くに移動する。
(はー、気持ちのいい風だな……ん? あの三人は)
元成が見た三人は高原、島村、東郷の三人だった。この三人は午前中だけの参加だったため、現在帰宅している途中だった。
(なるほど、恩人三人組は午前中だけの参加だったのか。それなら、今日の一日練習試合も納得できるな)
元成は三人を眺めながら風に浸りそう思った。と同時にあることを思う。
(だったら午後から来てもよかったんじゃないか?)
元成がそう思っているとき、一人の女性が元成に話しかける。
「やあ、君は馬ケ背高校バレー部さんの関係者かな?」
「!」
元成は話しかけてきた女性を見て一瞬で理解する。
(推定身長百八十五センチ、ジャージの前を開いているおかげユニフォームを着ているのが見える。つまりこの人は本来のレギュラー、もしくは控え選手)
「……あの~」
「はっ!」
声をかけられたことにより自分がじっくり見ていたことに元成は気づく。
「す、すみません」
「別にいいよ、ただ女子は男子の視線に敏感だからじっくり見るのはやめた方がいいと思うよ」
「うっ!」
じっくり見たつもりのない元成は、見知らぬ女性に半分変態扱いされてしまったことに言葉を詰まらせる。
「ところでさっきも聞いたけど君、馬ケ背高校バレー部の関係者かな?」
「……関係者ではないけど少し知っているくらいですかね」
元成の言葉に女性は「なるほど、なるほど」と言いながらうなずいて理解する。
「それじゃあさっき君が見ていた三人組のことについては何か知ってるかい?」
「えーっと……」
(あのことって言っていいのか? 他校の生徒にうちの事情を話すのはやめた方がいいだろうし、でも別に口止めされてないし……)
元成は迷ってしまう。相手が他校の生徒というのもあるがバレー部でもない自分が何でもかんでも話すのはいけない、と思っていた。
そして元成は決心する。
「俺は何も知りませんが、あの三人組は所謂暴君というやつです。俺は何も知りませんが」
元成は決心した。自分は何も知らない風を装って話すことを。
「暴君?」
「はい、俺は何も知りませんがバレー部の恩人だとかでやりたい放題しているらしいですよ、俺は何も知りませんが」
「やりたい放題とは実際に何をしているんだい?」
元成が何も知らない風を装って何でも話してくれることを理解し、いろいろなことを聞いていく。
「俺も詳しくは知りませんが練習をさぼったり、実力もないのに試合に出たりしているみたいですよ。詳しくは知りませんが」
「そうか、何も知らない君に聞いて悪かったね。もしまた会うことがあったらその時はまた聞かせてくれないか? 君の知らないことを」
「ええ、また会う機会があれば俺の知らないことを話してもいいですよ」
それだけ言って元成はその場を離れようとする。
「そういえば名乗っていなかったね。ボクの名前は青島紅炎、紅という字と炎という字を合わせて『かれん』と呼ぶ。馬ケ背高校バレー部主将にこの競技を教えた張本人だよ」
「そうですか」
「……あまり驚かないんだね、もう少し違うリアクションを期待していたんだけど」
「誰が誘ったとか、そういうのは試合中さほど関係ないですし、きっかけはどうであれあの人がどれだけバレーを好きなのかは、ここ数日である程度理解しましたから」
「なるほど、確かに君の言うことには一理あるね。きっかけなんて結果を残したときに初めて生まれる。でも、試合に勝つか負けるかはきっかけじゃない、日ごろの努力だ」
「分かってるじゃないですか」
お互いに笑顔で向き合う。
「そういえば君の名前をまだ聞いていなかったね」
「……あまり名前を他人に教えるのは好きではありませんが、あなた相手なら別にいいでしょう。俺の名前は元成です。球宮元成」
「……球宮?」
「それでは俺はこの辺で失礼します。午後の試合も頑張ってください」
「え、あ、うん」
元成はその場から去っていた。しかし、紅炎には気になることが一つできてしまった。
数分間その場に突っ立て考え事をしている紅炎のもとに監督の菊が姿を現す。
「どうした紅炎、そんなところに突っ立て考え事か? 私でよければ相談に乗るぞ」
紅炎は菊の方を向き言葉を発する。
「先生って他県にもバレー部の視察に行ってますよね」
「ああ、休みの日は他県の高校の偵察や中学への勧誘に行っているな、それがどうした?」
「先生が勧誘した子の中に球宮っていう名前がありましたよね?」
「行ったその日に断られたがな。福岡の中学生大会でMVPを取った選手だ。元から進学する学校は決まっていたのだろう。仕方ないと思ったよ。でも今更どうしたんだ? 球宮の名前を聞くなんて」
「さっきこの学校の男子生徒と話していたのですが彼の名前、球宮元成というらしいですよ」
「……それは本当か?」
「ボクの聞き間違いでなければ球宮と言っていました」
「……なるほど、お前が何を言いたいのか理解した。でも今は前の試合に集中だ。午前中の試合で新入生はしっかり見せてくれたからな。先輩であるお前たちが無様な醜態を見せることがあってはならんぞ」
「分かってますよ。たとえ相手がだれであってもボクたちは自分のプレーをするだけです」
「それならいい、早く昼食をとってアップしておけ」
「はいっ」
紅炎はそのまま自分たちの荷物を置いているシートに向かった。
菊は紅炎を見送りとある少女に言われたことを思い出す。
『これは私の兄の言葉なのですが、本当の実力がある人は誰かに言われたから道を選んだりしない、自分自身で道を選ぶ、だそうですよ。それではこれで失礼します』
菊は心を切り替えその場を後にする。
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