馬ケ背高校VS大淀川高校②
皆は不思議に思いながらも控えメンバーは一階のほうに駆け足で降りていく。数十秒したところで菊のもとに大淀川高校の選手が全員集まった。
それを確認した菊は口を開く。
「急遽だが午前中のメンバー全員の変更を発表する」
その言葉に大淀川高校の選手は少し動揺した。すでに残り時間五分しかない中のスターティングメンバーの変更だからだ。
元々スターティングメンバーのレギュラー陣は体を動かしていたので問題ないが、控えの選手は途中から応援の準備で体を動かしていなかったのだ。選手たちにとって、そんな中でのメンバー変更は予想外だった。
「今から呼ばれたものはすぐにアップをするように。小久保、高峰、宮永、黒木、里山、河野、久留米、スターティングメンバーはこの七人だ。七人は今のうちにアップをしておけ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
大淀川高校 スターティングメンバー
WS 小久保桃子 百七十・五センチ 一年 一番
S 黒木柚葉 百五十八・九センチ 一年 二番
MB 河野南 百七十五・二センチ 一年 三番
MB 久留米大 百七十四・六センチ 一年 五番
WS 高峰龍美 百六十六・八センチ 一年 七番
WS 宮永蓮 百六十九・〇センチ 一年 四番
Li 里山美月 百四十九・九センチ 二年 六番
(ユニフォームを着ていた選手がジャージを羽織って二階に来た。逆にさっきまで二階にいた控え選手がビブスを着てアップをしている? 試合直前なのに急なメンバー変更、何かあったのか?)
二階から一部始終を見ていた元成には不思議でたまらなかった。
時間が少ない中でのメンバー変更は元成から見れば無謀に等しいからだ。
それは馬ケ背高校の選手……高原、島村、東郷からしてみれば舐められていると思っていた。
「なに? メンバーチェンジ?」
「相手全員ビブスになったじゃん」
「うちらのこと舐めてんじゃね?」
しかし、馬ケ背高校の選手の中でそう思っているのはこの三人だけだった。
ほかの皆はというと……。
(あらあら、お相手さんには申し訳ないことをしたわね)
と、チームの母親的存在である三年の日々屋華は右手を右の頬に当て、申し訳なさそうな顔で、心の中で相手チームに謝罪をし、
(てめぇらがいるから相手チームはメンバー交代になったんだろうが)
と、身近い髪を後ろに結び、にっこりと笑っているチーム二番目の高身長の日車葵は、その笑顔と裏腹に心の中で本性を出し、高原、島村、東郷の三人組の発言に文句を言っていた。
(大体、先輩三人は練習にまじめに参加していないんだから、たとえ三枝先輩がいたとしても、控え選手相手に勝てるわけないわ)
と、バレー部二年の中で先輩三名を唯一「先輩」と呼ぶ海熊朱莉は、眼鏡の奥に見せる大きな瞳を細め、高原、島村、東郷の三人に対して普段は言えないことを心の中で注意する。
(まぁ、高原ちゃんたちは午前中で面倒くさくなって帰っちゃうだろうし、いるときくらいは自由にさせてあげてもいいでしょ)
と、二年の奈良咲良は持っていた白色のカチューシャで前髪を上げておでこを強調した髪型にしながらポジティブに現状を思っていた。
(いつになったらあの三名はいなくなるのでしょう)
と、二年の亀梨里桜は銀髪の前髪を横に分けながら、高原、島村、東郷に早くいなくなってほしいと強く思っていた。
(今日の試合終わったらお腹すくだろうな~。今日の晩御飯なんだろ?)
と、二年の本条恵は黒いショートヘアーが前に垂れるほど首を曲げ、お腹を押さえていた。
「相手チームが試合直前にメンバーチェンジしたのって高原たちがレギュラーだからじゃないのか?」
と、チーム一の長身でバレー部部長の三枝は他のチームメイトが少なからず思っていたことを声に出した。
刹那、その場の空気が一瞬にして静になる。
いち早く沈黙を破ったのは高原、島村、東郷の三人だった。
「いやいやいや、増国、それどういう意味?」
「? そのままの意味だが」
「はぁ、どうして私たちがレギュラーだと相手がメンバーチェンジすんのってこと聞きたいんだけど」
「東郷たち試合前アップさぼってたから」
「はぁ、なに言ってんの? 試合前にアップして疲れたら元も子もないじゃん」
「大体その口の利き方なに? 二年前人数不足で試合に出れない中私たちが入部したおかげで試合に出れた事、覚えてないの?」
「……ああ、人数足りないからその年だけ入部してくれないかっていうやつのこと?」
「そうだけど」
「でも、今の二年が七人入部したしいつ退部するのか気になってたけど、もしかして私の方から言った方がよかった? もう、退部してもいいよって」
「っ⁉ の、残っている私たちが悪いっていうの⁉」
「うん」
「っ⁉ この——」
高橋が三枝を殴ろうとしたときその手を後ろから止める者がいた。
「まぁまぁ、もう試合前なんだからそこまでにしなさい。じゃないと相手チームにも迷惑が掛かっちゃうし、暴力沙汰なんて私たち三年が起こしたら大変よ」
「! 日々屋……」
華だった。高原より身長が高い華は後ろに引いていた高原の腕を上から押さえて止めたのだ。
力が向けたのを確認した華は握っていた手を放す。
離れていった高原たちを見た華は目の前にいた三枝の目を見て話す。
「三枝も落ち着きなさい。いつも以上に突っかかるなんてあなたらしくないわよ」
「すまない。少し焦ってしまっていたようだ」
「何に焦っているか分からないけどあんまり挑発しないようにしなさい」
「わかった」
「ならいいわ、もうすぐ試合が始まるから整列しましょ。あなたたちも切り替えなさいね」
『はいっ』
華の言葉に一・二年と琴海は大きく返事を返して列に並ぶ。
「あの笹木先生。先生はベンチのところです」
「へ? ご、ごめんなさい!」
間違えて並んでしまった琴海はすぐさまベンチのところへ戻る。
戻った琴海は顔が赤くなっていた。それを見ていた菊は小さく微笑んでコートのほうに体を向けた。
審判の笛が鳴ると同時にお互い挨拶をする。
それぞれのポジションにつき馬ケ背高校のサーブで始まる。
サーバーの島村がボールを持ち審判の試合開始の笛が鳴る。
島村は初心者でもできるアンダーサーブでボールを打つ。打ったボールは高いわけでも低いわけでもない高さで大淀川のコートに飛んでいく。
(このサーブ、もしかして初心者?)
ボールの落下地点についた美月はレシーブの姿勢で構えながら島村の打ったサーブを分析する。
飛んできたボールを美月はAパスでセッターに返す。
(私たち一年の最初の得点は……やっぱりあんたしかないよね)
ボールの落下地点から一度選手の位置を確認した柚葉は手を上にあげてオーバーハンドの構えをとる。
「桃子!」
柚葉はレフトにいた桃子に高いトスを上げた。
高いトスだったため真ん中にいた三枝と反対方向にいた華はボールの上がった高原のほうに向かう。
高原、三枝、華はタイミングを見極める。
(あの人が馬ケ背高校の三枝選手か。どうしたらあんな身長になるの? まああの人が高くてもその横の二人、いや、ストレートにいる人はそこまで高くないか)
桃子は打つべき場所を見分けて助走に入る。
ネットの前まで走り、左足でブレーキを踏み上にジャンプする。そのタイミングで三枝、華も上にジャンプする。
三人が跳んでいる中ただ一人、高原だけ遅れて跳ぶ。
しかし高原は誰よりも早く最高到達点に達してしまう。伸ばした手はネットより高くなることは無かった。
高原が落ちるのを見た桃子は、当初の狙いどうりボールをストレートに打つ。
桃子の打ったボールは高原の頭上を超えて馬ケ背高校のコートに飛んでいく……ことは無かった。
「っ⁉」
ボールを打った桃子は心底驚いた。と同時に顔がにやけてしまう。
桃子のスパイクは確かに高原の頭上を向けた。しかし、高原の横でブロックに跳んでいた三枝は右手で桃子のスパイクをブロックしたのだ。
三枝がブロックしたボールはそのまま大淀川のコートに戻される。
「! アッ、ウト‼」
三枝のブロックしたボールは僅かなところでサイドラインを割ってしまった。
(危なかった。今の完全に読んでたよね。もし正面に打ってたら)
「確実に叩き落とされてた?」
「っ⁉ 私の心を読むな、南」
「顔に出てたよ。南たちの得点に変わりないんだから軽くいこうよ」
「お前な~、……まぁ声をかけてくれたことは嬉しかったよ。あのままだったら私は一人プレーをしてしまっていたかもしれない。感謝はする」
「ならよし。次のサーブ桃子の番だからしっかり入れてよ」
「わかっている」
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