馬ケ背高校VS大淀川高校①
元成が女子バレー部部長の増国三枝と約束してから二日経った。
今日がその約束の土曜日だ。
天気は快晴、四月にしては気温も二十五度と高めだ。
そんな中、ここ馬ケ背高校の山道を登ってくる生徒が一人、球宮元成だ。
時間は九時十五分、今日は土曜日なので学校は休みだが、部活動生の声が彼の耳に入ってくる。
部活動生も準備運動を終えた頃なので大きな声を出していた。
(うるせぇ、それにあちぃ、こんな中一日練習試合かよ。こりゃあ、恩人とやら人たちは午前中には帰るだろ)
そんな思いを胸に元成は体育館……ではなく、生徒玄関へと向かう。
馬ケ背高校は校則がとても厳しい高校である。その一つに部活動生ではない生徒は、土日祝日の学校の出入りは生徒玄関を通らないといけない。
生徒玄関で上履きに履き替えた元成は一年生教室を経由して体育館へ向かう。休日ということもあって、一年生の教室には人ひとりもいない。
体育館の入り口についた元成は体育館の中には入らず、二階に続く階段を上っていく。
階段を上ると二階の入り口にはブルーシートが敷かれており、その上に荷物も置かれていた。
(荷物が邪魔。少し隙間が明けられているけど通りずらいだろ)
元成はブルーシートの敷かれていない隙間を通り、一階が見渡せるところまで行く。
この体育館には観客席などはないが、手すりのところにいすが置かれている。その椅子のところには他校と思われるジャージを着た生徒が座っており、それを確認した元成は少し離れた一人掛け用のソファーに座った。
一階のコートでは馬ケ背高校の選手と、対戦相手の大淀川高校がアップをしている。
馬ケ背高校の選手はビブスを着てアップをしていた。
元成は馬ケ背高校のアップをしている選手のほうを見た。そこには彼にコーチを頼んだ三枝の他に二日前に関わった茅山朋紀、山之内秋穂、そして、元成が二日前に弁当のおかずを上げたピンク髪の一年生もいる。
(やっぱり、あのピンク髪、バレー部だったのか、……今思うと汗の臭いでバレー部っていう予想をしたの、外から見ると変態だな)
二日前のことを思い出し顔をうずくめていた。
(? あれは球宮くん? ちゃんと来てくれたんだ。最初の試合はがっかりさせちゃうかな?)
元成を見つけたバレー部顧問の笹木琴海は、元成が試合を見に来てくれたことに安心と申し訳なさの気持ちでいっぱいになる。
それもそうだろう。最初の試合は素人の琴海が見ても無意味の試合になってしまうことが分かり切っているメンバーだ。
馬ケ背高校 スターティングメンバー
WS 高原友美 百六十三・七センチ 三年 四番
WS 島村花奈 百六十五・二センチ 三年 三番
MB 増国三枝 百八十七・一センチ 三年 一番 C
MB 日車葵 百八十二・〇センチ 二年 七番
S 日々屋華 百七十一・三センチ 三年 二番
WS 東郷真由 百六十四・二センチ 三年 五番
Li 山之内秋穂 百六十三・七センチ 二年 六番
女子バレー部の恩人と言われている高原、島村、東郷の三人がスタメン入りしている。
このスターティングメンバーを知ってから朋紀は両手に力強く握りこぶしを作っている。
このメンバー、主にWS三人に不満があるのは朋紀だけではない。試合に出る葵と秋穂も合わせて、二年生組の表情は暗い。一年生組はWSの三年三人がなぜスターティングメンバーなのか理解できない気持ちでいっぱいだ。
これを上から見ていた元成は状況を察し、今回馬ケ背高校の対戦相手である大淀川高校の練習を見る。
大淀川高校は馬ケ背高校とは違いビブスではなく、しっかりとしたユニフォームでアップ中だ。
大淀川高校の監督である宮本菊は対戦相手校の馬ケ背高校のアップ姿を見て考える。
(馬ケ背高校、確か全国高校女子バレー選手の中でもトップクラスの増国三枝がいたはず。……? でかいから増国がどいつかは分かったが、雰囲気が変だな。何か納得していないような、お、相手チームの監督が来たな)
考え込んでいる菊のもとに琴美は挨拶に向かう。
「今回はわざわざ遠いところからお越しいただきありがとうございます。私、馬ケ背高校バレー部の監督をしている笹木琴海と言います」
「初めまして、私は大淀川高校女子バレー部監督の宮本菊という。以後お見知りおきを」
互いに握手をする。その時菊は琴海の気持ちの揺れに気づく。
幼少期から武道を極めていた菊だからこそわかるものだった。
「笹木先生、気持ちに揺れがある。何かあるなら話してくれないだろうか。もしかしたら力になれるかもしれないからな」
「ッ⁉ はい」
菊に言われてしまい一瞬動揺するも、すぐに落ち着く琴海。そして、言うか悩んでいた頼みを口に出す。
「宮本先生、申し訳ないのですが一試合目は控えのメンバーでお願いできないでしょうか?」
「ほう、それはまたどうして」
菊は不思議で仕方なかった。本気で勝つのなら「全力のメンバーで」というはずだが琴海はそれとは真逆の「控えのメンバー」といったからだ。
(これは控えメンバー相手にどこまでやれるかを見たいのか、もしくはレギュラー組との試合で選手の心が折れるのを心配しているのか)
菊にとってこれは絶好のチャンスでもあった。新入部員の選手の実力を完全に理解するには試合でのプレーを見るのが一番だからだ。
しかし、琴海の口からは菊の考えとは全く違った答えが返ってきた。
「えっと、実はWSなんですが、実力のある選手ではないのでそこまで強くなくて、午後の試合はちゃんとしたメンバーでできると思うので! すみません、お願いできないでしょうか?」
「……了解した。午後からレギュラーを出してもいいのなら、その頼みを聞き入れよう。私はもう一度メンバーを練り直さないといけないので、このあたりで失礼する」
「あ、ありがとうございます!」
お互いの監督はそれぞれの陣営に戻っていった。
(はぁ、さすがは宮本菊先生、武道家の娘にして、高校時代に剣道で全国三連覇を達成、他にも空手、合気道、柔道などで好成績を収めるも、高校卒業後は教師という夢のために進学。しかし、菊先生はなぜか剣道部の顧問にはならず、サッカー部の顧問になった。そして大淀川高校ではバレー部の顧問をしておられる先生。……とても緊張した~)
琴海は心の中で一息ついて自分の生徒のいるほうへ戻る。それほどまでに宮本菊という女性の名は力強いということだ。
「一年と控えのメンバーは、一度こちらへ降りてきてくれ」
菊は戻ると同時に上のほうに待機させていた控えメンバーに降りてくるように呼んだ。
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