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プロ転生者も匙を投げる

作者: あかり

「悪女シャーロットを処刑す!!」


ギロチン台の前で、声高らかに宣言するこの国の王太子。


ギロチン台に固定された少女はいかりに満ちた目で王太子と私を睨み付ける。




真珠のような白い肌は痩せこけ、からすの濡れ羽の髪は艶がなくボサボサとなり、みすぼらしい衣服を身に付けている。


そこに、公爵令嬢として栄華を誇った姿はなかった。


しかし、意思の強い赤い目だけは変わらず爛々としている。


その目で睨み付けられたら、温室育ちの普通の令嬢だったら思わず後退りをしてまう。


だけど、私は普通の令嬢ではない。


いくつもの修羅場を経験している私にとっては、子猫に睨まれているようなものだ。


なんたって、私はプロの転生者だから!!



もともと、私は日本の女子大学生だった。


しかし、ひょんな事から事故に遭い死んでしまった。


そして、死後の世界で、二柱の神様に会い謝罪された。


どうやら、私の死は神様の手違いにより起こってしまった事らしい。


先輩神様の指導のもと、新米神様が私の住んでいた世界を運営していたらしいが、間違えて私を事故死させてしまったみたいだ。


そのお詫びとして、『もとの世界に生き返る』こと以外の願い事を叶えてくれることになった。


そこで私が願ったこと。


それは、乙女ゲームの世界に転生すること。


乙女ゲーム好き且つ『小説を読もう』好きな者にとっては1度は経験したいこと。


神様は快く、私を当時大人気だった乙女ゲームの世界に、しかも、悪役令嬢の取り巻きの1人として転生させてくれた。


そりゃしましたとも。嬉々として死亡フラグの回避を。『小説を読もう』の主人公たち同様に前世の記憶と乙女ゲームの知識をフル活用して。


ついでに、悪役令嬢とゲームの主人公との仲を取り持ちましたよ。


二人の仲を取り持ったお陰で、推しキャラと結婚できましたよ。


前世では推しキャラとのなんちゃって婚姻届を作成するほど、そのキャラを推していたんですよ?狂喜乱舞ものです。


思わず、


「新米神様、グッジョブ!!」


と空に向かって叫んでしまいましたよ。


そのせいで、推しキャラ……旦那様や家族、友になった悪役令嬢と主人公に心配されて入院させられましたけど。


だけど、狂喜乱舞しない方がおかしいと思えませんか?

だって、推しキャラと結婚できるんですよ?

男爵令嬢だった私が、侯爵夫人になったんですよ?


この時ほど、一度死んでよかったと思ったことはありません。


私は、推しキャラとの間に三人の子供を授かり、最終的に孫8人、ひ孫12人、玄孫20人に見送られした。大往生です。


満足して死んだのに、気づいたら、また違う世界に転生してましたよ。


そうです。神様に転生回数を指定しなかったため、また転生してしまいました。


最初は呆然としましたが、前の世界には無かった『魔法』という概念があったため、喜んで魔法を学びました。


転生者ボーナスのためか、私THUEEEEEE状態になり、いつの間にか『大魔導師』になりました。


もちろん、勇者と共に魔王を倒しました。


やっぱり、転生者ってチートなんだなと改めて思いました。


この世界でも、大往生した私は3度目の転生で『落ちこぼれ』魔術師の師匠になり、弟子の才能を開花させましたよ。

そしたら、弟子を追放した勇者パーティ(私が、前の世界で所属していたパーティとは雲泥の差のダメダメパーティ)が弟子にすり寄って来ましたよ。


もちろん、弟子と一緒に勇者パーティを可愛がったら泣きながら逃げていきました。


弟子は違う勇者パーティ(私の所属していたパーティと同じくらい優秀)と共に魔王を倒しました。


師匠である私の鼻も高いです。


それからも私は何回も転生を繰り返しました。


ある時は、魔物に転生しました。


またある時は、貴妃に転生したり、魔王に転生したりしました。


そして、今回は記念すべく10回目の転生。もう、10回も転生しているのだから、転生のプロと言っても過言ではありません。


今回の転生は乙女ゲームの悪役令嬢の取り巻きの1人。


初心に戻り、このゲームの主人公と一緒に悪役令嬢を救おうとしました。


しましたけど!


この令嬢は私が知っている悪役令嬢とは違い、どうしようもない悪女でした。もう、『悪役』ではなく『悪』そのものです。


それでも、最初は主人公と一緒にあらゆる手を使い改心を促していましたが、こっちの話は何一つ聞かない、自分の計画が失敗したら他人のせいにするなど……全然改心する様子が見られませんでした。


ついに、主人公と私を処刑しようとしたため、私も主人公も匙を投げてしまいました。


悪役令嬢は悪役令嬢らしく嬉しそうに高笑いをしていましたが、もう私達の知ったことではありません。


私と主人公が、悪役令嬢のもとからさってから、悪役令嬢はあっという間に没落していきました。


ひと月は持つだろうと思っていましたが……

憐れ、一週間しかもちませんでした。


昨日、最後の挨拶に悪役令嬢の牢屋を訪れたさいに、


「何で私を止めなかったのよ!!あの時、何でもっと強く私を止めなかったのよ!!責任をとって私をここから出しなさい。」


と喚いていました。


私はきちんと止めましたよ。


悪役令嬢がしようとしていたことは、国家反逆罪にあたると何度も何度も、説明しましたよ。


懇切丁寧に小学生でも分かるように説明したのに、聞かなかったのは悪役令嬢です。


自業自得です。


「うるさい」


あまりにも煩かったため、思わずファイヤーボールを令嬢に食らわしてしまいました。


魔法の無い世界でも、魔法が使えるんだなと驚いていると、悪役令嬢のすすり泣く声が聞こえました。


悪役令嬢を見ると、さっきのファイヤーボールのせいで、悪役令嬢はボロボロになっていました。


いい気味だと鼻で笑うと、悪役令嬢はキッっと私を睨み付けています。


この状態でも私を睨み付けることができるのかと、感心して牢屋を後にしました。


そして今日、悪役令嬢は処刑されます。


「さっさと処刑しちまえ!!」


「夫を返して!!」


「この悪女め!」


群衆は悪役令嬢を罵倒しています。


皆、悪役令嬢の処刑を心待にしています。


普段、市民は貴族を罵倒したら、貴族法により速攻牢屋行きです。だけど悪役令嬢は罪人です。もう、悪役令嬢を守っていた貴族法から外れた存在です。


いくら、悪役令嬢を罵倒しようと石を投げつけようと罰せられることはありません。


そのため、群衆たちは日頃の貴族への鬱憤を晴らすように悪役令嬢を罵倒します。


そして、市民の娯楽が少ないこの世界では処刑は数少ない娯楽です。貴族が落ちぶれ地面に膝を付く姿は、市民にとって優越感を感じさせます。


「お待ち下さい!!ジョージ殿下」


そんな中、主人公が王太子の前に姿を現しました。


「ジョージ殿下、確かにシャーロット様は私に様々な嫌がらせをしました。しかし、処刑されるような事は何一つ行っていません」


主人公は目に涙を浮かべ、声を震わせながら王太子にすがり付いた。


いやいや、主人公さん。


国家転覆罪は極刑にあたいする罪ですよ?


重罪ですよ?


そもそも、この処刑は国家転覆罪によるもので、悪役令嬢がテンプレの嫌がらせを貴女にしたからではありませんよ?


「マリア……」


王太子は眉間に皺を寄せながら主人公の名前を呼びました。


さすが王太子。

この処刑が主人公への嫌がらせが原因では無いことわかっていらっしゃる。


「マリア、なんて君は優しいんだ。だけど、シャーロットが君にしたことは許される事ではない」


ち・が・うでしょう。


ほら、悪役令嬢も驚いて目を見開いているではありませんか?


恋人を苛められたかと言って、元婚約者を処刑しようとする王太子がどこにいる?


ここにいるけど!!


「お願いします。どうか、どうか……シャーロット様にチャンスを……」


「わかった。君の意見を尊重しよう。



王太子権限で、シャーロット・ヘインズ公爵令嬢の処刑を中止する。その代わり、シャーロット・ヘインズ公爵令嬢を国外追放とする。


そして、この場を借りてここにいるマリア・ロートン男爵令嬢との婚約を発表する」



な・ん・で・す・か


この茶番は



王太子の宣言に、さっきとは違う意味で熱狂する群衆。


涙ぐむ主人公。


主人公とは違う意味で涙ぐむ悪役令嬢。


うん、絶対処刑を回避できた嬉し涙ではないな。


群衆の注目を、主人公と王太子に奪われた悲しさで泣いているんだな。


不憫。


さっきとは違う意味で不憫だ。


ギロチン台の前でイチャイチャする主人公と王太子。


悔しさのあまりに泣き崩れる悪役令嬢。


カオス……


あまりにもカオスすぎる。


流石に、この世界は私の手には負えない。


なんなのこの世界は?


元々、こう言うストーリーのゲームなの?


もうしらん。


私は、そっと群衆から抜け出し薄暗い路地へ行った。


そして、懐からナイフを取り出し自分の胸に突き刺した。


もう、この世界に未練はない。


すみません。うそ。


未練タラタラです。


やはり、転生のプロとして悪役令嬢を救えなかったため、プライドがズタボロです。



だから、次はこの世界の悪役令嬢の家庭教師に転生して、幼い頃から徹底的に死亡を排除しよう。


私は、そう心に決めて次の世界へ旅立った。


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