表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられたお姫様  作者: みるみる
9/46

9、街の井戸水の浄化


翌朝、リナとラナンは街中の井戸水の浄化をする為に、街の外れへと行きました。街の外れから一つずつ井戸の浄化をして行く計画です。


ラナンは一番最初に目についた井戸に近づくと、井戸の中を覗き込みました。


「‥これが瘴気で汚染された井戸だな。」


ラナンはそう言って、目を閉じて井戸の中に向けて手をかざしました。そして数分後に‥


「‥よし。瘴気を払う事ができた。‥次の井戸へ向かおう。」


「‥えっ、もう終わり?」


「ああ。もう澄んだ水に戻っている。‥僕は出来損ないの魔法使いだから、数分もかかったが、普通の魔法使いなら一瞬で瘴気を払って、浄化させていただろうよ。」


「‥いえいえ、お父さんも充分凄いです!だって、こんなにあっという間に井戸水を浄化できたんですよ。」


「‥僕は凄くなんかないよ‥。」


ラナンは悲しそうな顔をしてそう言うと、次の井戸へ向かって歩き出しました。


この時リナは、何故ラナンが頑なに自分の凄さを認めないのか、疑問に思いました。


「‥‥お父さん、本当に凄いのに。」



リナとラナンが次に行ったのは、最初の井戸から数分程歩いた所の井戸でした。


「‥お父さん、街の井戸は一体いくつあるんですか?」


「‥あっ、そうだ。地図を貰ってたんだった。」


ラナンはそう言って、鞄の中から折りたたまれた街の地図を取り出しました。


「‥お父さん、もっと早くこれを出して欲しいかった‥。」


「‥いや、地図なくても大丈夫かなって思ってね。アハハ。」



リナは、ラナンの大雑把さに呆れながらも地図を開きました。地図には沢山の井戸のマークがついていました。


「‥さっき浄化したのが、この井戸だから‥。」


リナは赤色のペンを使って、地図上で浄化の済んだ井戸にチェックを入れて行きました。そして浄化の済んだ井戸には、『浄化済み』の看板をかけました。


ラナンはリナのその様子を、まるで父親のような表情で眺めていました。


「‥お父さん、なに?」


「いや、うちの娘はしっかりしてるなぁと思ってね。リナについて来て貰って本当に良かったなぁ。」


「‥お父さん、何だか本当のお父さんみたいじゃないですか。」


「‥うん。リナは赤ちゃんの頃から僕の大切な娘だからね。」


ラナンはそう言って、更に顔を綻ばせました。リナはそれを鬱陶しそうに睨みました。まるで本当の娘のように‥。


「‥‥はいはい。それで、お父さん。こんなに何十個もある井戸の水を‥まさか今日一日で全て浄化する、なんて言わないですよね?」


「‥僕は出来損ないの魔法使いだからね、二日間でやるよ。‥普通の魔法使いなら一日で終えてしまうんだろうけどね。」


「‥お父さん、またそうやって‥‥。」 


ラナンはまたもや卑屈になっていました。こんなに沢山の井戸の水の浄化を、二日でやるだけでも充分凄いのに‥‥。


そこで、リナはある事に気付きました。ラナンは空が飛べるのです。空を飛べば、き井戸から井戸への移動がもっと楽に早く出来るはずなのです。


「お父さん、空飛べますよね。空飛んで移動したら、もっと早く沢山の井戸水を浄化していけるのでは?」


リナは、空を飛べない自分を置いて行っても良いんだよ、という意味も込めてラナンにそう言いました。


「‥僕は早さをあまり求めてないんだ。それよりもリナとこうして一緒に作業しながら、ゆっくりと進んで行きたいよ。それにね、あまり魔法使いっぽい事をして、街の人を驚かせたくはないんだ。あくまで自然に作業を進めたい。」


「‥お父さん、私や街の人達の事を考えてくれての事だったんですね。さすがです。」


リナは、ラナンの優しさや、街の人達への気配りに改めて感心しました。そして、尊敬の念を持って、ラナンの事を眺めました。


「‥リナ、僕の事を見過ぎ。恥ずかしくて集中できないや。」


「‥あっ、ごめんなさい。」


「‥そうだ、リナも浄化魔法をやってみる?」


ラナンは、昨日の話を覚えていたようです。


「‥お父さん、やっぱり私には無理だと思います。」


「大丈夫だって。ほら、手を翳して‥水から瘴気を取り除くイメージをしながら、ゆっくり呼吸を繰り返して。‥‥どう?イメージできた?」


リナはラナンに言われた通りに、井戸の水に手をかざしてやってみましたが、自分に浄化というものが出来ているのかどうか、さっぱり分かりませんでした。


「‥お父さん、ごめんね。全然出来ない。」


リナがそう言うと、ラナンは井戸の中を覗き込み、黙って手を翳して浄化をし直しました。


「‥ごめん、リナ。僕の教え方が悪いんだと思う。君のやり方では井戸の水は浄化出来なかったみたいだ。‥僕がもっと凄い魔法使いなら、君に浄化魔法ぐらい簡単に教えられるのに‥‥。」


リナはその言葉にカチンときてしまいました。素人のリナに、本気で魔法が使えると思いこんでいるところや、ラナンが自分の魔法能力を卑下している事が許せなかったのです。


「‥お父さん。そもそも魔法なんて、素質がないと使えないものなんです。だから、私が魔法を使えなくても当然なんです!それに、お父さんは全然出来損ないなんかじゃありません!立派な魔法使いですよ。いい加減に認めて下さい!」


リナはとうとうラナンに大声で怒ってしまいました。


「‥リナ、君に無理を言ってごめん。あと‥気を使わせてしまったようだね、ごめんね。」


リナに叱られたラナンは、落ち込んで項垂れてしまいました。


「‥‥ごめん、お父さん。私こそ言い過ぎちゃった。お父さんの事は尊敬してるのに‥何でか時々苛々させられちゃうの。」


「そうか、尊敬してくれてるんだな。ありがとう。」


二人はお互いに苦笑いをしながら、再び作業に集中する事にしました。


その後ラナンは、街の中の半分以上の井戸水を浄化してしまいました。その数はおやそ20個ほど‥‥。中にはとても汚染されていた水もあったのに‥。


リナはラナンの事を、やっぱり凄い魔法使いだなぁと尊敬するのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ