5、リナの双子の妹、ナターシャ姫
ナステカ王国には今年16歳になる綺麗なお姫様がいました。お姫様にはナターシャという可愛い名前がありましたが、まわりの人々はこのナターシャ姫を、妖精のように美しく、どこか儚げな様子を喩えて「妖精姫」と呼んでいました。
ですが、実際の「妖精姫」は、人々のイメージとはかなり違っていました。どこか傲慢で、我がままな姫なのでした。
「はぁ、相変わらず何をしていても満たされないわぁ。」
「姫、またそれですか?」
ナターシャ姫の婚約者、トランタ王国の第二王子バンデルは、姫と一緒にお茶をしていましたが、姫のいつもの口癖には少し辟易していました。
「‥だって、国中の魔女達の祝福のおかげで、ピアノや刺繍、ダンスだって何だって‥‥何の努力をしなくても、できてしまうのよ。‥だから、私は退屈なの。
‥‥一度でいいから、何かを一生懸命努力して成し遂げてみたいわ。‥‥まあ、どうせまた努力する前に出来てしまうのでしょうけど。」
「アハハ、贅沢な悩みだなぁ。だけど、何かを一生懸命努力してみたいか、うん、なんとなく分かるような気がする。」
「でしょう?‥それにしても私の苦手な事って何かあるのかしら?」
「‥乗馬?」
「あっ、それならもうやったわ。馬に乗った途端、すぐにコツを掴んでしまったわ。」
「‥じゃあ、恋は?」
「‥‥えっ‥馬鹿ね。私にはあなたという婚約者がいるじゃない。‥恋なんて必要ないでしょ?」
「‥恋の祝福は受けてないの?」
「‥まあ、祝福を与える魔女達も、私には必要ないと思ったのでしょうね。」
「‥そうなんだ。‥僕は一度でいいから、小説や劇のような恋がしてみたいかな。」
「‥えっ‥。」
「‥あっ、もちろん君との婚約は大歓迎だし、君と結婚してこの国に永住する事も承知しているよ。」
「‥‥。」
「‥ただの妄想だよ。ごめん、ナターシャ。」
「‥‥あなたは私を好きではないというの?」
「‥だって、生まれた時からの婚約者だっただろ?正直君をあまり異性として意識していなかったかもしれない。」
「‥‥帰って。」
「‥え?」
「‥帰ってよ!」
ナターシャ姫は、従者にバンデル王子を玄関まで送るように言って、お茶会の席から立ち去ってしまいました。
「‥‥急に何なんだ‥。」
「失礼ながら‥バンデル様はもう少し女心というものを小説などから学んだ方が良いのかもしれません。」
「‥そうなのか?さっきの会話に何かナターシャ姫を怒らせる要素があったのか?」
「‥姫様の前で、別の女性と恋をしたいと言っているように感じました。」
「‥‥まあ、「妖精姫」と呼ばれるだけあって美しい外見には好感が持てるけど、姫の性格は妖精のように儚げな、という感じではないよなぁ。何だか傲慢で自己中心的な感じがしてしまうんだ。」
「‥‥。」
「あっ、否定しないんだね。‥あの顔で、違う性格の女の人なら、もっと好きになれたのかもな‥‥なんてね。でも、大丈夫。僕は我がままなナターシャ姫も嫌いじゃないよ。小さな頃からずっと一緒にいたせいか、一緒にいると凄く楽なんだ。だから、結婚しても彼女となら楽しく過ごして行けると思うんだ。」
「ナターシャ姫を大切にして下さいね。」
「‥分かってるよ。」
バンデル王子は、そう言ってトランタ王国へと帰国しました。次の滞在の時までには、姫の喜びそうなプレゼントでも贈って、姫の機嫌を取らなきゃな、なんて考えながら‥‥。