94・誰が敵で、誰が味方なのか
視界がはっきりしてくると──エドラは牢屋がいくつもある場所に立っていた。
「ここが……城の中?」
しかしパッと見、牢屋には誰も入っていなかった。
エドラは妙な違和感を抱く。
「でも……それを気にしている場合じゃない。早くアリエルを見つけ出さなきゃ──」
と言葉を続けようとした時であった。
「エドラ!」
誰かがエドラを呼ぶ声。
数瞬の後、すぐに声の正体は分かった。
「アリエル!」
フロアの一番奥──牢屋の中にアリエルがいたのだ。
「すぐに見つかってよかった……!」
エドラはアリエルのもとまで駆け、鉄格子を両手で握る。
「助けにきてくれたのですね……! でもどうやって?」
「モーガンさんから貰った転移の魔石を使った。場所は──って今はそんなことを説明している場合じゃない」
首を左右に振るエドラ。
牢屋に閉じ込められたアリエルは幸いにも、どこも傷を負っていないように見えた。
そのことにほっと安堵の息を吐くエドラであったが、胸中の不安はさらに濃くなっていった。
「ユリアーナに閉じ込められたの?」
違和感を押し込めつつ、エドラは彼女に質問する。
「え、ええ。なにをされるかと思いましたが、彼女は転移するなり、わたくしをここに……」
ユリアーナが転移の魔石を使ったのは、魔王軍四天王から逃れるためだ。
しかしアリエルを連れ去ろうとしたのはユリアーナだけではない。
他の騎士たちもユリアーナと志を同じにしているようだった。
(この件は最悪、騎士団──国が絡んでいる? だから一時的にここにアリエルを閉じ込めてる……?)
彼らが求める蒼天の姫。
一体、それはなにを意味するのだろうか?
ますますエドラは混乱した。
「とにかく早くここを脱出して、クレアさんのところに戻ろ。考えるのはそれから」
「クレア……ブリスのいた、魔王軍の方ですわね。あの時、一緒に戦っていた赤髪の女性も、もしや……?」
「うん。四天王の人らしい。魔王軍《剣》の最強格、カミラさんと名乗っていた」
「やっぱりそうなんですか……それにしても不思議ですね」
複雑そうな表情のアリエル。
「今まで敵だと思っていた魔王軍に助けられ、わたくしたちの味方だと思っていた騎士団が敵に回るだなんて……もう誰が敵で、誰が味方なのか分かりません」
アリエルの言った通り、戦況は目まぐるしく変化している。
《大騒動》が起こったかと思えば、ブリスが実は元魔王軍のメンバーで──さらにはユリアーナが裏切った。
ここに至るまで、まだ一日も経っていない。アリエルがそう言うのも仕方なかった。
しかし。
「言ったでしょ。考えるのはここを出てからって」
「は、はい。でもどうやって……」
固い鉄格子はエドラとアリエルの力では、ビクともしそうにない。
当たり前ではあるが──アリエルは剣を取り上げられているみたいだ。力づくで突破することはますます不可能。
「ここ……魔法で施錠されている」
すぐに気が付き、エドラはそう声を発する。
本来ならさらに絶望的な話だ。
一般的に物理的に施錠するよりも、魔法の方が遥かに防犯性が上がる。
物理的なら無理矢理壊してしまうことも出来るが、魔法ではそれが困難だからだ。
だが、今に限ってはこちらの方が有り難い。
「待ってて……こんな鍵、私がすぐに解錠してあげるから」
魔法で施錠されている部分に、エドラはそっと手を当てて魔力を送り込んだ。
(……うん。これくらいなら、私でもなんとか解錠出来る!)
エドラは逸る気持ちを抑え、落ち着いて魔法を分析。丁寧に魔法を解いていく。
「……解けた!」
カチャリ。
そう解錠する音が聞こえた後、エドラは牢屋の扉を開ける。
「すごいですわ! エドラ!」
「これくらい、朝飯前」
ちょっぴり胸を張るエドラ。
(だけど……やけに簡単な魔法だった。まるで私に解かれることが想定されていたみたい……)
「エドラ……?」
動きが止まってしまっているエドラに、アリエルが心配そうに声をかける。
「……ううん。なんでもない。あとはここから脱出して、四天王さんと合流したら私たちの勝ち」
エドラはすぐに頭の中を切り替え、前を向いた。
(あの四天王さんたちと一緒にいれば、大丈夫。いくらユリアーナでもあの二人には勝てないんだから)
違和感を押し込めて、エドラは自分にそう言い聞かせた。
「早く行こっ。出口はあっちに──」
エドラがアリエルの手を取り、この場から脱出しようとすると──。
「やっぱり来たね」
嫌な声だった。
その声を聞いて、エドラは体中が凍ったような感覚になる。
ゆっくりとそちらに顔を向けると……。
「ユリアーナ……!」
忌々しげにアリエルが名前を呼ぶ。
出口の階段から、女騎士ユリアーナがゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
書籍1巻、Kラノベブックス様より発売中です!





