84・《血》の力の使い方
「俺の体に流れる魔王の血について聞きたい」
なにを言おうか迷っている魔王に向けて、俺はそう質問を放った。
すると魔王は「うむ」と頷いてから。
「やはりそれからか。どこまで知っておる?」
「クレア姉から……」
俺は彼女から聞いたことを魔王に伝える。
「とうとうブラッドちゃんも知ってしまったか。クレアの言った通りじゃ。十年以上前、そなたの故郷が魔物によって全滅させられてしまった時。我が自分の血を使ってブラッドちゃんを蘇生した」
「どうして助けたんだ?」
「んー……どうしてだろうな? 人間を助けても、我等魔王軍にはメリットがないと思うしな。今思うと不思議なことばかりだ」
と魔王は首をひねった。
しかしこいつは昔から、少々お人好しな部分がある。
それは俺と出会う前からもそうだったに違いない。
両親を殺され、俺自身も失意のまま死んでしまったのを見て、哀れみのような感情を抱いたんだろう。
「ブラッドちゃんは……我のことを恨んでいるか?」
魔王が言いにくそうに、そう口にした。
「恨んでいる? どうして」
「運命を弄ぶような真似をしたからな。それにいくら蘇るといっても、魔王の血など体に流して欲しくなかっただろう。そんな勝手な真似をして……と」
「はっ! そんなわけない。俺は魔王には感謝の気持ちでいっぱいだよ。皮肉でもなく、これは本当の気持ちだ」
「そ、そうか。それはよかった」
ほっと魔王が胸を撫で下ろす。
「だが……あれは好きな時に百%力を引き出すことが出来ない。しかも魔王の血が覚醒している時、まるで自分が自分じゃなくなっちまう」
あの時のことを思い出す。
邪悪な念に囚われ、目の前のものを全て破壊したくなるような……そんな不思議な衝動だった。
「一体どういう仕組みになっているんだ?」
俺が問うと、魔王は表情を引き締めて。
「我の血が流れているというだけで、自己治癒力や身体能力が向上する。このことは自覚しているだろう?」
「まあな。よく考えれば、そうでもないと四天王のスパルタ特訓に耐えられるわけがない」
肩をすくめる。
俺が言うと、同席している四天王の連中が苦い表情をした。
魔王はそんな四天王一同の顔を眺めながら、こう続ける。
「しかし……百%引き出すにはコツがいる。そもそも——古代竜やアヒムとの戦いの様子も聞いておるが——そなたはまだ百%引き出しているわけでもない。せいぜい三分の一くらいだ」
「マ、マジかよ」
戦慄する。
たかが三分の一だけでも、あれだけの力を得ることが出来るのか……百%になってしまったら、一体どれほどの力なのか。
「そしてもう一つ、自分を見失ってしまう件だな。それも力の使い方が下手なせいだ。元々我に流れている血は邪悪なものであった。先代も先々代の魔王も、そのせいで人間達を根絶やしにしようとしていたからな。全く……その時の負の遺産のせいで、人間と共生することが難しくなってしまった」
溜め息を吐く魔王。
「しかし今の魔王……あんたは違うよな? どうしてだ?」
「我がこの力を手中におさめたからだ。無用な邪悪な念に囚われず、力だけを引き出した。ゆえにブラッドちゃんも使い方さえ覚えたら、我と同じように自分を見失わずに戦えるようになる」
それは朗報であった。
だが同時に、俺が魔王と同じように戦っている光景など想像出来ない。
それほどまでに魔王の力は圧倒的なのだ。
一人ずつという条件付きだが——今の俺なら四天王と良い勝負が出来るかもしれない。
しかし魔王は四天王が束になっても敵わない。それほどまでに力の差がある。
「どうやったらそれを使え……」
「まあ待て。一旦その話は置いておこう。まずは教団についてだ」
魔王は手の平を向けて、俺を制止する。
そして「ブレンダ」と呼びかけて、今度は彼女が喋り出した。
「教団についての情報はまだ全て分かったわけではありません。それどころか、分からないことばかりと言っても差し支えないでしょう」
「ブレンダ姉でもそうなのか」
「はい。しかし今回のアヒムの裏切りの一件から見るに、魔王軍の中にも反乱分子がまだ隠れていると考えられます。そのことについても調査を続けている段階です」
ブレンダ姉からどこからともなくバインダーに挟んだ紙を見ながら、そう説明した。
「本来なら人間共の間でのいざこざだと思っていましたが、こうなったらそういうわけにもいきません。魔王軍にも被害が及ぶと考えられます。なのでここは魔王軍としても、その教団の処理に動きたいと思います」
「当然だな。それにあいつ等の中には『世界征服』などと宣っているヤツもいた。魔王軍としても見逃すことは出来ないだろう」
執事のディルクの件を思い出す。
ヤツは「世界を我が手に」というような世迷い言を宣っていた。
そんなことが出来るはずもないが……ヤツの自信満々な顔。無視出来るものでもなかった。
「ここで厄介になるのが紅色の魔石です」
ブレンダ姉が言うと、クレア姉が「そうじゃ!」と立ち上がり、
「あれは厄介なものじゃ。魔物に働きかけ、凶暴化したり強化する魔石など聞いたがない。それに魔力を無尽蔵に供給することが出来る。本来のアヒムなら、蘇生魔法など一度も使うことが出来なかった。しかし……あの時のアヒムはそれを連発していた。一体どれほどまでの魔力が込められているのやら」
と早口で捲し立てた。
クレア姉の言う通りだ。
魔王や『治癒』の最強格ブレンダ姉が蘇生魔法を簡単に使いやがるから、感覚が麻痺してしまうが、本来なら『神の奇跡』と称されるものなのである。
クレア姉の部下だったアヒムごときが使えるものとは思えない。
「あの魔石の正体については、なにも分からないのか?」
俺はクレア姉に問う。
「それもまだ分からぬ。丁度アヒムにあれの調査、研究をやらせていたところだしな。こうなった以上、あやつから伝えられた情報もどれが本当で嘘なのか……」
しかしクレア姉はお手上げ状態であった。
やはり分からないことばかりだ。
ここに来ればなにか分かると思っていたが、一筋縄ではいかないらしい。
「しかし……これはまだ我の推測なんだが」
話にじっと耳を傾けていた魔王が口を開く。
「おそらく、あれはこの世のものではない」
「この世のものではない?」
「うむ。おそらく《神層》にあるもの……もしくは《神層》にあるなんらかのものを素材にして、あいつ等が使いやすいように加工したのでは? ……と思っておる。どうして《神層》のものを、教団とやらごときが持っているのかは不明だがな」
《神層》
こことはまた違う次元に存在しているという世界のことだ。
一説には神が住んでいるという話もあるが……誰も《神層》には辿り着いたことがなく、未だ謎に包まれているのだという。
「もし魔王の推測が当たっているなら、ますます厄介だな」
俺は口元に手を持っていき思考する。
ディルクやアヒムが所属している教団は、得体の知れない存在だ。まだなにか隠し持っているかもしれない。
このまま戦いに身を投じても、俺はアリエル達を守ることが出来ないだろう。
ならば……。
「やはり今後の戦いを考えたら、魔王の血を完全に使いこなせるようにしたいな」
ここに話が戻ってくることになる。
俺が口にすると、
「時は満ちた」
と魔王は椅子から立ち上がり、こう口にした。
「そなたが力を求めるなら、その血の使い方を伝授しよう」
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