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「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無双する〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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81・第二の人生

今回は過去話になりますが、次から元に戻ります。

 ——これは始まりの物語。


「魔王様。この村は全滅みたいですね」

「そうみたいだな」


 四天王『治癒』の最強格ブレンダの声を聞き、魔王は辺りを眺めた。


 魔王とブレンダはたまたまこの近くに立ち寄っていた。

 本来なら真っ直ぐ魔王城に帰るところではあったが、魔王はなにか()()がし、帰る前にこの村に訪れたというわけだ。


(しかし……酷い)


 それは小さな村であった。

 細々と農作物を育て、たまに来た商人と話すことが唯一外界を知れるといった類の。


 おそらくこの名も知れぬ村は()()()()()()のだ。


 辺り一面に死体が転がっている。建物は壊れ、ちょっと前まで人間が暮らしていたとは思えないくらいの被害。

 魔王はそんな地面に転がっている人間の頬にそっと手を当てた。


「魔物共は欲望のままに人間を狩る。ゆえにこのような惨いことを平気でする」

「魔王様は人間共に同情を?」

「そうかもしれんな。おそらく魔物の襲来は、この村の人間ではとても対処しきれない数だったに違いない」


 そうなった場合、近くの街に救助要請を出す必要がある。


 しかし——これは憶測だが——村が要請を出したとしても、誰も助けに来なかった。

 このような名も知れぬ村を救うために兵や冒険者を出すくらいなら、見捨てた方が幾分かマシ……そう判断したのだと思う。


 もしくは要請を出す隙もなかったのか、そもそも出す手段すらなかったのか。

 理由は分からないが、この村の人間だけでどうにかするする必要があった。


 だが、この規模の村では魔物共の襲来に対処しきれない。

 村はただただ魔物共が村を蹂躙じゅうりんしていくのを、見ることしか出来なかった。

 その時の人間達の思いを想像すると、胸のところがきゅっとなってくる。


「相変わらず魔王様の思いはよく分かりません。人間との共生を目指している魔王様の考えは承知しておりますが、だからといって可哀想と思うとは……」

「まあいいではないか」

「他の魔族達に知られればどんな顔をするやら」


 ブレンダが溜め息を吐く。

 魔王はそんな彼女の顔を見て、苦笑するしかなかった。


「ではそろそろ帰るか。時間を取らせたな。まだ雑務は山ほど残っているし、城に戻って……ん?」


 そう魔王が踵を返そうとした時であった。

 地面に転がっている一人の少年に目がいく。


 無論——その少年も他の者共同様に、息絶えていた。


「死んでから、まだ時間が浅い?」

「そのようですね」


 ブレンダが興味なさそうに言う。

 魔王は先ほどと同じようにして、少年の頬に手を当てた。



 ——憎い。



 彼の後悔が雪崩れ込んでくる。


『憎い憎い憎い憎い憎い! 両親を殺したあいつ等を! あいつ等に対抗する力が欲しかった!』


「驚いたぞ、ブレンダ。死してなお、魔物共に対する執着が強いみたいだ」

「それがなにか?」


 ブレンダが首をかしげる。


 強すぎる執着は、死んでからもしばらく、思念としてその者の内部に残り続ける。

 その思いが強ければ強いほど、なかなか消えないのだ。


『力が欲しい力が欲しい力が欲しい! 誰でもいい! そのためだったら俺は悪魔にだって、魔王にだって魂を売る! 誰かお願いだ。俺にやり直させる力を……っ!』


「ふむ、面白い」

「魔王様?」


 少年は『力』を欲した。

 彼の思念を読み取るに、両親も魔物に殺されてしまったのだろう。

 まだ六歳くらいの幼い少年だ。

 彼は自らの無力さを嘆いたのだ。


「魔王様。もしやとは思いますが、その少年を蘇らせようとしていないですか?」

「その通りだが?」


 魔王が言うと、ブレンダは表情を一変する。


「なにを考えているんですか! 人間を蘇らせるなんてしてはいけません! 私達にメリットがありません! それに他の者にも示しがつきません!」

「メリットうんぬんの話ではない。我がしたいと思ったからするのだ」

「仮にそれを許すとします。ですが他の者に比べてマシとはいえ、死んでから時間も経っています! これではいくら魔王様でも、蘇生魔法を使って蘇らせることが……!」

「蘇生魔法は使わん」


 魔王はブレンダが制止するのも無視して、自分の手の甲を噛みちぎった。

 ポタポタと血が地面に滴り落ちる。


「我の血を使う」


 そして魔王は血を少年の口に流し込んだ。


 無論、このような真似をしても普通なら蘇らせることは出来ない。そう簡単に魂の復元は不可能なのだ。


 しかし彼の生前への強い未練が本物のものならば。

 この血が適合してくれるなら。


 ほとんど無に等しい可能性が、生命となって芽吹くだろう。


「……おっ? どうやら息を吹き返したみたいだぞ。やはり我の目論見通りだ」


 少年がゆっくりと目を開けた。


「こうして見ると、なかなか可愛らしい顔をしているではないか。いいか、少年。そなたはこれから——」


 彼の第二の人生を祝福するように。

 魔王はその者に『覚悟の血(ブラッド)』という名を与えた。

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