80・魔王の血
(四天王視点)
「どうやらブラッドちゃんは王都におったみたいだな」
魔王城。
カミラ、ブレンダ、ローレンスの三人は魔王の前で横一列で話に耳を傾けていた。
「どうやらそのようです」
ブレンダが床に膝をついたまま、魔王の言葉に答える。
最初ブラッドはノワールという街で冒険者として生活していたらしいが、なんでも依頼を受けて王都に移動したらしい。
その情報をつかんだクレアがすぐに王都に向かい、ブラッドと接触を果たしたらしいが……。
「しかし……ブラッドもクレアも運が悪いな。たまたま《大騒動》などに巻き込まれるとは」
と魔王は息を吐く。
これもクレアから報告を受けたことだ。
突如王都で《大騒動》が発生。
このままではブラッドと落ち着いて話せないと判断したクレアは、取りあえず《大騒動》をおさめることに移行。
見事成功したらしい。
(クレアにしては良い判断でしたね……)
そこで王都、そして人間を見捨ててしまってはブラッドを激怒させてしまうだけだった。
そうなっては、ブラッドの魔王城帰還がますます遠のいてしまう。
だからこそ、クレアは《大騒動》をおさめることを手伝い、ブラッドの好感度を上げようとしたのだろう。
「ですが、そのおかげで今のところクレアはブラッドと平和的に話が出来ているようです」
「そのようだな。全く……クレアのヤツも、たまにはちょーっとはマシな行動をするものだな。あやつのことだから《大騒動》に紛れ、人間どもを駆逐する可能性もあったと思うが」
「まさかそんなバカなことを……いや、有り得ますわね」
「だろ?」
基本的に、魔王から「バカだ」と思われている四天王一同であった。
「魔王様……アヒムが裏切った話も聞いた?」
今度は『支援』の最強格、ローレンスが恐る恐るといった感じで口を開いた。
「もちろんだ」
魔王が嘆息する。
「あやつもバカなことをしたものだ。なんでも魔王軍を裏切って、教団とやらに尻尾を振っているそうではないか」
「ふえぇ……その教団ってなんなのかな?」
「現時点では分からぬ。しかし魔力純度が高い、特別製の魔石を大量に保持しているとも聞く。たった一つで、アヒムごときがブラッドを追い詰めることが出来るくらいの……な」
今回のことで、とうとう人間界のいざこざは人間だけの問題ではなくなった。
アヒムも裏切ったとなれば、他の魔族にも影響が及んでいると考えられる。
(教団とやらがなにを考えているか知りませんが……あまり良い話ではないようですね)
ブレンダが思考に没頭している最中、
「なあ、四天王達よ。我ら、魔王軍の目的がなんなのか分かるか?」
不意に魔王が質問する。
それに対して、一番最初に元気よく答えたのは……、
「人間の殲滅だ」
バカ代表、カミラであった。
「……ローレンスは?」
「ぇ、え!? えーっと……人間どもを殺しまくって、魔王軍が世界の覇権を取ることかな?」
「……はあ〜〜〜〜〜〜」
二人の解答を聞いて、魔王が深く溜息を吐いた。
「ブレンダ。お前なら分かるな?」
「はい。人間との共生です。同じ大地で暮らす者として、持ちつ持たれつの関係を築いていこう……というのが魔王軍の目的ですよね」
「その通りだ。お前だけでも分かっていてよかった」
魔王が安心したように胸を撫で下ろす。
「し、しかし! よく人間どもと戦争を起こしているではないか! あれは人間どもを殲滅するために起こしているのでは?」
反抗するカミラ。
しかし魔王は堂々とした態度で、
「無論、戦いが起こることもある。しかし我は基本的に人間達と戦いたくないのだ。しかし戦いでしか解決出来ない問題もある……難しい話だ」
と答えた。
しかし『魔王軍の目的が人間どもの殲滅』と勘違いしている輩は、魔王軍の中にもたくさんいる。そちらの方が多数派かもしれない。
(……魔王軍の中では、戦争の最中に家族を殺された者もいる。そういった者達に、今更人間達に憎しみを抱くな……と指示しても、なかなか難しいことかもしれませんね)
唐突にブレンダは思った。
「とにかく……そういうことだ。アヒムのように人間どもを殺し、よもや世界を自分達だけのものにするなどとは、我は考えておらぬ。
そのあたりはアヒムとは一線を画するところだ。今一度、四天王の皆の衆。理解するといい」
魔王のその言葉に、四天王達の表情が引き締まった。
それを見て魔王は満足げに頷き、話を続ける。
「人間との共生のために、ブラッドには次期魔王になってもらう予定だった。元々人間であるブラッドが、人と魔族達の橋渡しのような存在になってくれるよう……という期待も込めてな」
「……なあ、魔王様よ」
魔王が話していると、カミラが手を挙げて発言した。
「どうした?」
「ずっと前から気になっていたが、ブラッドは本当に人間なのか?」
「なにを言っておる」
「いや……自己回復能力が人並み外れている。さらにいくら私達が教育しているからとしても、飲み込みが早すぎる。そのおかげで総合力に関しては、四天王よりも遙か上にいく力を持ったのだ。普通の人間だったら有り得ないことでは?」
カミラがそう疑問を覚えるのも不思議ではなかった。
しかもブラッドは、古代竜を倒す際にダークバーストという上級闇魔法。アヒム戦では超級のブラッドテンペストを使用したという報告も、クレアから受けている。
普通の人間なら、ここまですることは不可能なのだ。
しかし……。
「なんだ、カミラよ。お前まだ知らなかったのか?」
「はあ?」
カミラがぽかーんとした顔をするが、残りのブレンダとローレンスは「なにを今更」といった顔をしていた。
「よいか? ブラッドは元々、魔物どもに殺されていたところを我が持ち帰った」
それから魔王城に住み、ブラッドは魔王軍の一員として育てられてきた。
「だからなんだ?」
「ふむ……ここまで言って分からぬか。ブラッドは一度死んだのだ。ブラッドの本当の両親とともにな」
最早手遅れであった。
ブレンダが蘇生魔法を使おうにも、術がかからないくらい時間が経過してしまっていたのだ。
それなのに……どうしてブラッドはまだ生きているのか。
答えは……。
「あの時に我の血をブラッドに輸血したのだ」
と魔王はこう続けるのであった。
「あやつの体の半分は我の血で出来ておる。ゆえにブラッドはただの人間では既にないのだ」
二章終わりです!
果たしてブリスの出生の秘密とは…?(゜ω゜)
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三章、よろしくお願いします!





