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「無能はいらない」と言われたから絶縁してやった 〜最強の四天王に育てられた俺は、冒険者となり無双する〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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74・お父さん!

 研究所の一番奥の部屋に行くと、衝撃的な光景が目に飛び込んできた。


「お父さん!」


 エドラが声を上げる。



 そこにはカマキリのような魔物に、胸を貫かれているダミアンさんの姿があったのだ。


「エ、エドラなのか……?」


 ダミアンさんの顔がゆっくりとこちらを向いた。

 気のせいだろうか、エドラを見た瞬間、ダミアンさんの口元がわずかに緩んだような気がした。


「気斬!」


 俺はすぐさま剣を振るい、ダミアンさんを襲っている魔物を一発で倒す。


 俺達はダミアンさんのところまで走り、彼を抱えた。


「ブ、ブリス君だったかな……助けに来てくれたのか」

「あまり喋らないでください。辛いでしょう?」

「ふふ、もう僕はここで終わりさ。今まで好き勝手にやってきたツケが回ってきたんだろうな……くっ!」


 ダミアンさんが真っ赤な血を吐く。


 俺は治癒魔法を発動……うん、なんとかこれくらいなら!

 彼の胸を中心として淡い光が包む。


「エドラ……君には申し訳ないことをしたと思っている」

「いいから……喋らないでっ」


 エドラの瞳にうっすらと涙が浮かぶ。


 俺は治癒魔法に集中しながら、二人の会話に黙って耳を傾けていた。


「お父さん、私。お父さんに振り向いて欲しかった」


 エドラが涙交じりに声を絞り出す。


「……すまない。ずっと研究ばかりで、エドラにろくに構ってあげられなかった」

「ほんとだよ。だってお母さんの時だって……」

「ふふ、これは懺悔になるのかな。お母さんが死にそうな時、僕はずっと彼女の病気を治す薬を作っていたんだ」

「え?」


 エドラが目を見開く。


「そんなこと……一言も言わなかったじゃん」

「うん。当時はエドラのことまで気が回らなかったからね。しかも結局、彼女を治してあげられる薬も完成には至らなかった。僕は研究者失格だよ」

「…………」


 言葉を失うエドラ。

 耐え難い苦痛が襲っているはずなのに、ダミアンさんの顔はどこか安らかだった。


 憑き物が取れたかのように、ダミアンさんは語り続ける。


「ああ……今思ったら、彼女が死んでから僕はさらに研究にのめり込んでいったのかもしれないね。そうしていないと、心が壊れてしまいそうだったから。『研究』というのを良い逃げ道』して僕は使っていた。

 そして全てを気付いた時には、もうとっくにエドラは僕の前からいなくなっていた。

 最後に君に会えてよかったよ。天国で、は……母、さんも、僕のことを……許し、てくれる……か、な……?」


 言いたいことは全て言い終わったのだろうか。

 まるでダミアンさんは事切れたかのように、目を瞑った。


「お父さん?」


 エドラがダミアンさんの体を揺さぶる。


 しかし答えは返ってこない。


「嘘だよね? 死なないよね? お父さん。私、お父さんのこと、嫌いじゃなかったかもしれない。嫌だよ。『ごめんね』も伝えられずにお別れなんて……」


 エドラはダミアンさんの胸に顔を埋めた。


「よし、終わった」


 そこで俺の方も、やっとのことで一段落ついた。


「なあなあ、エドラ」

「っ……っ……!」


 エドラは嗚咽を漏らすばかりで、俺の声が耳に入っていないようであった。


「今更ちょっと言いにくいんだけどな。ダミアンさんだったら大丈夫だぞ。俺が治癒魔法を使ったからな」

「え?」


 そう言ったら、やっとエドラの顔が上がった。


「なかなか深い傷だった。普通なら死んでしまう程にな。だから普段より集中する必要があったから、なかなか言い出せなかった」

「……なに? お父さんは無事だってこと?」


 俺は首肯する。


 まるでダミアンさんが死んだかのように目を瞑るから彼女も誤解したものの、今はただ眠っているだけである。

 その証拠にダミアンさんは安らかな寝息を立てていた。

 しばらくしたら、また目を開けてくれるであろう。


「えい」

「痛っ!」


 エドラは立ち上がって、無表情のままに軽く俺を蹴った。


 な、なんで蹴られないといけないんだ!?


「恥ずかしい姿を見られた……でもありがと」


 とぷいっと視線を逸らしてしまうエドラ。


 だが、一瞬笑っているようにも見えた。


「さて……紅色の魔石はどこにあるんだか」


 この部屋にはダミアンさんだけではなく他の研究者の人も何人かいた。

 みんな傷を負っているようであるが、これくらいなら治癒魔法ですぐ治るだろう。


 俺はみんなを一気に治癒魔法で治してから、その中でも比較的マシそうな人に紅色の魔石のことを問いかけた。


「あ、あれは……! 人間のような形をした『なにか』が奪い去ってしまった!」

「魔石を!?」


 俺はつい声を大きくしてしまう。


「い、いきなり紅色の魔石が光り出したんだ! 慌てていたら……王都に魔物が侵入してきて、気付けばこんな状況になっていた。私達はあの魔石をなんとかしようと四苦八苦していたが、羽を生やした邪悪な存在が現れ、紅色の魔石を奪っていった。その際……そいつがあの魔物を召喚し、所長が……!」

「なるほど」


 やはり紅色の魔石が絡んでいたか。

 それにしても……羽を生やした邪悪な存在とは?


「もう少し紅色の魔石を奪っていたそいつの特徴を聞いてもいいですか?」

「は、はい。そいつは……」



 俺は研究者の男から『邪悪な存在』についての特徴を聞き、驚愕した。



 あいつか……!

 俺の予想通りだったなら——そいつは俺も知っているヤツであったが、どうしてこんな凶行に……?

 元々胡散臭くはあったが、こんなことをするようなヤツだとは思えない。


「まあヤツに直接聞いてみればいいか。ありがとうございます」

「君は今からどこに……?」

「決まっていますよ。そいつに話を聞いて、倒しに行きます」

「なっ……! や、止めておいた方がいい! ヤツは強い。魔法使いでもある私達を、まるで虫けらのように扱っていった。いくら君でも倒せるようなヤツでは……」

「大丈夫です。俺の想像通りのヤツなら、苦戦はするでしょうが負けないと思いますので」


 よし……どちらにせよ方針が定まった。


 俺はエドラとダミアンさんの方を見る。


「俺は市内に戻る。エドラはここでダミアンさんと一緒にいてくれるか?」

「わ、私も行く!」

「その心遣いは嬉しいが、またいつ魔物が入ってくるか分からないからな。その時にダミアンさんを守ってあげて欲しい」

 とはいえ、研究所の中にいる魔物は大体討伐した。これくらいならエドラ達でも十分に対処することが出来るだろう。


「ブ、ブリスはどこに行くの?」

「俺か?」


 俺は部屋から去る前、エドラにこう言い残した。


()の仲間にきつーいお説教だ」

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