73・研究所
魔法研究所に行くまでの道にも、街中は魔物で溢れかえっていた。
しかし……現在のところは王都に元々いた騎士団、そして冒険者達がなんとかおさえてくれている。
「これならまだなんとかなりそうだな」
「だけど……このままで終わるとは思えない」
エドラの言う通りだ。
俺の悪い予感は、当たる可能性が高い。
これ以上……たとえば先日の古代竜のようなものが現れれば、一気に均衡が崩れてしまうだろう。
「急がせねば」
その後、俺達はなんとか研究所に辿り着くことが出来た。
「中にも魔物が入り込んでいる……! エドラ、行くぞ」
「うん」
研究所の中に入る。
GUOOOOOOOOO!
GYAAAAAAAAA!
中は魔物が蔓延っている。
研究所の人達もほとんどが魔法使いなのだろうか。
なんとか魔法で魔物達に対抗しているが、やはり本職ではないので徐々に押されていく。
「あっ、あの人……!」
研究所の隅の方で、白衣を着たお姉さんが魔物に襲われていた。
既に魔力が切れているのか、女性は既にボロボロの姿で、いつ魔物に殺されてもおかしくなかった。
「GUOOOOOOO!」
狼型の巨大な魔物が鋭い爪を向け、女性に攻撃しようとする。
万事休す。
このままでは彼女は魔物に斬り裂かれ、命を落とすところであったが……。
「くっ、間に合え……! 気斬!」
俺は離れたところから、斬撃を放つ。
ズシャアアアアアッ!
魔物の背中がぱっくりと斬り裂かれ、そのまま床へと倒れ伏せた。
「だ、大丈夫ですか!?」
俺達は女性にすぐに駆け寄り、安否を確認する。
「え、ええ……大丈夫よ。助けてくれてありがとう」
「大丈夫って言いますけど、怪我してるじゃないですか」
女性の太ももを見ると、痛々しい傷が残されており、血が大量に流れ出ていた。
だが女性は気丈に振る舞おう。
「こ、これくらい大丈夫よ。ちょっと痛いけど……我慢出来ないほどではないから……っ!」
「痛そうじゃないですか。無理はいけません。ちょっと待ってくださいね」
痛がる女性の太ももに手を当て、治癒魔法を発動する。
淡い光が発し、あっという間にその女性の足が元通りになった。
「あ、あなた。一体なにをやったの!?」
「なにって……治癒魔法ですが……」
「あ、有り得ない……こんな素早く、しかも完璧に治す治癒魔法なんて……大魔導士グノワース様でも不可能じゃないかしら? あ、あなた……一体……」
女性は驚き、目を見開いているが。
「ブリスはSランク冒険者。今日の武闘大会でも優勝した。これくらい、ブリスなら朝飯前」
「優勝……! そうだったのね。だったら頷けるわ。ごめんなさいね。研究者気質というか、こんな時にもすごい魔法を見たら、気になってしまうから……」
女性は申し訳なさそうに謝罪したが、別に俺は不快な気分になっていない。
そんなことよりも。
「すみません。俺達は先日、紅色の魔石をここに届けにきたんですが、今はどこにありますか?」
「紅色の魔石……ああ、あれなら所長のところにあるわ」
所長……エドラのお父さん、ダミアンさんのことか。
「所長は今どこに?」
そう問いかけると、女性は震える手で奥の扉を指差した。
「この扉のさらに向こう。紅色の魔石はそこで大事に保管されているわ。頑丈にロックされている扉だったけど、魔物共に壊された。所長のところに向かっていたみたいだけど……大丈夫かしら」
不安そうに女性が言う。
やはり……嫌な予感は的中するものだ。
この件は紅色の魔石が絡んでいる。研究員の女性の発言はそれを確信させた。
「ありがとうございます。俺達はダミアンさんのところに急いで行きます……っとその前に」
まずはこのフロアにいる魔物達だけでも、一掃しないとな。
俺は手をかかげ、魔法を発動する。
「リーフプロスパリティ」
俺がそう唱えた瞬間であった。
研究所の床から無数の木が飛び出し、瞬く間に成長していく。
そして先の尖った植物は魔物達を次々と貫いていった。
「GUOOOOOO!」
魔物達の醜い悲鳴が上がるが、突如出現した凶器と化した植物達に抗う術がない。
あっという間に魔物達の殲滅が完了した。
「よし……これでしばらくは大丈夫そうですね。俺達はダミアンさんのところに行きます。もう少しだけ持ちこたえてください」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 今の魔力……大魔導士様以上……! あなた達は本当に一体……」
女性が後ろで俺達を制止しようと声を出していたが、今はそれに答えている暇はない。
俺とエドラは壊れた扉を潜り、ダミアンさんのところに向かった。
「エドラ……大丈夫か?」
「うん」
走りながらエドラに問いかけると、彼女は今までに見たことのないような焦りの表情を見せていた。
「お父さんのことが心配か? 大丈夫だ。お父さんならきっとまだ生きているから」
「…………」
やはりエドラも普通の女の子。
あれだけお父さんのことを悪く言っていた彼女であっても、ダミアンさんのことは心配なのである。
「お父さんと二度と会いたくない」なんて、彼女の本心ではなかったのだ。
「間に合ってくれよ……!」





