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7・ゴブリン——を始末した

 反応があった場所に急ぐと、一人の女性が十体以上の魔物に囲まれていた。


「あれは……」


 俺は彼女の姿を見て、名前を叫ぶ。


「アリエルさん!」


 すると女性……アリエルさんは剣を構えながら、こちらを振り向いた。


「ブリス!」


 しかしすぐに魔物へ振り返り、迫り来るこんぼうを剣で弾いた。


「どうしてここに……! いや、今はそんなこと聞いている場合じゃありませんわね。早く逃げてください!」


 切迫した表情である。


「ここはわたくしが食い止めます……! 今は早くノワールに戻って応援を呼んできてください! ……くっ!」


 アリエルさんは魔物の攻撃を必死に防ぎながら、そう声を発した。


 このままでは負けてしまう。


 しかし俺はそんなことよりも、『?』マークが頭の中で浮かんでいた。


「……? どうしてアリエルさん、ゴブリンなんかに手間取っているんだ……?」


 そう。アリエルさんは今戦っている魔物、それは()()とも呼び声が高いゴブリンだったのだ。


 ゴブリンは小柄なアリエルさんの()()くらいの大きさであった。

 まあこれくらいがゴブリンの通常サイズくらいだ。特に注目すべき点でもない。


 確かにゴブリンは十体以上いる。全部倒すのは面倒臭そうだ。

 しかし仮にもSランク冒険者であるアリエルさんが、手こずるような相手じゃないと思うが……。


「まあ今はそんなことを考えている場合じゃないか」


 俺はすぐさまアリエルさんとゴブリンの間に割って入り、こんぼうを素手で受け止めた。


「ひ、ひえぇ? ゴ、ゴブリン——のこんぼうを素手で!?」


 そんな大したことはしていないのに、アリエルさんは驚いているようであった。


「で、でも……! 命を投げ捨てるおつもりですか!? いくらあなたでも敵いっこありませんわ!」


 背中でアリエルさんの声。


 ひゅい、ひゅい。


 こうしている間にも、俺はゴブリンの攻撃をかわし続けていた。


「大丈夫ですよ。それに、どうしてアリエルさん、こんなに苦戦しているんですか?」


 まさかどこか怪我でも……?


 いや彼女を見る限り、目立った外傷はない。

 ならどうして苦戦なんかしているんだろうか。


「な、なにをバカなことを言ってるんですか! これだけのゴブリン——」

「ゴブリンくらいなら、俺でもなんとかなりますよ」


 ひゅい、ひゅい。


「ああ! 鬱陶しいな!」


 俺の頭を狙ってきたゴブリン。

 それを右腕一本で受け止め、そのままゴブリンごと投げ捨てた。


 ずどぉぉおおおおおん!


 ゴブリンが木の幹に当たり、そのまま絶命した。


「え? え?」


 その様子を見て、何故だかアリエルさんは混乱しているようだった。


「さすがにこれだけ数が多いとなると、少し面倒だな。アリエルさん、ちょっとその剣、貸してくれますか?」

「そ、それはいいんですが……! この剣は普通の人は使いこな……」

「使いますよ」


 落ち着いて会話している場合でもない。


 アリエルさんが全て言い終わらないうちに、彼女が持っていた剣を手に取る。


「うーん……結構細身な剣ですね」


 だが、切れ味には問題なさそうだ。

 なにより軽いし、使いやすい。


「じゃあさっさと片付けるか」


 俺は剣を振り、ゴブリン達を次々に斬っていった。


「GYAOOOOOO!」

「GYAAAAAAA!」


 ゴブリン達が悲鳴を上げながら、死んでいく。


「そ、そんな簡単にゴブリン——を斬れるなんて」

「あっ、これにはコツがあるんですよ。筋肉と筋肉の隙間なら、野菜を切るよりも簡単に斬れます」

「出来るわけな……」


 今はゆっくり講義しているわけにもいかない。


 それは一分もかからなかっただろうか。


 気付けば目の前にはゴブリンの死体が積み重なり、戦いを勝利で終えたのであった。


「ふう……やっぱり、さすがにゴブリン相手なら俺でも十分戦えるな。あっ、これ。剣、ありがとうございました。良い剣でした」


 腰が抜けているアリエルさんに、剣を返す。


 なにか名のある剣なのだろうか?

 とても戦いやすかった。


「ブ、ブリス……! あ、あなたは一体……いえ、そんなことを言っている場合ではありませんね」


 アリエルさんは立ち上がり、俺の両手をぎゅっと握り、


「ありがとうございます! あなたは命の恩人ですわ!」


 と笑顔を浮かべ、そう声を上げた。


「あ、ああ……」


 命の恩人だなんて。

 アリエルさんは大袈裟だな。


 しかしこんなに美しい女性に感謝されるのは、悪い気はしなかった。





(アリエル視点)



 最初は『ゴブリンキング』一体だけの討伐のはずだった。


 ゴブリンキングはBランクに位置する。

 決して弱い魔物ではないが、気を抜かなければ十分倒せる……そうアリエルは考えていた。


 しかし……ノワールの森の奥に進み、ゴブリンキングを見つけると、次から次へと大量に姿を現した。


「じゅ、十体以上も……! どうしてノワールの森にこれだけのゴブリンキングが!?」


 数を増やしたゴブリンキングに対して、最早逃げることすら出来ない。

 アリエルは剣を振るいながら、死を覚悟していた。


 わたくしはこんなところで死ねないのに……。


 だが、その時。彼女の前に救世主が現れたのだ。



「アリエルさん!」



 ギルドで試験を担当した少年……確かブリスと言っただろうか。


 ブリスはアリエルの《千本華せんぼんか》をいとも容易く受け流した。

 タダモノではない。


 しかしいくらブリスでも、十体以上のゴブリンキングはさすがにどうしようもないだろう。


「早く逃げてください!」


 だから叫んだ。


 だが、ブリスはアリエルの言葉が聞こえていないのか、すっとゴブリンキングの前に躍り出た。


「ああ! 鬱陶しいな!」


 そう一声発しあろうことか、ブリスは右腕一本でゴブリンキングのこんぼうを受け止め、さらに投げ捨てたのだ。


 ゴブリンキングを持ち上げることすら、どれだけ屈強な男でも出来ないだろう。

 それなのに一見ひょろっとしたブリスは、簡単そうにゴブリンキングを投げたのだ。


 まるでお伽噺とぎばなしを見ているかのようであった。


「ちょっとその剣、貸してくれますか?」


 なにも手にしていなかったブリスは、そうアリエルから剣を借り、ゴブリンキングに襲いかかっていった。


 この剣はただの剣ではない。

 軽量で切れ味は抜群だが、普通なら使いこなすことすら出来ない。

 それほど癖が強く使い手を選ぶ剣で、今まで名のある剣士達がこれを使おうとしたが、未だかつて自分以外で使いこなした者は見たことあない。


 しかしブリスはそれを使いこなし、あっという間にゴブリンキングの群れを難なく倒してしまった。


「あ、あなたは一体……」


 どれだけ底のない人なんですか?


 ブリスが華麗に戦っている姿を見て、アリエルの心臓の鼓動はとくとくと早くなっていた。

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[一言] 面白いです、更新頑張ってください(^^)
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