67・王国一武闘大会開幕
そしてとうとう王国一武闘大会当日。
「行くか」
「「はい!」」
アリエル達と宿屋を出る。
これまでも街は賑わっていたが、やはり大会当日となると、より一層街全体に活気が出ている。
人混みを掻き分け、会場まで行くのも一苦労だ。
「ここか」
大会はどうやら街の中央広場で行われるらしい。
広場には特設のステージが設置されており、それを囲むようにして人々が集まっていた。
「あっ、ブリスじゃないか」
人の多さに目が回っていると、鎧を身につけた女性が駆け寄ってきた。
この人は……。
「ユリアーナ……だったよな」
「覚えていてくれて光栄だよ」
先日、一緒にスリの男を捕まえた女騎士ユリアーナであった。
「どうやら寝坊せずに来たみたいだね」
「俺、朝は強いんだ」
「はは、それはたくましいよ」
ユリアーナは手を差し出す。
「今日はお互い全力を尽くして戦おう。ボクが勝ち上がってくるまで、負けないでくれよ」
「それはこっちの台詞だ」
なんて会話を交わしながら、俺達は握手を交わす。
「ではボクはそろそろ行くよ。君達も早くエントリーを済ませた方がいい。当日のエントリーで正式参加になるはずだから」
「教えてくれてありがとう」
不戦敗なんてシャレにならないからな。こうやって休暇を作ってくれたモーガンさん達に顔向けが出来ない。
俺が礼を言うと、ユリアーナは去っていった。
「絶対に負けませんわ」
「うん。私もブリスと戦いたい」
後ろでは静かに闘志を燃やしている二人が。
「アリエルとエドラとも戦えたら楽しそうだな。二人とも、負けるんじゃないぞ」
「当たり前ですわ」
「血がたぎる」
こうして俺達は無事にエントリーを済ませたのであった。
◆ ◆
『王国一武闘大会開幕ぅぅっぅうううううっ! 実況・解説・審判はこの私一人でお送りさせていただきますぅぅうううう!』
ステージ上に上がった、蝶ネクタイをつけた男がハイテンションに声を出す。
……って「一人かよ」と心の中で突っ込む間もなく、爆発的な歓声が巻き起こる。
会場のボルテージも最高潮に達していた。
「すごい盛り上がりようだ」
「ですわね」
さて……。
ここでどのような戦いが繰り広げられるというのか。
『では一回戦目……ノワール代表、ブリス選手。アガラハム代表、ボブ選手。どうぞステージ上にお上がりください』
「おっ。一回戦目は俺か」
「トーナメント表を見てなかったのですか?」
「エントリーとかでばたばたしていたからな。取りあえず行ってくる」
「頑張ってくださいね」
俺はアリエルに片手を挙げて返事をして、ステージに登った。
すると。
「ああん? こんなひょろい男がオレの対戦相手かよ。拍子抜けだぜ」
と巨漢の男が俺を待ち構えていた。
「よろしく頼む」
「ふんっ!」
手を出すが握手に応じてくれなかったので、俺としては苦笑いをするしかない。
それにしてもでかい男だ。
俺の二倍……いやそれ以上の体の大きさをしている。
まさに筋肉の鎧を身につけているといった感じで、いかにも強そうな男という感じだ。
普通ならな。
「おいおい! 勝負にならねえんじゃねえか?」
「一瞬で勝負がつきそうだ。ボブの勝利に賭けていてよかった!」
「ふっ、まだまだ甘いな。おいらは大穴狙いで弱そうなあっちの坊やに賭けてるぜ」
観客からも野次が飛ぶ。
どうやら観客もボブ優勢として見ているらしい。
まあ仕方がない。
見た目だけだったら、どう考えても俺が勝てるような相手じゃないからな。
「全く……あなた達っていう人は! ブリス! その図体がでかいだけの男に負けるんじゃないですわよー!」
「勝負は一瞬でつく」
アリエルとエドラも、周りの観客に腹を立ててくれているのか、俺の応援に熱が入っているようであった。
『ではルールを説明します』
実況解説審判を掛け持ちしている男が、マイクを片手にこう続ける。
『勝利条件は四つあります。
まず一つ目は相手をステージの場外に押し出すこと。
二つ目は相手を失神させること。
三つ目は私から見て、試合の続行が不可能と判断した場合。
そして四つ目は相手に『ギブアップ』と言わせることです。
また相手を殺してしまった場合は、自動的に殺した側の負けとなります。力の使い方を誤り、私を困らせないでくださいね」
と男がウィンクをする。
シンプルなルールだ。
あとは加減を間違って、相手に大怪我させないようにしなければ……。
あくまで王国一武闘大会は余興みたいなものだ。
勝つことも大事だが、観客を楽しませることもまた大事となってくるだろう。
しかし目の前のボブとかいう男は、そう思っていないのか、
「はっ! オレは加減が苦手だからな! 死んじまっても、あの世で文句を言うんじゃねえぞ?」
と挑発を続ける。
「はあ……」
溜息も吐きたくなるものだ。
『それでは……試合開始!』
カーン!
そうこうしていると、開始の鐘の音が鳴らされた。
「一気にいくぜええええええ!」
ボブが体当たりをかましてくる。
『おっと、ボブ選手! 早くも先制攻撃だ! いきなりブリス選手の場外負けか!?』
実況の的外れな声が聞こえてきた。
だが。
「動きが直線的すぎる。これでは動きを簡単に見切られるぞ」
このようにな。
俺は片手だけで、ボブの動きを止めていた。
「おっ、おっ……?」
いくら押しても動かない俺に、ボブは不審そうな顔を見せる。
「パワーも大したことがない。この程度では山一つも持ち上げることが出来ないのではないか?」
「そんなこと出来るヤツいねえよ!」
なにを言う。
四天王『剣』の最強格、クレア姉はよく筋トレで山を動かすようなことをやっていたぞ。
俺もさすがに山一つは持ち上げることが出来ないが、こいつの十倍以上はあろうかという巨岩を持ち上げ、その状態でスクワット……みたいなトレーニングをやらされていた。
それに比べたら、こいつのパワーはまるでそよ風のごとく穏やかなものである。
「ただのパワー自慢じゃ戦場で生き残っていけんぞ……よっと」
「うおっ!」
俺はそのまま片手でボブを持ち上げた。
「じゃあな。もう少しトレーニングしてから、俺に挑んでくるんだったな」
ずしーん!
そのまま場外に投げてやると、男は地面に体を強く叩きつけて気絶してしまった。
「……審判?」
『はっ!』
あんぐりと口を開けている審判に声をかけると、彼は気を取り直して、
『しょ、勝者ブリス選手ぅぅぅぅううううう! なんという番狂わせだ! あまりに一瞬で勝負がついてしまって、仕事を忘れてしまっていたぞぉぉおおおおお!』
と俺の右手を上げた。
その瞬間、より一層の爆発的な歓声。
「あ、あいつ何者だ!?」
「ノワールのSランク冒険者らしいぜ?」
「え、Sランクだとお!? それじゃあボブが負けるのも頷けるな!」
見事なまでの手の平返しだな。
まあ観衆など、実力を見せてやればこんなもんだ。
俺はステージから降り、アリエル達のもとに向かった。
「ブ、ブリス! さすがですわ!」
「ブリスが勝つのを信じてた」
賞賛してくれる二人。
「まあこんなもんだろ。あんま大したことのない相手だったしな」
頬を掻く。
こうして王国一武闘大会が幕を開けた。
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