63・女の子、恐るべし
研究所を出ると、近くのお店の前でエドラが物欲しそうになにかを見ていた。
「すまん。ちょっと話が長くなった」
「ん。別に大丈夫」
短く答えるエドラ。
先ほどのダミアンさんから聞いた話を振りたくなったが……寸前のところで口を閉じる。
冒険者は無闇に他人の事情に踏みこまない。
いずれは聞ければいいとも思っているが、それが今である必要はどこにもないだろう。
「俺達がいない間、なにしてたんだ。今なんかすっごい一点を見つめていたが……」
そう言って、俺はお店の方へと視線を移す。
……ははーん。なるほどな。
「このウルトラデリシャスパフェってのを食べてみたいのか?」
「……!」
俺が問いかけると、エドラはびくんっと肩を震わせた。
ビンゴ!
お店にはメニュー表が掲げられており『オススメ!』という文字の横に、そのパフェの名が書かれていたのだ。
「そ、そんなこと……」
「別に我慢しなくてもいいだろ。エドラは甘いものが好きなのか?」
「……うん。好き」
恥ずかしそうに答えるエドラ。
「だったら食べよう。王国一武闘大会はまだ先なんだしな。アリエルもそれでいいよな?」
「ええ」
頷くアリエル。
「わ、私は……」
「いいからいいから」
俺はエドラの腕を無理矢理引っ張って、店内へと入る。
「いらっしゃいませー!」
すると元気の良い挨拶と一緒に、獣人族の女の子店員が出迎えてくれた。
「何名様ですか?」
「三名だ」
「こちらへどうぞー」
お決まりの文言を言われた後、俺達は丸テーブルの前に腰を下ろす。
「結構賑わっているみたいだな」
「ですわね。人が多いです」
おおいに繁盛しているようで、入り口の方を見ると列が出来始めていた。
どうやら並ばずに入ることが出来たのは、相当ラッキーみたいだったな。
「どうせだから俺もウルトラデリシャスパフェってのを食べてみるか」
「わたくしもせっかくですから」
「エドラも食べるよな?」
「……まあみんなが食べるなら」
素っ気ない素振りで口にするエドラであったが、どこかワクワクと胸を弾ませているような印象を受けた。
俺達はパフェ三人分、そして飲み物も適当に注文する。
やがて料理が運ばれてくるまでには、さほど時間はかからなかった。
「お待たせしましたー!」
女性店員がテーブルの前に、パフェと飲み物を置く。
飲み物は普通だ。
しかし問題はパフェ。それを見て、俺は思わず目を大きくしてしまった。
「でかいな……!」
チョコやバナナ、生クリームといった甘いものがこれでもかとばかりに盛りつけられている。
本来ならパフェはグラスのようなものに入っていると思うが、店員が持ってきたのは最早大きい皿だ。
その上に色取り取りに甘いものがどっさりと載っているものだから、圧巻の光景である。
「す、すごいですわね! こんなの、わたくし初めて見ますわ」
「俺もだ。全部食べられるかな?」
「あら、ブリス。まだまだですわね」
アリエルが口元の前で指を立てる。
「アリエルは自信があるのか? あまり食べるようなイメージはないんだが……」
実際、アリエルの細い腰回りを見ていると、とてもじゃないがこのパフェを食べられるイメージが湧かない。
それはエドラも同様だった。
しかし。
「ふふふ。ブリスは『女』を知らないですわね」
「お、女!?」
それがやけに扇情的に聞こえてしまって、不覚にも声を大きくしてしまう。
「女の子にとって、甘いものは別腹なのですわよ。これくらいぺろりと完食してみせます。ねー、エドラー」
「うん」
エドラは既にスプーンを持ち、今か今かと待ちわびていた。
「そ、そうか。だったら二人の覚悟……見せてもらうぞ!」
「任せてください!」
こうして謎の気合いの一声とともに、食事が開始された。
う……甘い!
しかし旨い!
実は甘いものはそれほど得意でもなかったが、ついつい食が進んでしまう。
甘みの中に、ほんのり苦いコーヒーゼリーが入っていた。それが良いアクセントになっている。
次から次へとパフェがなくなっていく。
よし……これだったら食べ切れそうだな。
そう思った矢先であった。
「ごちそうさま」
とエドラの声。
俺は視線を上げると、そこには空になったお皿と、その前には口元にクリームを付けたエドラの姿があった。
「エ、エドラ!? もう食べたのか?」
「うん。美味しかった」
まだ俺はやっとのこさ半分いったところだというのに……これだけキレイに完食するとは。
「わたくしもです。ごちそうさま」
少し遅れて、アリエルも続いた。
女の子、恐るべし……だ。
先に食べ終わった二人に見られながら、俺の方もなんとかパフェを食べ終わる。
「ふう……旨かったが、もうお腹一杯だ」
甘いものはもうしばらくいいかな……。
「あら、ブリス。この程度で根を上げているとはまだまだですわね。わたくし達はまだまだいけますわよ」
「うん。まだまだいける」
アリエルは挑発的な笑みを浮かべる。
エドラも楽しそうに小さく笑った。
「エドラ。そういや、どうしてパフェを食べたくないような素振りを見せたんだ? こんなにすぐに食べ終わるんだから、甘いもの好きだろ?」
「……私が甘いもの好きって言ったら、おかしいかなって思って」
「どうして?」
「イメージの問題」
「なんだそりゃ」
まあでも確かに、エドラは口数の少ないし、可愛らしいアクセサリーも付けているところは見たことがない。
いわゆるプリプリしているような女の子イメージがないのだ。
だから「エドラが甘いものだなんて!」と笑われるかもしれないと思ったかもしれない。
しかし。
「そんなこと気にしなくてもいいぞ。俺達の前で気を使うのも変な話だしな」
「うん。そうする」
今までエドラは周囲のイメージに引っ張られて、色々と我慢していたところも多かったんだろう。
彼女の顔を見ていたら、ふとそう思った。
「じゃあそろそろ出ようか。他のお客さんも席が空くのを待っているしな」
と俺達が席を立とうとした時であった。
「ス、スリよ!」
店外からそんな声が聞こえてきたのは。
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