61・王都到着
あの後、俺達は無事に別の馬車に乗り換えることが出来た。
ちなみに……それからの道のりも警戒していたが、特になにもなく平和な旅路であった。
そしてとうとう……。
「ここが王都か」
王都に到着したのであった。
「さすがに長旅は疲れますわね」
「でも楽しかった……途中の盗賊を除けば」
二人ともお疲れのようであった。
王都は人でごった返している。ノワールの人口も決して少ない方ではないが……王都はそれと比べものにならなかった。
街の中央には高くそびえ立つお城が見える。あれがこの王国を統率している王がいる城であろう。
王都の正門からこうやって眺めているだけで、様々な種族が街中を歩いていることが分かった。
「やはり王国一武闘大会の日も近いということで、街全体が活気づいていますね」
アリエルの言葉の通り、街のいたるところが飾り付けられている。
既にいくつか出店も並んでいるみたいで、人々が思い思いに祭り気分を楽しんでいた。
「早速遊びたいところではあるが……その前に任務を済ませておこう」
「そうですわね」
「研究所に行くか。そこに紅色の魔石を預けて、取りあえず一つ目の任務は完了だ」
また道中のような賊が出てこないとも限らないしな。
モーガンさんから貰った研究所の場所が書かれている地図を見ながら、そこに向かおうとするが……。
「ブリス、ちょっといい?」
「ん?」
エドラが俺の服の端を引っ張った。
「……私、研究所の前で待っておいていい? あまり中には入りたくない」
「ん……別にいいが、どうしたんだ?」
「…………」
言いたくないのか、俺の質問にエドラは口を閉じた。
まあ……紅色の魔石を渡すだけなら、俺達だけでも十分だ。エドラなら、少しくらい目を離しても大丈夫だろうし。
「よし、分かった。俺達だけで行ってくる」
「ありがとう」
そういえば、エドラはモーガンさんから『王都』という単語を出された時にも、表情に陰りを見せていた。
なにか言いにくい理由でもあるのだろう。
エドラのことが気にかかりつつも、俺達は研究所に向かった。
◆ ◆
「初めまして。僕はこの研究所で所長をしているダミアンという者だ。君達のことはモーガンさんからよく聞いているよ」
魔法研究所に入ると、優しそうなおじさんがそう握手を求めてきた。
歳は三十〜四十くらいだろうか?
柔和で整った顔つきをしており、大きい丸メガネをかけている。
しかし……なんだろう。
この顔の系統、どこかで見たことあるような……。
「俺はブリスです」
「アリエル・クアミアですわ」
「ああ、もちろん知ってるよ。なんでも王都に出現した古代竜と戦ったって。話には聞いていたが、まさかこんなに若いとは思っていなかった」
男……ダミアンさんは驚きを込めた感じで、そう言う。
「話には聞いていると思いますが、今回俺達は冒険者ギルドから使いを頼まれました。これが紅色の魔石です」
自己紹介もそこそこに、ダミアンさんに紅色の魔石を手渡す。
すると彼は興味深そうに魔石を凝視し。
「おお、これが……! 魔力の純度が高い魔石だね」
「分かりますか?」
「もちろん。一目見ただけで、魔石の分析は一通り出来るからね」
さすがは王都の魔法研究所の所長といったところか。タダモノではないみたいだ。
モーガンさんが頼るわけだ。
「でも……そんな僕でも、現時点で分かるのはこれくらいだ。モーガンさんから一通り聞いているけど……魔物や人を操ったりパワーアップさせる万能な魔石なんて聞いたことがないからね。本来、魔石というものは用途が限られているはずだから」
ダミアンさんの言う通り、転移の魔石なら『転移』。通信の魔石なら『通信』。爆発の魔石なら『爆発』……と魔石は便利なものであるが反面、その効果が限定的だ。
しかし紅色の魔石は、まだまだ大いなる可能性が秘められているような気がする。
「大丈夫でしょうか……その紅色の魔石、悪用されれば世界がとんでもないことになってしまう代物ですわ。是非分析していただいて、対処方法を知りたいのですが……」
アリエルが不安そうに口にする。
だが、ダミアンさんは自分の胸を叩き、
「ははは、心配しなくていい。この魔法研究所には王国……いや、世界でも一番の人材と設備が揃っている。必ずや紅色の魔石を完璧に解析してみせるよ」
と自信満々に言った。
辺りを見渡すと、白衣を着た研究員らしき人達が常に忙しなく動いている。
さらには見たことのない魔導機械も置かれており、それを見るだけでここが優れた研究所であることが分かるようであった。
「それにしても……君達。三人で来るはずだとモーガンさんから聞いていたんだけど?」
今度はダミアンさんから質問をしてくる。
「ああ、もう一人はエドラっていう子なんですが、どうも研究所に入りたくないらしくて……なにかまずかったですか?」
「いや……別にいいんだ。エドラが来たくないって言うなら仕方ない」
「……? その口ぶりだと、エドラと元々知り合いだったようですが?」
と俺が口を動かすと、彼ははっとしたような顔になる。
「……さすがだね。勘も鋭い。君達にこういうのもなんだけど、実はエドラは僕の娘なんだ」
「ダ、ダミアンさんのですか!?」
それは意外だ。
つい声を大にしてしまう。
「まあエドラがノワールに行ったっきり、もう三年以上は会っていないと思うんだけどね」
「だったら、尚更エドラは父親のダミアンさんに会いたいわけじゃないですか? それなのにどうして……」
「あまり僕とエドラの仲は良くなくてね……いや、正しくはエドラが僕を敬遠していると言っていいだろうか」
『エドラ』という名前を出すたびに、ダミアンさんが苦虫を噛む潰したような顔になる。
なにか事情がありそうだな。
考えていると、ダミアンさんはパンパンと手を叩いて、明るくこう振る舞う。
「さあさあ。僕が話せるのはここまでだ。どうしても気になるっていうなら、エドラに聞いてくれ」
「分かりました」
「そういえば王国一武闘大会にも出場するらしいね? 君達ならきっと優勝出来るよ。まだ大会までには日があるし、良かったら街の中を観光してみればいい」
「はい。そのつもりです」
俺達はダミアンさんに別れを告げ、その場を去った。
研究所の廊下を歩きながら、
「エドラとダミアンさん、なにか事情がありそうでしたわね」
とアリエルが話を振ってきた。
「そうみたいだな」
「まあわたくしも人のことは言えませんが……」
アリエルも家庭には込み入った事情があった。
だからなのか、エドラに共感する部分があるのだろう。
「エドラに直接聞いてみるか?」
「いえ……無理に聞き出すのはよくありません。『冒険者は他人の事情に深く入り込もうとしない』が鉄則なんですから」
「その通りだな」
そんな会話をしながら、俺達は研究所を後にした。
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