59・盗賊達の油断
(盗賊視点)
「くくく……どうやら上手くいったようだな」
馬車が爆発に巻き込まれたことを確認して、盗賊の頭はほくそ笑んだ。
「可哀想なヤツ等だ。この様子だと骨の欠片も残っていないだろうな」
「違いねえ」
他の盗賊連中も楽しげに笑っている。
そこには誰一人、罪悪感を抱いている者はいなかった。
「おい、てめえら。これで任務は終わりじゃねえ。早く魔石とやらを回収しないとな」
「おう!」
盗賊共が身軽に崖を降りていき、爆発した跡に向かった。
真正面から立ち向かっても勝てる自信はあった。
話によると、馬車に乗っている者は三人。いくら相手が冒険者だろうと、こちらは二十名以上はいる。余裕で勝てるだろう。
しかし男は用心深かった。
ゆえに馬車の進行方向に爆発の魔石を置き、ヤツ等が通りがかったところで爆発させた。
その目論見は大成功に終わったわけだ。
「悪く思うなよ」
大きな音と衝撃に驚き、馬は手綱を引きちぎってどこかに逃げていってしまった。
しかし爆発跡に残されていたバラバラになった木片が、今回の作戦の成功を証明していた。
……はずなのだが。
「おかしい」
他になにも見当たらない……?
どういうことだ。
「おい、お頭。もしかして魔石とやらも一緒に吹っ飛んでしまったんじゃねえか……?」
「そ、そんなことはない! あの程度で潰れる程度の安物の魔石ではないとは聞いているっ!」
馬車の中に乗っていた三人の遺体も見つからないが……もしや、骨や肉片も残らず粉々になったのか?
それに人が灼けた時の独特な匂いがしない。
まさか……。
「おい、てめえら! まだ油断するんじゃね——!」
頭がそう言葉を紡ごうとした時であった。
「ぎゃあああああああ!」
盗賊の一人が悲鳴を上げたのは。
◆ ◆
「なにをしてくれるのだ」
後ろから盗賊らしき風貌の男を強襲した後、ボスらしき男に俺はそう言葉を放つ。
「て、てめえら……死んだんじゃ……?」
「死んだ? あの程度で俺達が死ぬわけがない」
溜息を吐く。
後ろからアリエルとエドラも出てくる。
もちろん二人とも無事だ。
「ブリスに言われていなければ、危なかったです……」
「ギリギリだった」
二人も手練れの冒険者だ。
いくら昼飯を食べていてリラックスしている時だったとはいえ、不測の事態には十分対処が出来る。
俺達は馬車から脱出した後、これが何者かの陰謀であることを見抜き、ヤツ等が出てくるまで近くで様子をうかがっていたのだ。
その結果、俺達が死んだと思った間抜けな連中が、のこのことこのように姿を現しやがった。
「ちっ……! 運の良いヤツ等だ」
「お前等の目的はなんだ? 金か? それとも……」
「うるせえ! それをお前等に言うはずがねえだろ。こうなったものは仕方ねえ。てめえら、かかれかかれ!」
盗賊のボスらしき男がそう声をかけると、一斉に二十人程度の盗賊共が襲いかかってきた。
「降りかかってきた火の粉は振り払わないといけないな。いくぞ」
「「はい!」」
俺とアリエルは剣を抜き、エドラは魔法を唱え盗賊共に反撃を始めた。
無論、これくらいの小者、俺達が手間取るわけもない。
次から次へと倒していき、また一人盗賊が地面に倒れていった。
「お、おい! なんでこんなに強いんだ!」
「い、今気付いたが……その金色の髪は、もしやSランク冒険者のアリエル!?」
「エドラもいるぞ! おいら、こいつ知ってる! 凄腕の魔法使いで、この歳でありながらAランクにも到達したって!」
「どうなってんだ! あいつ等からは、アリエルとエドラがいるなんて聞いてねえぞ!」
「それになにより……」
うむ。
どうやら俺達は盗賊の間でも有名人みたいだな。まあ全然嬉しくないが。
「アリエル、エドラ。情報を引き出したいから、なるべく殺すなよ?」
「分かっています!」
「殺さないように戦う。難しい」
まあここで見逃すつもりもないが……口ぶりからして、こいつ等のバッグに誰かがいることは確定だ。
それを聞き出してから、こいつ等にどういった裁きを受けてもらうか考えよう。
「隙あり!」
盗賊の一人が俺の後ろから攻撃を仕掛ける。
狙いは頭部か……分かりやすいヤツだ。
「甘い」
俺は後ろをチラ見もせずに、剣でそれを受け止めた。
「け、剣が……真っ二つに!?」
剣と剣がぶつかり合うと、盗賊が持っていた安物の剣が折れてしまった。
うん。さすがは鍛冶師ラッセルが作った名剣。この程度のぶつかり合いでは、刃こぼれ一つしないか。
「よいしょっと」
俺は盗賊の右腕を取り、そのまま地面に放り投げた。
「ぎゃふん!」
盗賊は意外と可愛らしい悲鳴を上げてから、目を回して動かなくなった。
「お、おい……! その男が一番強え。化け物だ!」
「お、おいら、知ってるぜ! こいつ、古代竜を倒しただとかいう冒険者だ」
「なんだと!? あれは噂だけじゃなかったのか?」
「アリエルとエドラに、竜殺しの男がいて勝てるわけねえよ! オレは抜けさせてもらうぜ!」
しかし俺がたった一人も見逃すわけがない。
逃げる盗賊達も順番に気絶させていく。
そしてあっという間に襲撃してきた盗賊共を無力化し、とうとう後は頭一人だけになったのだ。
「さて、最後はあんただ。部下が全員やられたわけだが、どうするつもりだ?」





