56・王国一武闘大会
とある日。
俺は冒険者ギルドからとある便りを受けた。
早速行ってみると……。
「あっ。アリエル、エドラじゃないか」
お馴染みの二人の姿もあった。
俺が呼びかけると、二人は顔をこちらに向けた。
「二人はこれから依頼を受けるつもりなのか?」
「いえ……ギルドに呼び出されまして。もしかしてブリスも?」
首を縦に振る。
エドラにも視線を移すと、彼女も同様のようであった。
「一体なんだろう」
「さあ……。わたくし達も今、来たばかりのところでしたので」
まあ取りあえず話を聞いてみなくちゃ始まらない。
それにしてもあれだ。
俺達が三人話しているだけで、
「お、おい……あれはSランク冒険者のアリエルさんだぜ」
「一人だけじゃねえ。前の古代竜との戦いで大活躍だったブリス。そしてAランク冒険者のエドラも揃ってやがる」
「どうやらブリスって野郎は、前の戦いの活躍が認められてアリエルさんと同じSランクになったらしいぞ」
「その三人が揃っているなんて、一体なにが始まるんだ!?」
とギルドが騒然としている。
ギルド内には酒場も併設されており、そのせいで酔っぱらった冒険者が多いのだ。
そんなヤツ等にとって、俺達三人は良い酒の肴なんだろう。
「……まあ今回が初めてのことでもないが、こうやって注目されるのは慣れないな」
「そうですか?」
アリエルが首をかしげる。
彼女は前々からSランクだ。
それにこんな美少女なんだから、人々……特に男連中からの視線を受ける機会が元々多いんだろう。
きょとんとしているアリエル、そして相変わらず表情を変えないエドラと並んで受付へと向かった。
「ブリスさん、アリエルさん、エドラさん。三人とも揃いましたね」
これも毎度お馴染みのシエラさんが対応してくれた。
「本日はお忙しい中、来ていただいてありがとうございます。三人に頼みたいことがありまして、本日はお呼びしました」
「それはなんですか?」
「オレから説明しよう」
ぬうっと後ろからギルドマスターのモーガンさんが姿を現した。
相変わらずこの人、すごい筋肉してるな。
どうやらギルドマスターをやる前は、Sランク冒険者として名を馳せていたらしいが……歳を取って、今はギルドマスターの位置におさまっているようだった。
「今日、三人に伝えたいことは二つある」
二つ?
疑問に思っている俺達に対して、モーガンさんが説明を続ける。
「まず一つ目。王都で行われる『王国一武闘大会』というのは知っているか?」
知らない。
だがアリエルとエドラの顔を見ると、二人は「当然です」とばかりに頷いていた。
どうやら結構有名な大会らしい。
「……その様子だとブリスは知らないみたいだな」
「すみません」
「まあいい。お前はすごいヤツなんだが、どうも冒険者としての常識をちょいちょい知らないところがあるからな。今更だ。いいか? 王国一武闘大会っていうのは……」
王国一武闘大会について、モーガンさんが手短に説明してくれた。
なんでも王国一武闘大会というのは、その名の通り、年に一度王都で開かれる腕自慢大会だ。
その日は大陸中から選りすぐりのヤツ等が集まってきて、誰が一番強いか決めるらしい。
その大会で優勝した者には賞金と名誉が与えられる。
……とのことだった。
「率直に言おう。その大会にノワールから代表として三人に出てもらいたいと思っている」
「三人……俺達ですよね?」
「そうだ」
それはまた急な話だな……。
「ノワールのギルドに所属するヤツが、王国一武闘大会で優勝なんかしてみろ。王国、そして周辺諸国から一気に注目される。王国からの補助金も増額されるからな。これからのことを考えると、是非三人には参加してもらいたいんだ」
「なるほど……」
まあ話の筋は通っている。
「モーガンさん」
ここでアリエルが手を挙げ、質問をする。
「ノワールのギルドは、あまり王国一武闘大会に興味がないものだと思っていましたが? 現に去年は誰も出ていませんし……」
「まあ去年は多くの依頼を抱えていたからな。そんなものに冒険者を出す暇がなかった……というのも理由の一つだが、一番の理由は優勝出来る見込みがなかったからだ。いくらアリエルでもな」
アリエルでも優勝出来る見込みがなかった……となったら、かなりハイレベルな大会らしい。まあ王国中から人が集まってくるのだから仕方ないか。
ん……?
となると今年は……。
「ブリス、不思議そうな顔をしてやがんな。それなのに今年は冒険者を出す……ということは、ずばり優勝を狙いに行けると思っているからだ。ブリス、お前にみんな期待しているぜ」
「やっぱ俺なんですか……」
ここまで話を聞けば予想は付いていたが、あらためて聞かされると溜息の一つも吐きたくなる。
「まあな。お前はオレが今まで見てきた冒険者の中でも一番強い。オレが冒険者だった頃、王国一武闘大会に出場したから分かるが……ブリスなら十分優勝出来ると思う。頼りにしてるぜ」
ガハハと笑いながら、モーガンさんが俺の肩をポンポンと叩いた。
「でもそれなら俺だけ行けばよくないですか?」
「数は多い方がいいだろう? アリエルとエドラも将来有望の冒険者なんだしな。ギルドとしては、二人にも経験を積んでもらいたいと考えているわけだ」
三人で王国一武闘大会に行くのは良いとしよう。
しかしここで一つの懸念事項がある。
「……Sランク冒険者が二人、Aランク冒険者が一人いなくなって、その……ギルドは大丈夫ですか?」
「なんだ、こっちの心配をしてくれてんのか?」
自分でこう言うのもなんだが……現状、ノワールでの最強戦力がごっそりいなくなるというわけである。
その間、なにか不測の事態が起こったらどうするのだろうか?
たとえば他の冒険者が対処出来ないような、強い魔物が現れたりとか……だ。
その時に俺にアリエル、エドラの三人がいないとなると色々と問題が生じるような気がした。
だが。
「確かにそれはオレも考えた。だからお前達にこれを授けておく」
と言って、モーガンさんはとある一つの魔石を取り出した。
「こ、これって転移石じゃないですか!?」
「そうだ」
ニカッとモーガンさんが笑みを浮かべる。
「あとで通信用の魔石も渡す。もしなにかあって、ギルドで対処出来そうにない時はすぐに連絡をよこす。そうなったら悪いが、その転移石を使ってすぐに戻ってきて欲しい。まあこれは謂わば保険だな。そうならないようにはするが……」
転移石は遠くの場所からでも転移出来る魔石だ。
さすがに距離に制限があるが……王都とノワールくらいの距離なら、ギリギリ届く。
だが、転移石はかなり高級な魔石のはずだ。一つあれば優に豪邸が二軒・三軒建つとも言われている。しかも一回こっきりの使い捨て。
そんなものを渡してくるとは……いかにギルドが今回の王国一武闘大会に本気なのかが伺える。
まあ四天王のクレア姉とかは、転移石がなくても転移魔法が使えていたが……あれはまた別格なのだ。
比べるのはナンセンスであろう。
「わたくし……転移石なんて初めて見ましたわ」
「私も」
アリエルとエドラも物珍しそうに転移石を眺めていた。
「どうだ? 王国一武闘大会、参加してくれるか?」
「ここまで準備してくれて、断れないですよ。謹んで参加させてもらいます」
「わたくしもです!」
どうやらアリエルもやる気十分になったらしい。
だが……。
「……二人が行くなら」
とエドラは気が進まない様子であった。
暗い表情をしている。
なにか王都に嫌な思い出でもあるのだろうか?
「あと、もう一つの頼み事ってのが……」
とモーガンさんは、続けて二つ目の頼み事を口にしようとした。
面白いと思っていただいたら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただいたら、執筆の励みになります!





