52・負けられない戦い
「二人とも、どうしたんだろう。ちょっと待ってろとは言われたが……」
俺は二人が来るのを、自室でじっと待っていた。
早速俺が宿泊している部屋に行こうと思ったが、その前に二人はどこかに行ってしまった。
なにやら宿屋の女将と喋っていたようだが……。
「なにか嫌な予感がするな」
手持ち無沙汰を、酒を飲みながら潰していると……。
「お待たせしました」
「待った?」
ようやくアリエルとエドラが部屋に入ってきた。
「一体なんだったん——!」
二人の姿を見て、思わず言葉を失ってしまう。
「どうでしょう、似合っていますか?」
「可愛い?」
二人がその場でクルリと回る。
そう。
なんとアリエルとエドラは、可愛らしいピンク色のパジャマに袖を通していたのだ。
花柄が刺繍されているパジャマで、それが二人の美少女度をさらに高めていた。
「ど、どうしてパジャマ!?」
「あら。仲間と夜にすることといえば『パジャマパーティー』と相場が決まっているじゃないですか」
「初めて聞いたぞ」
「そうですか? ふふふ、実家にいる頃は、早寝早起きを義務づけられていましたからね。こういうことをする機会がなかったのです」
「私も……ずっと一人でいたから」
見るからに、アリエルとエドラはうきうきしている様子だった。
まあ二人とも長い間、ソロで活動していたみたいだからな。そうなるのも仕方がない。
二人の楽しみを削いでやるのも、それはそれで気が引ける。
「まあ別にパジャマパーティーだろうが、なんでもいいが……そのパジャマ、どこで手に入れた?」
「宿屋の女将さんに頼んだら、借りられましたわ。女将さんに『とっても似合ってるよ!』と太鼓判を貰いました。えっへん」
「そ、そうか」
良い人なんだが……女将よ、一体なにを考えているというのか。
「じゃあ始めようか。パジャマパーティーとやらを。ちょっと時間があったから、おつまみも買ってきた。みんなで食べながら語り合おう」
「「はい!」」
一つのテーブルを俺達三人が囲む。
「さて……とはいったものの、話す内容はなににしようか」
「ふふ、そんなの決まっているではないですか。ねえ、エドラ?」
「うん。決まってる」
アリエルとエドラが顔を見合わせて、微笑んでいる。
「だよな。すまん。愚問だった」
浮かれている二人の表情を見ていると、考えが透けて見えるようであった。
三人で談笑する内容。
ずばり……!
「冒険者についてだよな。俺達三人とも冒険者なんだし」
「違います!」
めっちゃ強い語調で否定された。
違ったみたいだ……。
「じゃあなんだ?」
「せっかく男女が一つの部屋に集まっているんですよ。ずばり……恋バナでしょう」
「こ、恋バナ!?」
そういうのは女の子同士でするものではないだろうか。
俺の疑問もそっちのけで、アリエルが話を始める。
「では聞きます。ブリスはどういう女性の方が好きなんですか?」
「考えたことがないな」
「またまたー」
「ただ……少なくても嫌いなタイプはある」
せっかくだから話に付き合ってやろう。
俺はとある四人の顔を思い浮かべながら、口を動かした。
「人の都合を考えない女だ」
「ふむふむ。ブリスは束縛されたくないタイプですか?」
「んー……まあそうとも言えるか」
「なるほど!」
アリエルとエドラがどこからともなくメモ帳を取り出して、なにかを書き込んでいく。
そんなに俺、変なこと言ったか?
「その他は?」
「後は腕を切り落とさない女。毒魔法をかけない女だったら尚更いい。いくら治癒魔法が使えるからといって、結構辛いからな。優しくして欲しい」
「ふむふむ……ブリスは優しい女の子が好きっと……」
必死にメモしていく二人。
言わずもがな、俺の嫌いな女の子のタイプとは四天王達のことだ。
腕を切り落とさないとか毒魔法をかけない……とか。よく考えてみれば、変なことを言ったかもしれないが、二人はそれが耳に入っていないのだろうか。
『優しくして欲しい』というワードを気に留めているようだ。
「俺も言っただんし、二人のも聞かせてくれよ。二人はどういう男の人が好きなんだ?」
こういう話になると、いつもペースを持っていかれがちなのだ。
たまにはこちらから攻めてみよう。
俺が質問すると。
「そうですわね……まずは強い人。やはりわたくしも冒険者。強い人に惹かれますので。後は……わたくしも優しい人。そしてどんな困難があっても諦めない人、とかでしょうか」
「そんな素敵な人、現れてくれるといいな」
「もういるんですけどね……」
アリエルほどの美少女だったら、すぐに彼氏なんか出来そうなんだけどな。
「エドラは?」
「私はブリスが好き」
「エ、エドラ!?」
エドラの爆弾発言に、アリエルが目を飛び出さんばかりに驚く。
「だ、大胆すぎますよ!」
「どうして? 私は私の率直な気持ちを言っただけ。なにもおかしなことを言ってない。大胆なアプローチは女の子の特権」
「で、ですが!」
きょとんとしているエドラの一方、アリエルはあわあわと焦っている。
まあ……エドラの『ブリスが好き』というのも、あくまで『友達として好き』という意味だろう。
さすがにドキッとしたが、さすがにこういうので勘違いしてはいけない。女の子の意味ありげな発言に勘違いし、失敗した男は世に多いのだ……。
そんな感じで三人で楽しく話していると。
「おっ、もうこんな時間だ。二人とも眠くなってきただろ? 今度こそ二人が泊まっている宿まで送るよ」
楽しい時間は過ぎるのも早いという言葉もある。
あっという間に時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。
だが。
「嫌ですわ。今日はわたくし、ここの部屋に泊まります」
「私も。アリエル、抜け駆けは許さない」
何故か二人はここから動こうとしなかった。
「そういう訳にはいかないだろう。この部屋は一人で泊まることを条件に、借りているんだし……」
「だったら女将さんに別料金を払ってでも、頼んでみます。きっとお許しが出るはずですわ」
確かにあの女将……なんかあっさり許可を出しそうだよな。
説得を試みるが、二人は首を横に振るばかり。
まいったな……。
どうやら先ほどの恋バナによって、二人の中の変なスイッチが入ってしまったらしい。
「ダメだ、ダメだ! そんなことをしては……」
「エドラ、良い機会です。決着をつけましょうか?」
俺の言葉が耳に入っていないのか、アリエルはエドラに挑発的な視線を向ける。
「受けて立つ」
「良い度胸です。では勝った方がブリスと一緒に寝ることが出来る……敗者はただ帰るのみ。そうしましょう」
「負けられない戦いがここにはある」
二人の間で火花が散る。
「な、なに考えてんだ! こんな部屋で戦っちゃいけないに決まっているだろう……! って、え!?」
俺がアリエルとエドラを止めようとすると、二人はおもむろに立ち上がってその手に『武器』を構えた。
その武器とは……。
なんと柔らかそうな枕であった!
「「いざ尋常に勝負!」」
それが開戦の合図であった。
二人が枕を投げては拾いに行き、投げては拾いに行き……を繰り返す枕投げ合戦が始まったのだ。
「ちょ、ちょっと二人とも!」
ダメだ……!
女の戦いに割って入ることが出来ない!
しかしアリエルとエドラも忘れている。
二人とも、お酒が入っていることを。
「きゃっ!」
「んぎゅっ!」
二人の短い悲鳴。
激しく動いたためだろう。
二人はお互いに頭をぶつけ、そのまま床に倒れてしまったのだ。
「ふ、二人とも! 大丈夫か!」
「う〜ん、不覚……やられましたわ……」
「アリエル、強い……」
二人とも目を回しているようだ。
体を揺さぶってみるが、どうやら起きる気配がない。
「まあ大したことはないみたいだが……」
まあ交錯によるダメージというよりも、ただ眠ってしまっただけのようだ。
心地良い寝息が聞こえる。
念のため魔法で確認してみるが、やはり怪我とかはしてないな。
夜も遅いしな……しかも二人ともほろ酔いだったし。
「まあ丁度よかったか」
しかし二人とも目を覚まさないなら好都合だ。
「女将にどこか空いている部屋がないか聞いてみるか……」
アリエルとエドラをベッドに寝かせ、俺は別の部屋で体を休めるのであった。
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