5・焦る四天王達
四天王視点です。
ブラッド = ブリスのことです。
一方その頃、魔王城では。
四天王達だけによる会議が行われていた。
「カミラ。ブラッドが家出したとは、どういうことじゃ?」
カミラは残りの四天王の三人に詰問されていた。
とはいえ、四天王は魔王軍の中でも特に忙しく、一同が城で顔を合わせることはほぼない。
なので卓には三つの水晶が置かれている。
それぞれの水晶には四天王の顔が映し出されていた。
これで遠くの者とも、会話することが可能となるである。
「う、うむ……剣の稽古をつけていたことなのだがな。いつも通りにやっているつもりだったが、なにかそれがブラッドの癪に触ったらしい。それで……」
「だからお主はスパルタすぎると言っておるじゃろ!」
一人の四天王から怒声が飛ぶ。
そう……四天王達は『ブリス』こと『ブラッド』の家出について、急遽会議を開くことになった。
正直カミラは、ブラッドはすぐに魔王城に逃げ帰ってくると思っていた。
あれだけ外の世界は危ないぞと言い聞かせてきたのだ。今回の家出もどうせ一時間くらいで終わるだろうと。
しかし一晩経ってもブラッドは戻ってこなかった。
そこで慌てたカミラは急遽、四天王のみんなで通称『ブラッドをどうしよう会議』が開かれたのだ。
『剣』の最強格、カミラ。
『魔法』の最強格、クレア。
『治癒』の最強格、ブレンダ。
『支援』の最強格、ローレンス。
水晶を使っているとはいえ、四天王が全員顔を合わせることは珍しいことであった。
「し、しかし……これもブラッドを思ってのことだった。まさかあれごときで根を上げるとは……」
「一体なにをしたのじゃ?」
「右腕を吹っ飛ばした」
「はあ……これだからお主は……」
『魔法』の最強格であるクレアが深い溜息を吐く。
「腕など気軽に吹っ飛ばすな。右腕が切断される光景にトラウマを覚えるかもしれないじゃろ」
「だ、だが……」
「やるなら、毒魔法でじわじわ痛めつけろ。毒だったら外傷はないからな。万が一治癒魔法に失敗しても、傷跡が残らない。全く……相変わらずお主は脳筋じゃな」
「な、なにを言う! 毒魔法なんて……ブラッドが苦しんじゃうではないか! それだったら痛みが一瞬の方がいいはず! だから腕を斬ったのだ。それに……私は毒魔法なんて使えん!」
「お主こそなにを言う? そもそも……」
カミラとクレアが言い争う。
四天王の中でも、カミラは特にクレアとうまが合わなかった。
「止めなさい!」
透き通った声が部屋に響き渡る。
『治癒』の最強格、ブレンダの声だ。
「カミラ、クレア。今はそんなことで言い争っている場合ではありません。それよりもブラッドを連れ戻さなければ……」
「それはそうだな」
カミラは表情を引き締め直す。
「ブラッドが魔王城の外に出るなんて、心配で夜もろくに眠れん」
「その通りじゃな。魔物に襲われて死ぬかもしれん。古代竜なんかに遭遇したら、腕の一本や二本は持っていかれるかもしれんしのう」
「それよりも、私はブラッドがモテモテになってしまうことが怖いです。あの子、可愛い顔してるから……」
「ふえぇ……ブラッド、戻ってくるのかなあ? 友達……彼女とか出来ちゃったら、どうしよう?」
「「「彼女?」」」
四天王の一人、『支援』の最強格であるローレンスが放った言葉に、残りの三人がピクリと反応する。
「あ、あいつには彼女などまだ早い!」
「そうじゃ、そうじゃ。それに誰の許可があって、彼女なんて作るのじゃ」
「もしブラッドに彼女なんて出来たら、審査しなければなりません。ついでに拷問も……」
「ふえぇ……ごめんなさい。適当に言っただけだよ。だからそんなに睨まないで……」
ローレンスが頭を抱えた。
カミラはふっと息を吐いて。
「……取りあえず、ブラッドの『彼女出来るかもしれない問題』については今は置いておこう。それよりも問題なことがある」
「じゃな」
四天王は全員顔を見合わせ、
「「「「魔王様にこのことがバレたら、怒られる!!!!」」」」
と声を揃えた。
ブラッドは昔、魔王が拾ってきた人間だ。
それから魔王はブラッドのことを溺愛し、大切に育ててきた。
そもそもからして、四天王全員で一人の人間を育てることなど、有り得ないことなのだ。
このことから、魔王がどれだけブラッドに愛情を注いでいるかうかがえる。
「魔王様はブラッドのことが大好きだからな……」
「全くじゃ。それなのに家出したなんてことがバレたら、どうなることやら」
「良くて空が暗黒に包まれる。悪くて世界は滅亡するでしょうね」
「どっちにせよ、僕達、タダじゃ済まないよね……」
「うむ」
カミラが頷く。
「魔王様は次、いつ魔王城に戻ってくる?」
「二週間後と聞いておる」
「二週間か……すぐだな」
「それまでになんとしてでもブラッドを見つけ出し、そして連れ戻さなければ」
「もちろんだ」
ブラッドがいなくなることも嫌だ。
そしてなにより、魔王様に怒られたくない四天王一同であった。
「私の方も部下を使って、全力で探してみる。他の三人にも同じようにお願いしたい」
「当たり前じゃ。お主のことは嫌いじゃが、今回ばかりはそんなことも言っておれん」
「私もすぐに探してみます」
「ぼ、僕も……力になれるか分からないけど……」
決まりだな。
こうして、四天王はかなり久しぶりに心を一つにしたのであった。
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