49・親玉の登場
俺達の目の前に現れたのは巨大なアブソーブモグラだった。
その大きさは先ほどのものとは比べものにならない。
家一軒くらい簡単に丸呑み出来そうな……そんなモグラが俺達の前に顔を現した。
「こ、こんな魔物が!」
「逃げないと……!」
アリエルとエドラが恐れおののき、逃げようと踵を返す。
しかし時既に遅し。
ゴオオオオォォォォォ……。
アブソーブモグラが大口を開けると、激しい突風が発生した。
「す、吸い込まれます!」
アリエルが急いで近くのものにしがみつく。エドラと俺も彼女と同じようにした。
周囲のものがアブソーブモグラへ吸い込まれていく。
中には人一人分くらいの大きさがある岩が、宙に浮きアブソーブモグラの胃におさめられていく光景が目に入った。
「メインの攻撃手段はこれだったわけか」
先ほどのアブソーブモグラは子どもだったのだろうか?
こういう攻撃手段は取ってこなかった。
全く。他の冒険者が下手に手を出そうとしないわけだ。
「ブリス! なに冷静でいるんですか!」
「こういう時こそ落ち着くことが大事だろ?」
「それはそうですが……」
しかしアブソーブモグラの吸い込みが衰える気配がない。
このままではいずれ俺達は力をなくし、ヤツの胃袋におさまってしまうだろう。
「一度試してみるか……フレイムランス!」
片手を出して、なんとか魔法を発動する。
ぐんぐんと炎魔法はアブソーブモグラへと伸びる……だがダメ。
なんと炎の槍はそのままアブソーブモグラの体に命中せず、口の中に吸収されてしまった。
無論、ヤツはダメージを負っている様子は一切ない。
「魔法すらも吸収する……ということなのか?」
どういう仕組みか分からないが、あいつに吸い込まれてしまえば、どんな攻撃も体内で分解されてしまうようだった。
生半可な攻撃では通らないということか。
「さて……どうするか」
頭を悩ませていると、
「ブリス……私に任せて」
エドラが声を発する。
「なにか考えがあるのか?」
「うん。ちょっと時間があれば、これくらいなら……」
「分かった。エドラ、頼む!」
「任せて」
エドラが魔法の展開を始める。
彼女がそう言うくらいなのだから、短い時間で済むと願いたいが……俺もだんだん手の力がなくなってきている。耐えられるのはもう少しだ。
「きゃっ!」
「アリエル!」
そうこうしていたら、アリエルが近くの出っ張りから手を離してしまった。
「くっ……つかめ!」
アブソーブモグラに吸い込まれていく彼女へ、思い切り右手を伸ばす。
……よし! つかんだ!
「あ、ありがとうございます!」
「もう少しの辛抱だ! エドラがなんとかしてくれる……!」
アリエルの手を力強く握りしめながら、彼女を励ましていると、
「出来た。ウィンドストリーム!」
ようやくエドラが魔法を発動した。
……アブソーブモグラの吸い込む力が……弱まっていく?
ウィンドストリームは風の流れをコントロールする魔法だ。
アブソーブモグラの吸い込む力によって、俺達がこいつの方に流される『風』が発生しちまっている。
その風を彼女は魔法で制御しようとしているのだ。
「んんんんっ!」
相当な力を込めているのだろうか、エドラから苦しそうな声が発せられる。
最初はそれでも、アブソーブモグラの吸収をほとんどやわらげることが出来ていなかったが……徐々に弱まっていた。
これなら壁から手を離しても、なんとか持ちこたえられそうだ。
「今だ……! アリエルも!」
俺達はその一瞬を見逃さない。
「フレイムランス!」
「気斬!」
何度も何度も……!
エドラがアブソーブモグラの吸収を弱めてくれる間に、アブソーブモグラに攻撃を与えていく。
この程度の風の弱さならヤツに攻撃が吸収されない。
口以外の他の部分に命中していった。
「GUOOOOOO!」
効いている!
巨大なアブソーブモグラが悲痛な叫び声を上げる。さらに地面から手を出し、その爪で俺達に攻撃を仕掛けてきた。
しかし。
「それは悪手だ」
あくまでこのアブソーブモグラの厄介なところは、全てを吸い込んでしまうところにあった。
ただ普通に攻撃してくるだけなら……それは俺達の土俵である。
古代竜に比べれば遅く、そして威力も弱いためだ。
「もう少し!」
俺達は最後の攻撃を魔物に浴びせていった。
やがて……。
「た、倒した……」
エドラがへなへなと力をなくし、その場に座り込む。
何度も攻撃を与えた結果、やっとのことでアブソーブモグラはその動きを止めた。
大きい体が俺達の目の前で転がっている。
「なかなかの強敵だったな。エドラ、ありがとう。エドラがいなかったら、勝てなかったかもしれない」
「ブ、ブリスの役に立ててよかった……」
疲れている様子のエドラであったが、その顔はどこか嬉しそうであった。
「ではすぐに戻りましょう。忘れがちになりますが、ここはルナー坑道。いつブリスの毒無効の支援魔法が、切れるのかも分かりませんので……」
「その通りだな」
まあとはいってもアブソーブモグラを倒しても、まだ一時間も経っていないがな。
ここまで来るのに三十分かかった。ゆっくりかかっても、まだ十分余裕がある。
「じゃあこいつを収納魔法でおさめてから、すぐに鍛冶師のラッセルのところへ行くか」
「わたくしも行きますわ」
「私も」
先ほどのちっちゃなアブソーブモグラも入手して、さらにこんな大きなものまで手に入れたのだ。
これはラッセルに良い武器を作ってもらわなきゃな。
まだ見ぬ武器に心を弾ませるのだった。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!





