44・Sランクに昇格した
俺達は古代竜をクアミア家の邸宅に保管してから、すぐにノワールにとんぼ返りした。
受付テーブルまで行き、
「シエラさん、呼び出しを受けたんですけど……」
受付嬢であるシエラさんに話しかける。
彼女は俺が冒険者になってから随分世話になっている人だ。
シエラさんは俺の顔を見るなり、やけに神妙な表情になって、
「本日……ブリスさんにはお伝えしたいことがありまして……」
「そ、それはなんでしょうか?」
もしかして悪い報せだろうか?
心当たりはないが、シエラさんの表情を見ていると……それも有り得そうだ。
何故かシエラさんは低めの声で、少しも笑顔を浮かべず、
「ブリスさんは……」
と続け、後ろからなにかを取り出し……。
「今日でSランクに昇格です!」
パン!
シエラさんが後ろからクラッカーを取り出した。
クラッカーを引くと、軽快な音とともに紙吹雪が舞った。
「……はい?」
突然のことで思考が追いつかない。
「シエラさん、Sランクってどういうことですか? 俺、今までDランクだったんですけど……」
「《大騒動》のゴタゴタがあったせいで、昇格試験が有耶無耶になりましたけど、アリエルさんから聞いていますよ? なんでも一つ目トロールを紙くずのように、バッタバッタとなぎ倒していったって」
アリエルに視線をやると、彼女は「当然です」とばかりに頷いていた。
「じゃあその昇格試験に合格したということですか」
「そうです!」
「ですが、試験はDからCに昇格するためのものじゃなかったでしたっけ? それなのにSランクって……」
「前にも説明させていただいた通り、DからCには大きな壁があります。C以上にいくためには、試験を受けていただく必要があったんですよ。つまり……その壁さえ乗り越えれば、後はその人の実績によっていくらでも昇格出来るということです」
なんだそりゃ。
つまり昇格試験はDからCに上がる際の、一回こっきりということか。
前の説明を聞いていれば分かることであったが、《大騒動》の騒ぎですっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「はあ」
なんと返していいか分からず、俺は頭を掻く。
「それにしてもSランクは一気に上がりすぎじゃないですか!?」
「ブリスさんの実績を考えれば妥当ですよ。今までが遅すぎたくらいです」
「当然ですわ」
「アリエルまで……」
まあ昇格することが嫌なわけではないから、ここは素直に受け取っておこうか……。
「ではこちらが新しく発行した冒険者カードです」
シエラさんから一枚のカードが手渡される。
そこにはランク欄のところに『S』と金ぴかの文字で書かれていた。
「ふふふ。ついにブリスもSランクですね」
「なんかここまであっという間だったな」
「ですわね。わたくしがSに上がる時は、もっと時間が必要でしたのに……さすがブリスです」
あっ、そういえばアリエルはこの街唯一のSランク冒険者だと言っていた。
つまりノワールにはアリエルに続いて、二人目のSランクが誕生したということだ。そう考えると感慨深い。
「あと……大金だったため用意するのが遅れましたが、これは古代竜討伐の報酬金です! 確認してください」
シエラさんから白金貨を三枚受け取……って白金貨!?
白金貨というと一枚一千万イェン以上の価値があったはずだ。それが三枚だなんて……。
「ほ、本当にいいんですか?」
「もちろんです! ブリスさんはこの街の英雄なんですから」
白金貨一枚あれば、しばらくは働かなくても生きていけるな……まあせっかくSランクにもなったし、もっと世界を見てみたいのでそんなことはしないが。
とはいえ。
「古代竜は俺だけが倒したわけじゃないからな。アリエルとエドラも一枚ずつ山分けだな」
そう言って、アリエルに白金貨を手渡そうとすると……。
「こ、こんなに受け取れませんよ! 古代竜を倒せたのはほとんどブリス一人の力なんですから!」
「だが……」
頑なに受け取ろうとしないアリエル。
まあ配分については後で考えればいいか……今はそのことよりも。
「それで……シエラさん。ギルドからの呼び出しというのは、これだけですか?」
「あっ、もう一つありますよ! ディルクの野郎の件です」
やはりか。
「なにか動きがありましたか?」
「どうやら少しだけ、まともに話せるようになったみたいです。ギルドの地下でモーガンさんがお待ちです。すぐに向かってください」
「分かりました」
「わたくしも行きます」
俺はアリエルと肩を並べて、地下室に向かった。
◆ ◆
「おお、ブリス。やっと来たか」
地下室に降りると、モーガンさんが俺達の顔を見てそう名を呼ぶ。
「なんだか暗いところですね」
「まあな。ここは王都に引き渡すまで、重犯罪者を拘束しておくところだ。最近はそこまでの重犯罪者がいなかったが……全く、久しぶりだよ。こんな馬鹿者が現れたのはな」
そう言って、モーガンさんは鉄格子に囲まれた部屋の中を見る。
鉄格子の先には、ディルクが両手を鎖に繋がれて、うなだれている光景が見えた。
上半身を裸にされており、見るからに痩せ細っている。傷も多く、こうして生きているだけでも精一杯に見えた。
「こいつに話を聞いて分かったことが、いくつかある」
それが単純にディルクと会話を交わした……という訳ではないんだろうなあ、と思いつつモーガンさんの話に耳を傾ける。
「まず一つ。ディルクの背後には『ゼブノア教団』という存在がいる。どうやらそいつ等にそそのかされて、今回の凶行をやってのけたらしい」
ゼブノア教団……聞いたことがないな。
記憶を探っていると、モーガンさんはネックレスのようなものを取り出した。
「こいつが持っていたものだ。最初はなんだと思っていたら、これがどうやら教団のマークになるらしい」
ネックレスには黒い蝶のようなマークが付けられている。
見ているだけで禍々しさを感じた。
「アリエルはゼブノア教団を知っているか?」
アリエルにも話を振ってみるが、彼女も首を横に振った。
モーガンさんの方に視線を戻すと、彼はさらに話を続ける。
「そしてもう一つ。どうやらディルクはゼブノア教団の中でも、そこまで地位が高くなかったらしい。そのせいでゼブノア教団の全貌について、聞き出すことが出来なかった」
「下っ端だから、あまり情報を知らされていないということですか」
「そういうことだ」
「古代竜については?」
「それについても詳しく分かっていないが、ディルクは『教団から借りた』と言っている。ゼブノア教団っていうのは、とんでもない連中だな」
モーガンさんの言う通りだ。
ノワール、そして周辺に《大騒動》を引き起こしたディルクですら、教団の中では下っ端の方だったという。
教団は古代竜をなんらかの方法で保管していたということか。
そんなことが出来る力をゼブノア教団は保有している。
そう考えると、一人や二人の集団ではなさそうだ。
「紅色の魔石もゼブノア教団が作ったものでしょうか?」
「おそらくな」
アリエルの問いに、モーガンさんが答える。
ディルクに先日のようなことをやらせて、一体ゼブノア教団はなにを考えているのだろうか?
とはいえ。
「……今分かっている情報はそれだけですか?」
「そうだな。おそらくディルクから引き出せる情報も、これ以上はなさそうだ」
再度ディルクの方を見ると、
「カカカ……せ、世界はオワリだ! 私を捕まえたところで、ナンビトたりとも教団の邪魔はデキヌ!」
と壊れたように不気味に笑っていた。
紅色の魔石に取り憑かれた者の憐れな末路だと言えるだろう。
「ちなみにディルクはこの後、どうなるんですか?」
「王都に引き渡されると思う。《大騒動》を引き起こした重犯罪者だからな。ノワールだけでは対処出来ん。おそらく処刑になると思うが……」
「カカカ! 私を殺しても、世界の破滅は止められヌ!」
地下室にはディルクのけたたましい笑い声が響いていた。
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