41・戦いが終わって
……リス。
……ブリス。
そう誰かが名前を呼んだ気がした。
「ん……」
覚醒する。
「わ!」
瞼を開けると、何故かアリエルの顔が目の前にあった。
彼女は驚き、大きな声を上げて顔を離した。
ドシャガララララ!
その時の勢いが強かったせいか、後ろの本棚に体をぶつけ、大きな音を立ててしまった。
「……大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですわ……」
とアリエルは頭に本を載せて、恥ずかしそうに言った。
「確か俺は……」
思い出す。
ノワールで大規模な魔物の襲来、《大騒動》が発生し、街は未曾有の大混乱に陥った。
古代竜も出てきて、さらに街をごった返す騒ぎとなった。その額には紅色の魔石が……!
俺はアリエル達と力を合わせて、古代竜を撃破したのだが……その時の疲れもあってか、急激な眠気に誘われた……ということだ。
「ここは……いつも泊まっている宿屋か」
立ち上がりながら、辺りを見渡す。
ギルドで倒れてから、記憶がない。
どうやら寝てしまった俺を、誰かがここまで運んできてくれたらしいな。
「まあここまでは分かるが……どうしてアリエルが?」
俺が問いかけると、アリエルはパッパッと服についた埃を払ってから、話し始めた。
「は、はい……あの後、ギルドマスターのモーガンさんの力も借りて、ブリスをここまで運んできたのです。ブリス、丸一日も寝ていたんですよ? 心配したんですから」
「そうだったのか」
仕方のないことかもしれないが、俺は相当疲労が溜まっていたらしい。
「ということは……まさかアリエルが看病してくれたのか?」
「……!」
問うと、アリエルはビクンッと肩を震わせた。
「そ、そうですわ! このまま目覚めなかったらどうしよう、と心配したんですから! ブリスに限って、そんなことはないと思っていましたが」
「ありがとう。そして心配かけてすまなかったな」
「いえいえ! ……それであまりにもぐっすり寝ているものですから、く、口づ……」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもありません!」
アリエルを顔を真っ赤にして、手をバタバタと振った。
なにを慌てているのかよく分からないが、そんな彼女の姿も可愛らしかった。
「それにしても色々あったな」
「そうですわね。まさか古代竜が出てくるなんて……あんな大きなドラゴンなんて、神話の中だけのお話だと思っていました」
俺は古代竜を見るのは初めてではなかったが……なかなか激しい戦いだったな。
つくづく、つい先日の戦いが嘘のようであった。
「それにしても、やっぱりブリスはすごいですわね」
「なにがだ?」
「あーんなに大きなドラゴンを倒しますもの。ブリスがいなかったら、ノワールが……いえ。大陸がメチャクチャになっていたかもしれません」
「そんなことない。俺一人じゃ倒せなかっただろうしな。アリエルの力もあってのことだろう」
「あ、ありがとうございます。お世辞だと思いますが、あなたにそう言ってもらえて素直に嬉しいですわ」
アリエルがニコッと笑顔を浮かべる。
別にお世辞でもなんでもないんだが……。
俺が支援魔法をかけていたとはいえ、アリエルが《千本気斬華》を見事成功させてみせたのは、ただただ驚くことであった。
今後の彼女の成長にも期待だ。
それにしても……。
「ブリス」
俺の思考を遮るように、アリエルが口を動かす。
「最後の魔法はなんだったんですか? ダークバーストと言っていましたが。
あんな魔法、わたくし見たことありませんでしたわ」
「…………」
「結局あの魔法が決め手となりましたもの。あんなすごい魔法も使えるなんて、ブリスはさすがですわね」
アリエルが褒めてくれる。
しかし俺はそれに答えることが出来なかった。
最後の局面……俺は自分でも驚くくらいの力を出すことが出来た。
それにダークバーストという魔法は、よく魔王が使っていたものだった。
『魔法』の最強格、クレアですらあの魔法を使いこなすことは難しい。
それなのに……あんな魔法が使えるだなんて、俺は一体どうしちまったんだ?
「ブリス? どうしました。なにか考え込んでいるようですが」
「なんでもない」
俺がそう言うと、アリエルは不思議そうに首をかしげた。
……まあここで考えていても答えが出そうにない。
あんな強力な魔法、また使えるとは限らないからな。今後の戦い方の一つからは外しておく方が無難か。あくまであれはイレギュラーなものだったのだ。
「あっ、そうそう。アリエル、古代竜はどうなった? ノワールの森の方に落としたが……」
検分する暇もなく、街にいた傷を負った者達の治癒で忙しかったからな。
「そのことについてですが、今はギルドの方から職員、そして魔物の研究者達が現場で検分をしています」
「ほう?」
「気になる点も多いですからね。あんな大きなもの、そう簡単に持ち帰ることも出来ませんし……あっ、そうだ。ブリスが大丈夫なら、今からノワールの森に行きませんか? 古代竜の死体、気になるでしょう?」
「もちろんだ」
そうと決まれば話は早い。
「お体の方は大丈夫でしょうか? もし疲れているようでしたら、やっぱり明日でも……」
「いや、問題ない。丸一日寝てたみたいだからな。疲れているどころか、眠気もさっぱり取れて爽快なくらいだ」
俺は昔から自己回復力が高かった。
どんなに疲れていても、一晩寝れば元通りになってしまうことが多かったのだ。
だからこそ四天王達の無茶な特訓に耐えられとも言う。
「ふふふ、ブリスには驚かされるばかりですね。では行きましょう」
俺はアリエルと宿屋を出て、古代竜の死体があるノワールの森に向かうことになった。
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