40・魔王様のお怒り
「どうするのじゃ!? もう魔王様に隠し通すのは、限界じゃぞ!」
「そんなことは分かっています。しかし……どうしようもないじゃないですか」
「ふえぇ……カミラ、いつになったら戻ってくるのかな?」
人間の間でごたごたがあった、その頃。
魔王城で四天王の三人は焦っていた。
無論魔王様のことである。
最初こそは「ブラッドは魔王のプレゼントを買いに行った」と言って誤魔化せたが、それもだんだんボロが出始めている。
日にちが経つごとに、魔王様の四天王への追及はどんどんと厳しくなっていった。
たとえば……。
『ブラッドちゃんはまだ帰ってこないのか?』
『本当にプレゼントを買いに行ってるのか?』
『……そなたらは怪しい。ブラッドちゃんと一度交信させろ』
『我慢の限界だ。明日までにブラッドちゃんを戻らせろ』
と魔王様は徐々にイラつき始めた。
しかし出来るわけがない。
ブラッドはどこにいるか、魔王城にいる者誰もが分からないのだから。
「帰ったぞ」
どうしようか四天王で話し合っている時。
「カミラ!」
とうとうカミラが魔王城に帰還してきた。
『治癒』の最強格、ブレンダが真っ先に彼女に駆け寄り、希望を持ってこう問いかける。
「ブラッドは見つかりましたか? 早くしないと、魔王様が……」
「うむ。そのことだが」
カミラが箱入りのお菓子を掲げる。
「……? なんですか、それは」
「お饅頭だ。せっかく人間界に降りたからな。みんなへのお土産だ」
「……カミラ? もしかしてふざけているのですか?」
「私は至極真面目だぞ」
カミラが堂々と言う。
しかしブレンダは見逃さなかった。
カミラの頬を伝って、細い汗が滴り落ちたのを。
「なにをしていたのですか? みんな、あなたを待っていたのですよ? ブラッドを見つけられなかったにしろ、なにか手がかりくらいは……」
「それなんだが……」
誠意を持って、カミラは四天王達に丁寧に説明した。
途中で盗賊に襲われた。そこで一人の少女を助けたと。そして少女を送り届けるために、しばらく旅をしていた。
少女は無事に生まれ故郷まで送り届けた。しかし……その村では《大騒動》が起こっていた。少女の両親が殺されるのも胸くそ悪いので、魔物を片付けて村を救った。
そしてどうやら《大騒動》はここだけではないらしい。ブラッドのことを聞くために村に訪れたとしても、そこの人間が全員殺されていては意味がない。というわけで周辺の街や村を訪れ、《大騒動》をおさめた。
そうこうしていたら時間がなくなって、とてもじゃないが、ブラッドを探し出すことなんて不可能だった。
「……ということなのだ。私は悪くない」
カミラは胸を張る。
しかし。
「この馬鹿者がああああああああああああ!」
『魔法』の最強格クレアが、カミラの胸を貫こうとダイレクトに炎魔法を放つ。
「うおっ!」
だが、当たる寸前。
カミラは抜剣し、剣で魔法を弾き返した。
「いきなりなにをするのだ」
「それはこちらの台詞じゃ!」
クレアは魔法で風の剣を作り出す。
そしてカミラの脳天から斬り裂こうと、剣で一閃した。
「遅いな」
だが、カミラはそれを間一髪のところで受け止め、両者の間でつばぜり合いが起こった。
「お主はバカじゃバカじゃバカじゃ……と思っていたが、まさかここまでとは思っていなかったぞ」
「仕方ないではないか! 私だって……ブラッドを見つけ出したかったさ! でもどこにいるか皆目見当もつかん!」
「それを見つけるのが、お主の仕事じゃったではないか。そもそもブラッドがいなくなったのもお主のせいで……」
「なんだと!? ブラッドに厳しく当たっていたのは、私だけではなかったじゃないか。日頃の鬱憤が溜まって、ブラッドが魔王城から逃げ出したに違いない! 私だけのせいではない!」
二人は剣を振り回しながら、お互いのことを罵しり合う。
近くにあった飾りや家具、壁が二人の争いによって破壊され、さながら嵐が通過しているかのような光景だ。
「お待ちなさい! あなた達、今は四天王同士でいがみ合っている場合ではありません!」
「ふえぇ……止めようよ。こんなことしても無駄だよぉ……」
ブレンダとローレンスが喧嘩を止めようとするが、『治癒』と『支援』といった、二人に比べて攻撃面に向いていない四天王だ。
非力な二人では、暴風のようなカミラとクレアを止められるはずがない。
「そもそもブラッドが出て行ったのも、全てクレアのせいな気もする。お前が何度もあいつに毒魔法をかけるから……」
「それはこっちらの台詞じゃ! ケーキを切るくらいの気軽さで、ブラッドの腕を切断するではない!」
二人の剣が交錯しようとする、その時であった。
「……ブラッドが出て行った?」
低い声。
両者の間に割って入り、その者は素手で容易くお互いの剣を受け止めていた。
「「ま、魔王様!?」」
カミラとクレアが声を揃え、すぐに剣を引っ込める。
しかしもう遅かった。
「いくらなんでも、おかしいと思ったのじゃ。ブラッドは全然戻ってこぬし、交信すらさせてくれない。そなた等はなにか誤魔化しているようにも感じるし……」
怒っている。
それをひしひしと感じた。
魔王様は俯き、ぶつぶつと「ブラッドちゃん……ブラッドちゃん……」と何度も呟いている。
ああ——もうダメだ。
ブレンダは次に起こるであろうことを覚悟した。
「全く……そなた等は……」
ばっと魔王様は顔を上げる。
「なにをしておるのじゃああああああああああああ!」
怒髪天を衝くとはまさにこのことであった。
一章はこれで完結です!
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引き続き二章も頑張ります!
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