38・トドメの一撃は
俺はアリエルとエドラの肩にポンと触り、支援魔法をかける。
「すごいです! 力がみなぎってきます!」
「あの時と同じ……!」
二人は驚いているようであった。
「そんなことを言っている暇はないぞ。二人とも……後は任せた!」
俺が言うと、二人とも頷いた。
古代竜が口から波動を出す。
「ちぃ……おとなしくしてろよ!」
それを結界魔法で防ぎつつ、エドラを見ていた。
彼女は古代竜に手をかざし、
「サンダーストーム!」
雷の上級魔法を発動する。
雷の嵐が古代竜を中心に吹き荒れる。
オオオオオオォォォォォオオオオン!
古代竜は悲痛な叫び声を上げた。
しかしこれだけでは古代竜は倒せない。耐久力が他の魔物と比べて、段違いなのだ。
あくまで古代竜の動きを止めたに過ぎない。
だが……。
「アリエル!」
「はい!」
アリエルの名を呼びかけると、彼女はすっと目を瞑り大きく息を吐いた。
うむ……冷静だ。その調子だ。
古代竜の顔がこちらを向く。俺達を脅威に感じているのだろう。
しかしこれこそ、飛んで火にいる夏の虫というヤツだ。
古代竜の額を目の前に見据える。
魔石が紅色に妖しく光っていた。
「今です!」
アリエルは剣を構え、
「《千本気斬華》!」
と大きく声を発した。
「はああああああ!」
目にも止まらぬ斬撃を、遠距離から古代竜に取り付けられている魔石に浴びせていく。
一の気斬の間に、千の気斬を放つ。アリエル必殺の一撃である。
オオオオオオォォォォォオオオオン!
古代竜がさらにうるさく叫いた。
紅色の魔石が一瞬より一層輝き、やがて魔力の供給を一時的にストップする。
「よくやった、二人とも!」
これで古代竜の耐久力は低下した。
これなら俺でも致命傷を与えることが出来る!
とくとく。
血が騒ぐ。血が沸騰する。
俺の中で流れている血が獲物を見つけて喜んでいることを、確かに実感した。
「ブリス……目が血のように赤く……」
後ろでアリエルがなにかを言っていたのが聞こえた。
「オオオォォォォォオオオオン!」
古代竜が雄叫びを上げ、俺に向かって何発か口から火球を吐く。
だが。
「魔王に逆らうとは良い度胸だ」
そっと手をかざす。
俺の前に黒色の球体が現れる。
それは放たれた全ての火球を吸引する。
そのまま球体は火球ごと、おとなしく消滅してしまった。
「こんな攻撃では生温い」
今度は古代竜に照準を合わせる。
「ダークバースト」
古代竜を囲むように、闇色の牢獄が形成された。
すぐにヤツは逃げ出そうと試みるが、この魔法が発生してしまってからでは遅い。しかも紅色の魔石の力も借りられないのだ。
力をなくした古代竜に対して、いくつもの大爆発が起こる。
鱗が剥がれ落ち、古代竜から血飛沫が上がった。
やがて古代竜は叫び声を上げ続けていたが、やがて街に向かって降下していった。
「ゆっくり眠れ」
俺はヤツに重力魔法をかけ、降下していくスピードをゆっくりなものにしていった。
そして街の外れ……ノワールの森に降下していくように調整した。こんなものが街に落下したら、タダじゃ済まないからな。
「終わった……のですか?」
「古代竜は……死んだ?」
二人の震えた声。
《探索》を使用するが、古代竜から生体反応を感じない。
ヤツが完全に死んだことを確認した。
俺達の勝利であった。
「……終わったか」
息を吐く。
しかし……なんだ?
この喉の渇きは。
「もっと戦いたい……」
……!?
今、俺はなにを言った?
自分でも信じられないような言葉が口から出てしまったような気がしたが……。
「はあっ、はあっ……」
胸を掻きむしる。
このままでは、誰彼構わず襲——
「ブリス!」
その時。
そんな俺を優しく抱きしめてくれる人物が現れた。
「アリエル……」
「どうしたのですか? 疲れたのですか? あなたらしくありませんわよ。もう戦いは終わったのです。ゆっくりしてください」
……ああ。
心が正常に戻っていく。
「ああ。心配させて悪かった。ちょっと疲れただけだ」
アリエルの両肩をつかんで離す。
「ブリス……血が……」
「ん?」
アリエルがハンカチを取り出し、俺の額を拭いてくれた。
俺自身から血は流れていないと思うが……どうやら古代竜の返り血を浴びてしまっていたらしい。
「ありがとう」
「ふふ。やっぱりブリスは、今の透き通った目の方が素敵ですわ」
小さく笑うアリエル。
「さあ……まだ魔物は残っている」
古代竜が死ぬことによって、それに連結されていた紅色の魔石の力も停止した。
やがて活性化していた魔物は元に戻り、ほとんどが街の外に逃げ帰っていくだろう。
しかしそれも全てではない。
街の中に残っている魔物を始末しなければ。
「まずはそれを全て片付けてからだ」
「そうですわね」
俺達は気を引き締め直し、走り出した。
それにしても……先ほどの異常はなんだったのだろう?
俺の体の中でなにかが起こっている?
……いや、今は魔物を討伐することに集中しよう。戦いに上の空では足下をすくわれかねない。
その後、古代竜の死亡によって士気が上がった冒険者達と力を合わせて、街の中にいた魔物を全て片付けたのであった。
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