36・魔物の襲来
(アリエル視点)
アリエル達がノワールに戻ると、既に街はごった返したような騒ぎとなっていた。
「ああ……なんということ……」
街では魔物達が動き回り、人々を襲っている。
冒険者達がなんとか魔物達を食い止めているが、それも限界のように思えた。
次々と入り口を突破して、魔物達が街の中に入り込んでいく。
「アリエル、行こ」
「ええ……! 取りあえず、すぐにギルドに向かわないと!」
ギルドで詳しい戦況が聞けるはずだ。
アリエルとエドラはすぐにギルドへ急いだ。
「アリエルさん! エドラさん!」
ギルドに着くと、受付嬢のシエラさんが二人の名前を叫ぶ。
中にいた冒険者や職員達の視線が、一斉にアリエル達に集まった。
「シエラさん、街の状況はどうなっていますか?」
「それはオレから説明しよう」
説明しようとしたシエラさんを手で制して、大柄な男が前に出た。
ノワール冒険者ギルドのマスター、モーガンだ。
「正直な話をすると、オレ達にもなにが起こっているか分からねえ。定期的に魔物は冒険者達に狩ってもらっていたし、唯一の懸念事項であったゴブリンキングの件もお前さん達に始末してもらっていた。《大騒動》なんて起こりえないはずだった。それなのに……どうして……」
「それについて一つご報告があります」
「報告」
「この《大騒動》を引き起こしたのは、わたくしの——クアミア家の執事。ディルクのせいです」
目を見開くモーガンに向けて、アリエルは事の顛末を説明した。
ディルクが紅色の魔法石を使い、魔物達を活性化させていた。彼の真意はよく分からないものの、ノワール……そして世界を混乱に陥れようとしている。
説明を終えると、モーガンは「なるほどな……」と顎髭を撫でた。
「そのディルクってヤツには、後で話を聞かねえといけないな。そういえばアリエル、ブリスはどこに行った?」
「ブリスはディルクと戦っています」
「ふむふむ。ブリスは後どれくらいでノワールに着く?」
「分かりません。ただ……馬車はわたくし達が乗ってきましたし、ブリスは周辺の村を救うために、わたくし達を先に行かせたのでしょう。それを考えると、おそらく……早くて明日になると思います」
アリエルが言うと、モーガンが見るからに肩を落としたのが分かった。
当然だ。
現状、ノワールの最強戦力は彼なのだ。
みんな、ブリスが戻ってくるのを期待して、なんとか防衛戦を凌いでいるのだ。
「最低でも明日まで持ちこたえなければならないのか……」
「はい……で、ですが、ブリスのことです。わざわざ馬車をわたくし達に預けて、その場に残ってディルクと戦ったってことは、なにか考えがあるはずです。信じましょう」
「……ふう、やれやれ。アリエルはブリスを心から信頼しているようだな」
「当然です」
アリエルが断言する。
「と、とにかくブリスが戻ってくるまで、なんとか防衛しなけりゃいかん。明日までかかると見て……」
「GUOOOOO!」
その時であった。
ギルドの扉をぶち破って、何体かの魔物が入り込んできたのだ。
「ちっ……! 冒険者共はなにをしてやがる!?」
「す、すみません! 魔物の勢いを止めることが出来ず……!」
モーガンは焦っているのか、口調が荒々しくなっていた。
いわば冒険者ギルドというのは、いわば最終防衛ラインだ。
もし《大騒動》が起こっても大丈夫なよう、街の一番奥に設置されている。
それなのに……魔物がここまで来るということは、街の被害はもっと酷い。冒険者達では対処しきれないのだ。
「戦うしかありません!」
「私も頑張る」
アリエルとエドラは剣、そして魔法杖を振り上げて、魔物達と戦っていく。
SランクとAランク冒険者コンビということもあり、見る見るうちに魔物の数は減っていた。
しかし……それを上回るレベルで魔物達が押し寄せてくる。
(周辺にいる魔物が、ノワールに集まってきている……?)
アリエルは思った。
紅色の魔石を見つけることが出来れば……!
それを破壊することが出来れば、現状を好転させることが出来るだろう。
(どこにあるのですかっ!!)
剣で敵をなぎ払いながら、アリエルは考える。
このままではジリ貧だ。いくらノワール中の冒険者が交戦しているとはいえ、いずれ街は壊滅してしまうだろう。
(ブリス……! 早く!)
アリエルが切に願った。
その時であった。
「アリエル!」
誰かが彼女の名を呼んだ。
気付く。魔物のウルフが接近しており、彼女に牙を突き立てようとしていたのだ。
普段の彼女なら有り得ないことだ。
しかし連戦の疲労によって、見逃してしまった。
「あっ……」
わたくしはまだ……こんなところで死ねないのに……!
ウルフが彼女の肉を断ち切ろうと、牙を……。
「悪い。待たせたな」
矢先。
彼女の前に一人の男が現れ、ウルフの攻撃を剣で受け止めた。
「ブリス……!」
救世主の登場であった。
◆ ◆
アリエルに襲いかかろうとしたウルフを剣で両断し、彼女に顔を向けた。
「なかなか酷い状況になっているようだな」
「ええ……! このままじゃ街が……」
「安心しろ」
アリエルの頭にポンと手を置く。
「なんとかなるさ」
さて……と。
「ブリス。そういえば、ディルクは?」
「収納魔法でおさめておいた」
随分と重い荷物だった。
俺は収納魔法からディルクを出す。
「は、はは……光……? あの地獄から解放されたというのかっ!! ははは!」
すると途端に、彼は気色悪い高笑いを上げた。
「ディ、ディルク!? ……で合っているんですよね?」
「ああ」
ディルクの代わりに、俺がアリエルの問いに答える。
アリエルがこんなことを言うのも仕方がない。
ディルクは魔石の力を借りることによって、既に風貌が人間と似つかわしくないものに変貌しているのだ。
さらに収納魔法の常闇の中で、彼はなにを見たというのだろうか。
頭や皮膚を掻きむしったせいか、さらに汚らしい姿になっている。
「ディルク」
彼の目を見て、俺は質問する。
「言え。ノワールに仕掛けた魔石はどこにある? その魔石を破壊すれば、ノワールにいる魔物達の活性化を止めることが出来るはずだ」
一度発動してしまえば、壊れるまで発動し続ける。だったら壊してしまえばいいだけのことだ。
とはいえ前回、ゴブリンマスターと戦った時にも完全には破壊することは出来なかった。骨が折れる作業になるだろう。
だが、魔物達を一体一体倒していくよりは効率がいいはずだ。
慎重に対応しなければならない。失敗は許されない。
一度の失敗……それは即ち、ノワールの崩壊を意味するからだ。
ゆえに俺はディルクから、出来る限り情報を引き出そうとした。
「は、はは……! 魔石だと?」
ディルクは焦点の合っていない目を俺に向けながら、こう続ける。
「神だ! 神に魔石を取り付けているっ!」
「神だと?」
「ノワールは終わりだ! いくらお前が強くとも、神に勝つことは出来ないだろう? そして世界は神に浸食され、我が教団が世界の覇権を取るのです!!」
……ダメだ。こいつの言っていることの意味が分からない。
しかしディルクの言葉を聞いて、俺はいつの間にか鳥肌が立っていた。
なんだ……?
なにか嫌な予感がする。
「ブリス。どうすれば……」
アリエルもどうしていいのか分からず、戸惑いの表情を作っていた。
「ディルク。神というのは一体……」
俺はさらに質問を重ねようとしたが……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ——ッ!
地が震える。
オオオオオオォォォォオオオオオオオン!
悲鳴のような声が聞こえた。
辺りを見渡すと、全ての魔物達が戦闘を止め、まるで恐怖しているかのように震えていた。
「これだけ魔物が怖がっているということは、どういうことだ?」
俺はすぐさま建物の外に出ると。
「ド、ドラゴン……!」
後ろから付いてきていたアリエルが、それを見上げて震えた声を出す。
「ディルクのヤツめ。なかなか面白いものを用意してくれる」
まさか古代竜まで出してくるとは。
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