3・実技試験でSランク冒険者に力を示した
シエラさんについていくと、だだっ広い場所に到着した。
「ここは?」
「試練場です。ここで最終試験が行われます」
ほう、試練場か。ここだったら少々暴れても大丈夫そうだ。
施設内にこんなところがあるとは……冒険者ギルド恐るべし。
「それで実技試験というのは? 現役冒険者の方にやってもらうと言ってましたが……」
見る限り、この試練場には俺達以外に誰一人姿が見えなかった。
「その通りです。最終試験が行われることは伝えてあるので、もう少しで来ると思うんですが……」
きょろきょろとシエラさんが辺りを見渡す。
それとほぼ同時であった。
「遅くなりました」
後ろから女性の声が聞こえた。
振り返ると、そこにはキレイな金色の髪をした美女が試練場に入ってこようとしているところだった。
「アリエルさん!」
どうやらこの美女の名前は『アリエル』というらしい。
アリエルさんは堂々とした佇まいのまま、俺達の前まで歩いてきてこう言った。
「すみません。書類仕事を片付けようと思っていましたが……それが少し長引きまして」
「いえいえ。Sランク冒険者のアリエルさんはお忙しいですからね。時間を取っていただいてありがとうございます」
ペコリとシエラさんが頭を下げる。
「Sランク冒険者?」
「ええ。当ギルド最高ランクに位置している冒険者の方です。Sランクは現在このギルドで、アリエルさん一人しかいないんですよー」
「そんな人が俺みたいな新人の試験を担当してくれるんですか」
「はい」
シエラさんが首を縦に動かす。
「本来なら、CかBランクの冒険者の方に担当してもらうんですが……みなさん、依頼に出かけているみたいで、ギルド内には相応しい試験官がアリエルさんしかいなかったのです。わざわざアリエルさん、ありがとうございます」
「気にしなくていいですわ。こうして新人の方を見極め、そして育成するのも冒険者の役目ですもの。喜んでお受けいたします」
アリエルさんが柔和な笑みを浮かべる。
四天王の姉さんとは別格だな……。
あいつ等も見かけだけはキレイだったが、心は汚かった。
一方、アリエルさんは見るからに優しそうだ。
「コホン。では改めて最終試験の説明をしますね」
咳払いをしてから、シエラさんはこう続けた。
「最終試験はアリエルさんと戦ってもらいます。彼女に実力が認められれば、晴れてあなたも冒険者です」
「待ってください。Sランク冒険者というと、ギルド内の最高ランクなんでしょう? そんな人に勝てるとは思えませんが……」
「心配しないでください。勝つ必要なんてありませんよ。アリエルさんが『合格』と言えば合格ですので……あなたは全力を尽くしてアリエルさんに立ち向かうだけで十分です」
良かった。
「では早速始めましょうか。失礼ですが、あなたのお名前は?」
「ブリスです」
「ブリス……良いお名前ですね。わたくしはアリエルといいます。よろしくお願いいたします」
深くお辞儀をするアリエルさん。
「ブリスにも剣を」
「は、はい!」
シエラさんがすぐさま俺に木剣を手渡してきた。
見ると、アリエルさんも同じような木剣を手にした。
「肩の力を抜いてくださいね。ではどこからでも、かかってきなさい」
「じゃあ遠慮なく……」
俺は剣を上げ、アリエルさんに振り下ろす。
「え……?」
アリエルさんが慌てて剣を振り、俺の剣を『パリイ』する。
「こ、この速さは……? 反射的にパリイしましたが、剣筋が見えなかったですわ。一体あなたはなにを……」
「……?」
アリエルさんの言葉に俺は疑問を覚えていた。
まずは小手調べに、軽く剣を振るってみただけなのだ。
Sランク冒険者というのだから、これくらい楽に弾かれると思っていたが……まさかこんなに驚かれるだなんて。
「次はわたくしからいきますわよ。あなたの力、見せてください!」
今度はアリエルさんが何度か剣を振るう。
しかし俺はその全てを例外なく弾き、攻撃を防いだのだった。
「そ、そんなまさか……! まだ冒険者にすらなっていないお方に、わたくしの剣を全て弾かれた……? あなたは一体何者なのですか?」
「……あ、あの……すみません……」
気付けば俺は、先ほどからずっと疑問に思っていたことを口にしてしまっていた。
「手加減しているんですか?」
「はあ?」
俺の問いに、アリエルさんはきょとんとした表情になっていた。
一番最初といい……先ほどのアリエルさんの剣といい、いくらなんでも遅すぎる気がしていたのだ。
まるで虫が止まるような剣筋だ。
四天王カミラ姉とは比べものにならない。
まさかSランク冒険者の全力がこの程度とは、考えられにくい。
「なら……ちょっと手加減しすぎと言いますか、もう少し本気を出してもいいですよ……なんか悪いですし」
「ふっ——わたくしもバカにされたものですわね」
アリエルさんの目の色、そして気配が変わった。
彼女は剣を下段に構え、「ふー」と大きく長く息を吐いた。
「ちょ、ちょっとアリエルさん! いくらなんでも、秘剣を出すのはやりすぎですよ!」
すぐさまシエラさんが止めに入ろうとするが、それをアリエルさんがすっと手で制す。
「大丈夫です。先ほどのことで、この方の実力は分かりましたわ。わたくしが秘剣を使ったとしても、死ぬことはないでしょう。安心してください」
「で、でも!」
それでもシエラさんは必死に止めようとしていた。
しかし俺は逆に安心していた。
良かった……蘇生術はまだ習得していなかったからな。死ぬレベルの攻撃をされれば、どうしようかと思っていたのだ。
たとえ相手がどんな攻撃をしてこようとも、死なないレベルなら、なんとか防げる自信が俺にはあった。
「良いですよ。その秘剣とやら、俺に見せてください」
「ふっ。大した自信ですね」
アリエルさんが笑いかける。
「ではいきます。第一秘剣《千本華》!」
一瞬、辺り一面に花が舞ったような幻覚を見た。
一の斬撃の間に、千の斬撃を繰り出す技といったところか。
それにしても彼女の剣は美しい。
カミラ姉の乱暴な剣の振るい方とは雲泥の差だ。
しかし。
「まだ遅い」
俺は迫り来る斬撃を時には避けながら、時には弾きながら、無事にやり過ごしたのであった。
「へ……!? む、無傷!?」
《千本華》はどうやらこれで終わりだったようだ。
アリエルさんは目を見開き、すっと剣を下ろした。
「わ、わたくしの《千本華》に対して無傷なんて……! そんな方、初めて見ました。一度も当たらないなんて、そんな……」
アリエルさんは口をパクパクさせていた。
なんだか俺はすごいことをしてしまったようだ。
「それで……次はなんですか? どうすればいいんですか?」
彼女は驚いているようであるが、俺としてはまだ全力の欠片も出していない。
俺はこの試験で『全力』を出せばいいだけと言われていたので、それが出来ていなかったら不安を覚えるのだ。
やる気満々の俺ではあったが、アリエルさんは首を横に振った。
「次はありません。何故なら……もう試験の合否は決まっているのですから」
「次はありませんってことは、まさか不合……」
「合格です! 文句なしです! おめでとうございます。今日から晴れてあなたも冒険者ですよ。シエラさん、それで問題ないですよわよね?」
「も、もちろんです!」
ありゃ?
どうやら合格したみたいだ。
ほとんどなにもしてないんだがな。
合格したのはよかったが、消化不良のせいでむず痒い気持ちになるのであった。
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