24・ブリスは優しすぎですよ
翌朝になった。
俺はアリエルへの剣術指南のために、いつも通り街外れの空き地に向かう。
昨晩のことを思い出す。
彼女は大分酔っぱらっていた。果たして時間通りに顔を見せるだろうか……?
遅刻してくるかもと思っていたが……空き地に行くと、既にアリエルは到着していた。
「アリエル?」
しかしどうやら様子がおかしい。
下を俯いて、なにも言葉を発しようとしない。
「どうした。体調が悪いのか? だったら今日はお休みに……」
「す、すみませんでした!」
俺が言い終わらないうちに、アリエルはそう声を発して深々と頭を下げた。
「昨日は……お恥ずかしいところを……本当にわたくしとしたことが……」
「記憶はあるのか?」
「……あんまりありません」
記憶がなくなるほど飲んだということか。
アリエルはとつとつと話しはじめる。
「昨日……シエラさんから話を聞いて、自分のしてしまった過ちに気付きました。ブリスにはとんだ迷惑を……」
「なあに、気にしなくていい。楽しかったしな」
それは心からの本音であった。
仲間達と一緒にどんちゃん騒ぎをするなんて機会は、生まれて初めてだったしな。
「なんなら感謝しているほどだ。楽しい時間をありがとう」
「〜〜〜〜! ブリスは優しすぎですよ。だから、わたくしはあなたのことを……」
「ん?」
「な、なんでもありません!」
次に彼女は顔を真っ赤にした。
表情豊かだな。
「まあ昨日ことはこれで終わりだ。今日も鍛錬を始めよう」
「は、はい!」
◆ ◆
それから俺は朝の日課を終わらせて、アリエルと一緒に冒険者ギルドに向かった。
調査隊の件で多額の報酬金を貰った。しばらくは働かなくても十分であろう。
しかし……これは性分の話なのだが、なにもせずにぼーっとしているだけってのは無理だった。
仕事中毒とも言える。今まで四天王達にさんざんコキ使われてきたからな。
というわけでなにか依頼をこなすべく、受付嬢のシエラさんに声をかけたのだが……。
「アリエルさん」
シエラさんはアリエルの顔を見るなり、そう名前を呼んだ。
「シエラさんにも昨日は迷惑をかけてしまい……」
「いえいえ、気にしなくていいですよ! 私も楽しかったですから!」
しょぼんと肩を落とすアリエルの背中をポンポンと叩きながら、シエラさんが慰める。
「そんなことよりも、今日はアリエルさんに伝言を預かっていまして」
「伝言?」
アリエルが首をかしげる。
シエラさんはテーブルの引き出しから一通の封筒を取り出し、それを彼女に見せた。
「これがなんなのか分かりますよね?」
「——!」
アリエルの息を呑み込む音。
彼女はシエラさんから封筒を受け取り、すぐに中身を確認する。
見る見るうちに顔色が悪くなっていった。
「どうしたんだ?」
「……あまりよくない事態になってしまいました」
頭を抱えるアリエル。
「よくない事態? もしやまたゴブリンマスターみたいな魔物が出現……とか?」
「いえ……そういうのではありませんが……よかったらブリスも一緒に見てください」
アリエルに許可を貰い、シエラさんが差し出してきた紙に視線を移す。
「んーと……なになに。『今すぐ家に帰ってきなさい。 byバイロン・クアミア』……このバイロン・クアミアってのは誰なんだ?」
訊ねはしてみるものの、アリエルはそれどころではないのか口を開こうとしなかった。
その様子を見て、俺の勘が働く。
「もしかして……アリエルのお父さんか?」
「……はい」
小さな声で返事をするアリエル。
うむ……どうやら当たりだったようだ。まるで父が娘を呼ぶような文面だったから言ってみたものの……俺の勘も捨てたもんじゃないな。
しかしそうだとしても疑問が残る。
たかが娘を呼ぶために、わざわざギルドを通じて伝える必要があるとのかということだ。
そういえば、今までアリエルの家族構成などは聞いたことがなかった。
あまり他人の事情を詮索するのもよくないと思っていたからだ。
アリエルのお父さんって一体……。
疑問が頭の中で渦巻いていると、
「あれ、ブリスさん。もしかしてまだ知らないんですか?」
シエラさんがきょとんとした表情で俺を見た。
「なにがだ?」
「お二人とも仲が良いですから、とっくに知ってると思いましたよ。アリエルさん、ブリスさんに教えても大丈夫ですか?」
「……はい」
アリエルが頷く。
シエラさんはコホンと一つ咳払いをして。
「アリエルさんは……」
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