2・冒険者試験。どうやら俺の魔力はすごいらしい
四天王と絶縁した俺は、馬車に乗って辺境の街『ノワール』に辿り着いた。
「なかなか良い街だな」
馬車の乗り心地は快適とは程遠かった。
しかし……それよりも、四天王の連中から離れることが出来た解放感の方が遙かに勝っていた。
こうして魔王城の外に出ることすらも、滅多になかったからな。
出ようとしてもカミラ姉から「外は危険だぞ。お前のような無能が外に出ていいわけないだろ」と止められていたのだ。
しかしもうあんな連中の言ったことなど、気にしなくていい。
俺はこのノワールで第二の人生を歩むのだ。
「取りあえず、お金が必要だな」
なけなしの10万イェンのうち、5万は馬車代で使ってしまった。
このままではすぐにお金がなくなって、野垂れ死んでしまう。
「俺みたいなよそ者でも、すぐに稼げるとなったら……やはり冒険者だろうか」
冒険者とはいわば街の『なんでも屋』みたいな職業の人である。
冒険者には街の掃除や、お店の手伝いといった雑用から、魔物の討伐といった高難度の仕事まで用意されている。
なかなかきつい仕事だが、身分不詳のヤツ等でも始めることが出来、本人の力量と頑張りがあれば一攫千金も狙えるのだと言う。
これも魔王城にいる頃、あいつ等から教えてもらったことだ。
「うっし。冒険者、やってみるか。金は必要だしな」
早速行動を開始しよう。
俺はすぐに街の人に聞いて、「冒険者になるためには冒険者ギルドに行くといい」ということを教えてもらった。
どうやらギルドは街の中央にあるらしい。
俺は教えてくれた人に礼を言い、すぐに冒険者ギルドに向かった。
「おお……なかなか大きい建物だな」
冒険者ギルドの前につくと、三階建ての大きな建物であった。
俺は勇気を振り絞って門扉を押して、中に入った。
「すみません。冒険者になりたいんですが」
奥の受付カウンターの前まで行き、そこにいた女性にそう話しかける。
「はい。冒険者ですね。登録料として3万イェン必要になるのですが、よろしいですか?」
くっ……3万イェンか。
今の俺からしたらなかなかの大金だ。
しかし背に腹は代えてられない。
「大丈夫です」
「ありがとうございます。申し遅れましたが、私はここギルドの受付嬢をしているシエラと言います。失礼ですがあなたは……」
「俺はブラ……じゃなくて、ブリスと言います」
魔王から付けてもらった名前は『ブラッド』だ。
しかしいつ四天王がこの場所を突き止めて、嫌がらせをしてこないと限らない。
だから俺は今日から『ブラッド』という名前を捨て、『ブリス』として生きていくことにしよう。
「ブリスさんですね。この街の人……ではないですよね?」
「はい。近くの街から冒険者になりたくて、ノワールに来ました。腕に自信がないので、お役に立てるかどうか分かりませんが……」
「分かりました。ではまずはこの用紙にプロフィールを書いてくれますか?」
シエラさんが一枚の紙を差し出してきた。
それにしても、深く詮索されなかったな。
まさか元魔王軍と言うわけにはいかなかったので、これは助かる。
まあ四天王の連中から『冒険者はこの世で最も自由な人達』と聞いていたし、訳ありのヤツが多いのかもしれない。
俺は紙を書き終え、シエラさんに返す。
「特に書類に不備はないようですね」
「これで登録は終わりですか?」
「いいえ。試験をやってもらいます」
「試験?」
「ええ。昨今、弱すぎる人が冒険者になって、依頼を失敗することが多いんですよ。失敗が続けばギルド自体の信用も落ちてしまいます。そういったことを避けるため、ギルドでは最低限の試験を用意しています。この試験に合格することができれば、ブリスさんも晴れて冒険者です」
試験か……。
これは予想外だった。
小さい頃から俺は四天王に鍛え上げられていたが、なに一つものにすることが出来なかった。
そんな俺が試験なんて突破出来るだろうか……。
「ではまずは魔力測定です」
テーブルの前にシエラさんが水晶を置く。
「この水晶に魔力を送り込んでみてください。すると水晶が光ります。『青』、『緑』、『黄』、『赤』、『黒』の順で魔力が多いとされています。たとえ青色でも水晶を発光させることが出来れば、一次試験はクリアです」
結構本格的だな。
魔力量の多さに対しては、あまり自信がない。
『魔法』の最強格であるクレア姉から、「お主の魔力は虫けらみたいじゃな」とよく言われていたからだ。
しかしここで引き返すわけにはいかないだろう。
「では……」
俺は水晶に手を当て、魔力を送り込んでみた。
ピキッ。
すると水晶にヒビが入った。
しかしなんの色も表れていない……まさか魔力量が少なすぎて、発光すらされなかったのか?
だが、その心配は杞憂であった。
「す、水晶にヒ、ヒビが!?」
「あのー、不合格でしょうか?」
「そ、そんなことありません! な、なんてこと……! 魔力測定の水晶にヒビが入ったのは、グノワース様以来です!」
「グノワース?」
「300年前に実存したとされている大魔導士ですよ! あなた、一体何者ですか……?」
どうやら大魔導士グノワースとやらと、同じ反応を示しているらしい。
しかし魔力量に自信がない俺でも、ヒビが入ったのだ。
大魔導士とやらもとんだペテン師だな。
そんなことを考えながら、水晶に手を当て続けていた。
すると。
パリンッ。
今度は水晶が割れてしまった。
「す、すみません! 壊してしまいました。弁償でしょうか?」
金がないぞ! ピンチ!
と思っていたら、シエラさんは首を横に振り、
「べ、弁償なんかしなくていいですよ! ……ヒ、ヒビが入るどころか、水晶が割れた? こんなこと、長いギルドの歴史の中で初めてですよ! グノワース様以上の魔力量ってこと……!?」
とどうやら一人で驚きを隠せないようであった。
どう反応していいか分からないので、俺は頭を掻くしかない。
「えーっと……一次試験は合格ってことでいいでしょうか?」
「文句なしの合格です!」
シエラさんが目を見開いたまま答えた。
それからしばらくシエラさんはあたふたと慌てていたが、
「と、とにかく!」
気を取り直し、こう続けた。
「本来なら、これで試験を合格ということにしたいんですが……ギルドの決まりでして。最終試験に進んでいただく必要があるんです……」
何故だか申し訳なさそうに彼女が言った。
「いいですよ。最終試験はなんですか?」
「最終試験は実技です。現役冒険者の方にやってもらいます。どうぞこちらへ」
シエラさんに促されるがまま、俺はギルドの奥へ進んでいった。
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