19・VSゴブリンマスター
ゴブリンマスターは俺達の気配に気付き、ゆっくりと立ち上がった。
「GUOOOOO!」
ゴブリンマスターの雄叫びが洞窟内に響き渡る。
洞窟が僅かに震える。肌がピリピリするような感触。
間違いない。
「どうやらこいつが親玉のようだな」
みんなが構え、戦闘態勢を取る。
「アリエル」
「は、はい!」
先日本で読んだ内容を思い出しながら、俺はアリエルに質問した。
「ゴブリンマスター……ってのは、確かゴブリンキングの突然変異なんだっけな?」
「そ、そうです! まさかこんなものが、ノワールの森にいただなんて……!」
アリエルが焦りを含んだ声で答える。
他のみんなも戦う姿勢は見せているものの、どこか逃げ腰で、ゴブリンマスターに臆しているようであった。
だが。
「問題ない。この程度の魔物だったら、みんなと力を合わせればすぐに倒せるだろう」
と俺は告げた。
そりゃあ、他の魔物に比べたら結構強そうだが、まだ俺の敵ではない。
何気ない言葉であったが、
「そうだ……! オレ達にはゴブリンキラーのブリスがいる!」
「ブリスだって怖いはずなのに、みんなを奮い立たせてくれるんだ!」
「こんなところで逃げてられねえよ!」
とみんなの戦意を取り戻すことに成功したらしい。
「ふふふ、絶望的な状況ですが、あなたといればなんでも出来そうな気がしてきますわね」
アリエルにいたっては、笑みをこぼすまでになっている。
そんなに深く考えて言ったわけでもないんだが……。
「はあっ!」
一人の冒険者が勇気を振り絞り、ゴブリンマスターに襲いかかった。
キンッ!
しかしその剣はゴブリンマスターの固い皮膚に阻まれ、根本から折れてしまった。
「GUOOOOO!」
怒りの咆哮。
ヤツは棍棒を振り回し、俺達に攻撃を仕掛けてきた。
それを俺達はなんとか躱していく。
「うーん……さすがに固そうだな」
負けることはないと思うが、時間がかかってしまいそうだ。
こんなヤツを倒すのに時間をかけてしまえば、
『え……ブリスって、実は大したことないんじゃね?』
と他の調査隊メンバーに動揺が広がるかもしれない。
なにかいい手はないものか……。
「ん?」
そんな時。
落ち着いてゴブリンマスターを観察していると、ヤツの額になにか赤い宝石のようなものが埋め込まれていることを俺は発見した。
「あれはもしかして魔石か……?」
なんであんなものがヤツに埋め込まれているんだ?
「エドラ」
エドラを呼びかけると、彼女が俺の方を向く。
「あの魔石、なんだか分かるか?」
「ん。あれは……」
質問するとエドラもそこで初めて気が付いたのか、目を細めてゴブリンマスターの額を見やる。
「魔石……多分あれでゴブリンマスターの全身に魔力を行き渡らせている」
「なんのために?」
「なんであんなものがあるのかは分からない。でも……魔石によってゴブリンマスターが強化されている。付与されている魔力は『耐性』。あれを破壊すればゴブリンマスターを弱体化させることが出来る……かも」
自信なさげにエドラは答えた。
しかし……やってみる価値はありそうだな。
「んっ……!」
こうしている間にもゴブリンマスターは棍棒を振るい、エドラ目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
「鬱陶しいな、こいつ……!」
俺は剣でそれを受け止め、エドラを守る。
ゴブリンマスターと一旦距離を取りつつ、エドラにこう口にする。
「エドラ、一つ考えがある。あの魔石を破壊……は出来なくても、一時的に魔力の供給を止めたい。そこでエドラに手伝って欲しいんだ」
「私?」
エドラが目を丸くする。
「エドラが魔石に魔法を放つ。そうすればゴブリンマスターに供給されている魔力を止められると思う。そしてその間に、俺がヤツにトドメを刺す」
「良い考え。でもダメ……」
表情を暗くするエドラ。
「どうして?」
「私の魔法じゃ魔石に届く着く前に、きっとゴブリンマスターに弾かれる。魔石に傷一つ付けることも出来ない」
「それなら心配ない。エドラの魔法は一級品だ。きっとヤツに届く」
現にここまで辿り着くまでの間、エドラの魔法によって俺達調査隊は助かってきた。
「俺を信じてくれ……出来るか?」
「う、うん。ブリスが言うなら」
「決まりだな」
ポンとエドラの肩を軽く叩く。
よし……これで完了だ。
「頼んだぞ、エドラ!」
「うん!」
エドラは先ほどよりも強く返事をした。
そしてゴブリンマスターに手をかざし、
「ライトニングアロー!」
魔法を発動する。
「え……なに? こんな威力が出せたのは初めて……」
雷の矢が手の平から発射され、ゴブリンマスターに襲いかかっていった。
ゴブリンマスターは咄嗟に腕を額の前に持っていき、魔法を防ごうとする。
「GUOOOOO!」
しかし……矢は腕を貫通。
そのまま額の魔石に直撃し、眩い光を放った。
「でかした、エドラ!」
俺はその場で跳躍し、ゴブリンマスターの頭上から斬りつける。
緑色の血飛沫が辺りに飛んだ。
よし!
どうやら攻撃は通ったようだ。
「GUOOOOO!!!」
頭を斬り裂かれたゴブリンマスターは悲鳴のような声を上げ、ゆっくりとその巨体が傾いていく。
地面に倒れ伏せるゴブリンマスター。
「終わったか」
微動だにしない。
こうしてゴブリンマスターは生命活動を停止させた。
(チャド視点)
洞窟の奥でゴブリンマスターを見た瞬間、恥ずかしながらチャドは腰が抜けそうになった。
「か、勝てるわけねえ……」
ただそこにいるだけで災厄。ヤツに睨まれるだけで、チャドは体が動かなくなっていた。
今すぐにでも逃げ出したかった。
だが。
「問題ない。この程度の魔物だったら、みんなと力を合わせればすぐに倒せるだろう」
ブリスが自信に満ちあふれた口調でそう言った。
今の自分はなんて愚かなことを考えていたんだ?
彼だって怖いに違いない。
しかしここで退いてしまっては、そう遠くないうちにノワールに被害が及ぶ。
ブリスは街の平和を願って、ゴブリンマスターに必死の覚悟で立ち向かおうとしているのだ。
それなのに自分は……!
そう考えると戦意が再び湧いてきた。彼のおかげだ。
しかしやはりゴブリンマスターは強い。
一人の冒険者が剣を振るったが、厚い皮膚に阻まれ、少しのダメージを与えることも出来なかった。
こんな怪物、どうすりゃ倒せるんだ!?
だが、ここでもブリスは冷静だった。
「あれはもしかして魔石……?」
そう。
この状況下で、彼はゴブリンマスターの額に魔石が埋め込まれていることを発見したのだ!
少なくても、そんな余裕は自分には一切なかった。
それなのに彼は落ち着いて魔物を観察していたのだ。
「頼んだぞ、エドラ!」
「うん!」
エドラの魔法にも驚いた。
ライトニングアロー……とエドラは唱えていたが、あんな強力なライトニングアローは存在しない。
間違いない。
あれは上級魔法の神の雷槍だ。
昔、一度だけ大魔導士のグノワースが使用した……そんな記録を本で読んだことがある。
その証拠に神の雷槍はゴブリンマスターの手を貫き、魔石に多大なるダメージを与えた。
「でかした、エドラ!」
そこからはよく覚えていない。
いや……言葉を換えよう。
よく見えなかったのだ。
ブリスが地面を蹴ってジャンプしたかと思うと、次の瞬間にはゴブリンマスターの頭部を斬り裂いていた。
は、早すぎて見えねえ……。
自分も腕には自信があった。しかしブリスとは比べるのもおこがましいほど、格が違う。
チャドはこの時、改めて思うのであった。
世界は広い……と。
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