四天王はごっこ遊びのネタになる
本作品の白土悠介先生によるコミカライズ9巻が、本日発売となりました!
これはコミカライズ発売を記念しての短編となっています。
「フハハ! 我は四天王なり! 貴様らを全員、根絶やしにしてくれるわ!」
冒険者の依頼をこなすため、とある村に立ち寄った時。
四人の子どもが物騒なことを宣いながら、きゃっきゃっと楽しく遊んでいる光景を見かけた。
「ん……?」
気になり俺は足を止め、彼・彼女らに声をかける。
「ごめん。一体なにをしているんだ?」
「そんなの、決まってんじゃん!」
四人の子どものうち、女の子がこう答える。
「四天王ごっこだよ!」
「四天王ごっこ……?」
「うん! まおー軍に四天王っていう、強い人たちがいるでしょ? その人たちの真似をしながら、遊んでるんだ! 私はクレアさんの役をしてる!」
屈託のない笑顔を浮かべる少女。
「おいおい、真似なんかじゃないぞ。僕らは本当に四天王なんだ! 僕は本物の《剣》の最強格、カミラなんだ!」
「そうだ、そうだ。オレは《魔法》の最強格、クレア!」
「あたちはローヘンス!」
他の子どもたちも自分たちの言っていることに悪意がなく、心の底から楽しそうだ。
ふうん……? 変なごっこ遊びをしているもんだな。
魔王軍に《剣》《魔法》《治癒》《支援》それぞれの最強格──すなわち四天王が存在していることは、大衆に知れ渡っている。
普通の人々にとって、魔王軍の四天王は恐怖の対象であり、このような遊びの対象になるはずがなかった。
だが、子どもたちにとってはそうでもないらしい。
子どもは時に、『正義』よりも『悪』に惹かれるものだからな。
彼・彼女らにとって、魔王軍四天王は恐る存在ではなく、カッコいいものに映るんだろう。
もっとも。
カミラ役の少年
「フハハ! 我の前で両膝をつき、許しを請え!」
クレア役の少年
「オレの魔法で、この村を焼いてやんよ」
クレア役の少女
「私の慈悲で、皆さんを癒してさしあげます……わ」
ローレンス役の少女
「あたしの支援まほーで、みんな可愛くしてあげるっ!」
……そのクオリティーは、なかなかに低いものであったが。
四天王の存在は知っていても、個々の人格については、普通対峙した者にしか分かり得ない。ゆえに子どもたちの物真似(?)のクオリティーが低いのも仕方がなかった。
「あっ、そうだ。お兄さん、暇だったら、魔王役やってよ!」
「ま、魔王?」
突然そんなことを言われ、つい聞き返してしまう。
「うんっ! なんだか収まりが悪いと思ってたんだ〜。お兄さんが魔王役をやってくれたら、ごっこ遊びがもっと楽しくなるよ」
「はあ……」
なんで俺が魔王役を……と思わないでもないが、俺もこれに参加しないと、帰してくれそうにない。
仕方がない。
子どもたちをガッカリさせるのも、罪悪感があるしな。お仕事開始には、まだ時間の余裕もあるし、少し付き合ってやるか。
「コホン」
一つ咳払いをしてから、俺はこう口にする。
「わ、私は魔王だぞ! 一番強いんだ! 皆の者、もっと私を崇めろ!」
あいつなら、こういうこと言いそうだよな……なんか、部下からの信頼とか、気にしてそうだし。
本物の魔王の姿を思い出しながら、なるべく彼女に寄せてみた。
しかし。
「う〜ん、ちょっと微妙かな?」
「なんで魔王が、自分で自分のことを強いっていうのさ」
「そうよ。自分から崇めろっていうのも、変だわ」
「お兄さんの魔王、なんか弱そう……」
子どもたちは不満そうだった。
「まいったな」
そう言って、俺は頭を掻く。
おい、魔王。お前、弱そうと言われてるぞ。せめて──そんな機会はないと思うが──この子どもたちの前では、もっと威厳がある感じにしてやってくれ。
その後、日が暮れるまで、俺は子どもたちの遊びに付き合わされるのであった。
コミカライズ9巻が好評発売中です!
よろしくお願いいたします。