魔王はやっぱり浪漫を追い求めたい
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「型無しか……」
魔王は先ほど、四天王《剣》の最強格カミラに言われていたことを、思い出していた。
『型が無ければ、ただの型無しだぞ』
これは剣術に限らず、なにかを学ぶ際に必須となるべき考えである。
一本の剣も満足に扱えないのに、二刀流にしようなどとは──邪道を通り越して、無謀の一言。
ブラッドを教育するうえで、カミラの考えは間違っていない。
しかし彼女と別れてから、魔王はふとこう思うのであった。
「ん? 我、結構強いぞ? とっくに型など身についておる。ブラッドちゃんはともかく、我は二刀流でも大丈夫なのでは?」
二刀流……いわば浪漫である。
我が二刀流で華麗に魔物を倒せば、ブラッドちゃんはどんな顔をするだろうか──。
きっと、『魔王はやっぱりカッコいい!』となるに違いない。
「そうと分かれば、特訓じゃ! 我は二刀流で魔物を倒しにゆくぞ!」
そう意気込み、魔王は城を出た。
魔王城の外。
そこは凶悪な魔物が蔓延る森に囲まれている。
しかし、どんなに強い魔物であっても、魔王の前では敵じゃなかった。
「ふう……やはり、我なら二刀流でも戦えるな。これならブラッドちゃんも我を尊敬してくれるだろう」
積み重なった魔物の死体の山。
魔王はその頂上に鎮座し、そう言葉を漏らす。
彼女の両手には、二本の同じような剣が握られていた。
「一刀が王道だというカミラの意見も分かるが、我は浪漫を追い求めたいからな。許せ、カミラ」
さて──と、死体の山から飛び降り、魔王は城の方角へと顔を向ける。
「そろそろ帰るか。腹も減ったしな」
そして歩き出そうとした瞬間──辺りが真っ暗になる。
「ん……?」
見上げると、古代竜が空から魔王に照準を合わせていた。
「ほほお……我に刃向かおうとするとは、いい度胸だ。フィナーレとしては丁度いい。我が二刀流の錆としてやろう」
ニヤリと笑い、魔王は強く地面を蹴った。
古代竜と同じ高さまで上昇し、二本の剣を振り上げる。
「秘技──二刀乱舞!」
ついあっき適当に考えた技名を叫び、魔王は剣を振り下ろした。
右の剣が古代竜を両断し、断末魔も上げず空の覇者を地面に墜落する。
だがこの時、トラブルが起こる。
「ふんがっ!?」
左手で握っていた剣がすっぽ抜けてしまったのだ。
常人なら、大した出来事ではない。
しかし魔王の剣を振る速度は尋常じゃなかった。その激しい勢いのまま、すっぽ抜けた剣が魔王城へと向かっていく。
その様はまさしく、一筋の流れ星のようである。
「いかんっ!」
魔王は焦りの声を発する。
何故なら勢いを保ったままぐんぐんと速度を上げる剣が、魔王城に衝突すれば……タダでは済まないからだ。
カミラにも怒られる。
「くっ……止まれええええええええ!」
魔王は即座に手をかざし、魔法で剣の勢いを殺そうとする。
すっぽ抜けた剣の勢い──そして魔王本気の魔法の力は、奇跡的に釣り合った。
彼女の頬から、細い汗が滴り落ちる。
どんな強敵を前にしても、滅多に余裕を崩さなかった魔王が久しぶりに顔を歪めた。
その成果あってのことなのか──やがて、すっぽ抜けた剣の勢いは弱くなり、城に当たる直前で停止してくれたのだった。
「はあっ、はあっ……冷や汗をかいた」
と魔王はほっと安堵の息を吐く。
「……やっぱり、調子に乗ってはダメだ。カミラの言いつけをちゃんと守ろう」
続けてぼそっと呟き、魔王は反省するのであった。
後日──。
四天王の間で「城に隕石が落ちそうになった!」と話題になっていたが、魔王は素知らぬ顔をしていたのは言うまでもない。
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武闘大会もとうとう大詰め。激しいバトルが展開されています。
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