四天王に無能と呼ばれた少年はカマキリを倒す
本作品の白土悠介先生によるコミカライズ7巻が、本日発売となりました!
これはコミカライズ発売を記念しての短編となっています。
これは俺がまだ冒険者としての常識を持ち合わせておらず、ちょっとズレていた頃の思い出だ。
近くの村で厄介な魔物が現れたらしく、ギルドを通して俺は依頼を受け、討伐に向かった。
田園が目立ち、長閑な雰囲気の村だったことを覚えている。
「あんたが都会からやってきた冒険者かい」
俺を見るなり。
村長は疑いの目を向けてきた。
「はい」
「随分若いようだな。本当に戦えるのか?」
ふんっと鼻で息をする村長。
「全力でやらせていただければと。それで……魔物はどこに?」
「そんなことも知らされていないのか」
「ギルドからは、村長から直に聞くようにと言われていますので」
「ふんっ……まあいい」
バカにしたような口調で、村長はこう続ける。
「魔物はこの村から一時間ほど歩いたところで巣を張っている。言っておくが、馬車は出せんぞ? この村はそれほど裕福じゃないし、馬車の御者が魔物に殺されてしまう可能性もある。歩いて向かってくれ」
と村長は「しっしっ」と俺を手で払う。
うむ……どうやら俺は若いからと侮られているらしい。
しかしそれは仕方がない。
魔王城ではそんな理由で軽んじられたりすることはなかったが、外の世界は年功序列だと聞いていたからな。
若い俺は、それだけで村長を不安にさせてしまうんだろう。
「分かりました。では、早速行ってきます」
踵を返す。
侮られているからと言って、手を抜くわけにはいかない。
仕事は仕事だからだ。
それに俺が行かなければ、やがて魔物は巣を出て、この村に向かう。
村内には戦える人は少なそうだし、そうなったら虐殺を生む。必ず倒さなければ。
「本当に大丈夫かね」
と最後まで村長は不安そうに声を零していた。
──三十分後。
「戻りました」
俺は魔物を倒し終わり、村に帰ってきた。
「はあ?」
しかし俺の顔を見るなり、村長はきょとんとした顔をする。
「なんだ、忘れ物か?」
「そういうわけではないんですが……」
「だったら、途中で怖くなって戻ってきたのだ。ふんっ、これだから最近の若いもんは……嘆かわしい。報酬金は払わないぞ」
「それは困りますね」
無事に依頼を達成したら、報酬金を村長からもらえる手筈だったはずだ。
「魔物を倒していないんだから当たり前じゃろう! まさか実際に戦わないまま、尻尾を巻いて逃げ出してくるとは思わなかったぞ。戦ってすらいないのに報酬金を得ようとは、まさか悪徳冒険者──」
「なにを言っているのか分かりませんが……」
俺は収納魔法から魔物の死体を取り出す。
「近くに巣を張っていた魔物は、無事に討伐を完了しましたので」
と告げた。
「はあ!?」
村長は次に驚愕の表情を浮かべ、前のめりになった。
「なっ……!? ヴェノムクローの死体? 幻術かなにかの類じゃないのか!?」
「やだなあ。そんなしょうもないもの、使っていませんよ。正真正銘、魔物の死体です。疑うようなら、別に魔法使いを雇って幻術か否かを診断すればいいんじゃないですか? もしくはこのカマキリがいた場所まで、人を向かわせるとか」
そう提案すると、村長は俺の顔をまじまじと見つめる。
「カマキリ……?」
「はい。そうだったでしょう?」
「なにを言う! こやつはヴェノムクローと呼ばれる、二本の鎌を持った魔物。村を苦しませてきた魔物だ。昆虫のカマキリと一緒にするんじゃない!」
えー……そうだったのか?
魔王城の庭では、夏になるとこのカマキリがよく繁殖していたぞ。
クレア姉がよく、「鬱陶しいのお」とぼやき、毒魔法を庭に放ちカマキリを一網打尽にしていたことを思い出す。
この魔法を彼女は「殺虫剤」と言っていた。
「……カマキリじゃなかったんですね。なんでこんな昆虫のことを魔物って言ってるのか不思議でしたよ」
「こんな昆虫はどこにもおらん!」
そう断言する村長。
「そもそも巣まで歩いて片道一時間くらいのはずだったが、どうして三十分で戻ってこれる? 巣に辿り着きすらしないはずだぞ!?」
「走ったので」
「どれだけ早く走っても、三十分では往復出来ん! 規格外すぎるじゃろう!」
終始、村長は声を荒らげていた。
そんなに興奮して大丈夫だろうか?
高血圧が心配だ。
その後、俺は無事に依頼を達成したことによる報酬金を得て、街まで帰るのであった。
コミカライズ7巻が好評発売中です!
よろしくお願いいたします。