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四天王の弟子は最強になりたい

本日、当作品のコミカライズ6巻が電子版にて発売されました!

各種、電子書籍でお買い求めくださいませ。

こちらは発売を祝しましての記念短編となっています。

コミカライズでオリジナルの準最強格のカワズさんが出ているので、ご注意くださいませ。

 これはまだ、ブリスことブラッドが家出していない頃の話──。



「カミラさんはそろそろ、ウチに最強格の座を譲るべきだと思うんッスよね〜」



 ある日。

 四天王《剣》準最強格──カワズがそんなことを言い出した。


「ほほお?」


 カミラはそれを聞き、眉間に皺を寄せる。


《剣》《魔法》《治癒》《支援》の分野で最強と謳われた四人を集めて、四天王と呼ぶ。

 四人はそれぞれの最強格として、力を振るっている。

 彼女らには独自の『隊』を渡され、日夜、魔王の目的を成就させるために動いていた。

 そしてその四つの分野において、四天王に次ぐ実力の持ち主を準最強格と呼んだ。


 カミラの目の前で、後頭部に手を回して飄々と言ってのけるカワズがそれなのである。


「それじゃあ、なにか? お前は私に勝てる──と」

「その通りッス! ウチ、魔王軍に入ってからめきめきと実力を伸ばしてますからね〜」


 怒気をたぎらせるカミラの一方、カワズは怯むどころか、そう自信満々に言ってのける。


「どうして、そう思う?」

「だって、カミラさん。最近、戦ってないじゃないッスか。もしかして、力が鈍ったから、戦いたくないんじゃ?」

「バカな」


 とカミラが鼻で笑う。


 実際、ここ最近のカミラは戦場に出られていなかった。


 それは準最強格のカワズに経験を積ませるためである。

 カワズは強く、彼女に『隊』を任せても、問題ないと判断していた。


 カミラの判断は正解で、カワズは今まで多大なる戦果を上げていた。

 その結果に、カミラも満足していたが……。


(自信を増長させてしまったか)


 カミラはそのことに気付く。


 自信をつけるのは良いことだ。

 それが生死を分けると言っても過言ではない。

 しかしなにごとも、過度であってはいけない。


 結果を出し続けたカワズの自信は風船のように膨らみ、今となっては『傲慢』と呼ばれるまでに至ってしまった──とカミラは判断する。


「では、私と勝負するか?」

「え? いいんッスか!?」


 カワズはそう目を輝かせる。


 他の魔族がカミラにそんなことを言われたら、尻尾を巻いて逃げ出すだろうに──カワズは彼女と戦えることを楽しみにしているようにすら見えた。


 無論、そうするだけの力がカワズにはある。

 それにこういった、良い意味で向こう水な性格を、カミラはかっていたのだ。


「お前の自信をへし折ってやろう──だが、四天王内での争いは固く禁じられている。それが最強格と準最強格同士だったとしても……な」

「カミラさん、いつもクレアさんと喧嘩ばっかしてるじゃん……」

「──だからお前と直接戦うことは出来ない」


 カミラはカワズの言葉を無視して、こう続ける。


「魔物の討伐数で争う。場所は魔王城近くの森。制限時間は一時間。この間に魔物を多く狩れた方の勝ちだ」

「単純でいいッスね。魔物って言ってもいっぱいいると思うんですけど、強さとかは加味しないんですか?」

「そこまで考えると面倒だ。単純に()()()()だけで争おう」

「了解ッス! 楽しみだな〜」


 カワズは満面の笑みで、敬礼のポーズを作った。




 ──およそ一時間後。




「333体──これがウチの記録ッス」


 魔物の死体を山を前にして、カワズが誇らしげに言った。

 多すぎて、カミラは数える気はなかったが、カワズが嘘を吐いていないことは分かる。

 騙してまで、戦いに勝とうとするタイプではないからだ。


「それで……カミラさんはいくつッスか?」


 カワズを前に乗り出し、カミラにそう問いかける。

 カミラの隣にも、カワズと同じくらいの魔物が積み重なっている。


 カミラは澱みない口調で、


「丁度、300体だ」


 と答えた。


 それに対して、カワズが両手を挙げ、顔に喜色を浮かべる。


「やったー! カミラさんに勝ったッス! 意外とカミラさんも、大したことないッスね〜。もしかして、これでウチが《剣》の最強格!? とうとうウチもここまで昇り詰めたか〜」


 喜び、カミラの周りをぐるぐると回る。

 その反応は完全に彼女に対する煽りであったが、一方のカミラは顔色一つ変えない。


「…………」

「カミラさん、なんか言ったらどうッスか? あっ、それとも。悔しすぎて言葉が出ないんじゃ……」

「ふんっ、なにを言っている。勝った気でいるのか?」


 カミラがそう言うと、カワズはぽかーんとした表情になる。


「え? だって、倒した魔物の数で勝負ッスよね。カミラさん、負け惜しみなんてダサイですよ」

「負け惜しみ──そうじゃない」


 カミラは自分が仕留めた魔物の山に歩み寄る。

 その中には、一際大きいスライムの死体があった。


 通常の()()のサイズはある。体に絆創膏がバッテンの形で貼られており、可愛い物好きのローレンスだったら喜びそうだな──とカミラは思う。


「おりゃ」


 カミラはその巨大スライムを剣で突いた。

 すると──巨大スライムが中から弾け、中から大量のミニスライムたちが飛び出してきたのだ。


「!?」


 カワズはなにが起こったか分からないのか、驚愕で言葉を失っていた。


「こいつはデカスライム。百体のスライムが合体した姿だ。最初、百体のスライムで私を倒そうとしたが、途中で無理だと悟り、合体してこのような姿になったのだ」

「だったら……」

「ああ。百体加算だな」


 これによって、カミラの魔物討伐数は400となった。

 カワズの記録、333体を大きく上回ったのである。


「そ、そんな……」

「お前最近、人間や強い魔物ばっかと戦っているだろう? だから、合体するスライムの習性を知らなかったのだ」


 スライムは魔物の中でも最弱の呼び声高い存在である。

 こんな存在に、カワズは歯牙にもかけない──ゆえに、彼女は勝敗を見誤ってしまったのだ。


「強くなるのはいい。しかし弱い者にも目を向けろ。ヤツらにも矜持プライドがある。そうじゃないと、いつか足元をすくわれるぞ」


 両親に魔物を殺され、ボロボロになりながら──時に無能と呼ばれながらも、鍛錬を欠かさなかった男。

 そんなバカな弟の顔を思い浮かべて、カミラは言った。


「さすがカミラさんッス……ウチ、調子に乗りすぎていました! 一生、姉御に付いていきます!」


 勝負に負けたことを悔しがったのは一瞬だけ。

 カワズは表情を明るくして、カミラに抱きついた。


(一生……か。今日の勝負は私が勝ったが、スライム百体に遭遇する幸運がなければ、負けていたかもしれない。もしかしたらいつか、私はこいつに──)


 末恐ろしい四天王準最強格に、カミラは戦慄していたが、それを口にすることはなかった。



 ──数年後。

 二人は敵同士としてあい見えることになるのだが、それはまた別の話だ。

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