四天王の料理特訓
白土悠介先生によるコミカライズ5巻が本日発売です!
こちらは発売記念短編となっています。よろしくお願いいたします。
先日、四天王たちによる『料理対決』が行われた。
結果は皆、散々なもので、「他人に不快感や被害を与えない」という消極的な理由でクレア姉の『無』が優勝した。
しかしそれではあんまりだ──と四天王たちも自覚したようで、クレア姉とカミラ姉による、料理特訓が行われた。
ちなみに……完成した料理を品評するのは俺。
せめて食える程度の料理が出てくれれば……と期待するが、どうにもその願いは叶えられそうにない。
とはいうものの──。
「うおおおおおおお!」
肉の塊を前にして、クレア姉が雄叫びを上げる。
「おい! クレア! 大丈夫か!?」
「問題ない! 今度こそは出力を間違えん!」
クレア姉が赤色の魔力を纏う。
灼熱が唸りを上げて舞い、クレア姉はその魔法名を告げた。
「ファイアートルネード──極小バージョン!」
炎系の魔法の中でも、最上級に位置する魔法。
そんなものを肉の塊に施せば、たちまち消し炭になるところだったが、今回は違った。
普段のファイアートルネードの、一万分の一にまで出力を制限した炎魔法は、肉の塊に僅かな焦げ目を付けるだけで済んだ。
香ばしい匂いが漂ってきて、俺のお腹がぐうーっと鳴った。
「よし! 上手くいった! あとはブラッドが食べやすいようにカットするだけじゃ!」
「任せろ!」
カミラ姉が剣を構える。
目を瞑り、精神統一するカミラ姐。その姿はさながら、神の啓示に耳を傾ける修行僧のようだ。
そしてカッと目を見開き、
「剣舞──《鳳凰舞炎刃》!」
技名を高らかに宣言し、目にも止まらぬ剣捌きで焼かれた肉を一閃する。
伝説の生き物──鳳凰の美しい舞を模倣し、敵を焼き斬るカミラ姉だけが使える奥義だ。
俺も久しぶりに目にしたので、思わず「おお!」と声を上げてしまった。
彼女も全力だ。このクッキング特訓に並々ならぬ想いを抱いているのだと、はっきりと分かる。
だが、それがいけなかった。
カミラ姉の全力の剣技に、ただの肉が耐え切れるわけもなく──あっという間に、この世から消滅してしまった。
「…………」
「……おい」
クレア姉が鋭い眼光をカミラ姉に向ける。
「お主はバカか!? 肉がなくなっておるではないか!」
「うるせえ! みじん切りにしろと言ったのは、貴様の方だろうが!」
「これがみじん切りじゃと? お主は手加減を覚えろ!」
あーあ……また始まった。
カミラ姉とクレア姉はお互いの髪や頬を引っ張り、醜い喧嘩を始める。
二人の争いによって、魔王城が微震する。
城は老朽化も進んでるっていうのに……彼女たちはまた、魔王に怒られたいんだろうか。
「お腹、空いたなあ……」
幼い頃の俺は腹を押さえ、先ほどまで肉の塊が置かれていた空間を、見つめていたのであった。
白土悠介先生によるコミカライズ五巻が発売されました。
書店などでぜひ、手に取っていただけると幸いです。