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四天王はナンパがお嫌い

本日、コミカライズ四巻が発売されました!

四巻の発売を祝しましての短編です。コミカライズオリジナルの設定である『裏最強格』という言葉が出てきますが、よろしくお願いいたします(裏最強格の詳細はコミックにて!)

 ──あれは俺がまだ幼く、魔王城にいた頃だ。


「わー! すごい! おっきい()だね!」


 俺は四天王《治癒》の最強格──ブレンダと外出していた。


 人間も多く利用する観光地である。

 季節も夏ということもあり、海岸は人でごった返している。空にさんさんと輝く太陽が、じりじりと肌を焼いた。


「ふふふ、ブラッド。これは湖ではありません」


 微笑ましそうにブレンダ姉が言う。


「湖じゃないの!?」

「はい。『海』と呼ばれるものです。この海の向こうには別の大陸があって、また違う文化を築いています」

「へー! これが海なんだ!」


 俺は素直に感嘆の声を漏らす。


 その時の俺は、内陸に住んでいたので海には来たことがなかった。

 ゆえに海なる存在は絵本や伝聞で知っていたものの、こうして目の当たりにするのは初めてのことだった。


「ブラッドには色々と知ってほしいですからね。だから今日、海に連れてきたんです。クレアやローレンスのような頭空っぽな人間にはなってほしくないですしね」

「カミラお姉ちゃんは違うの?」

「カミラはあれでも、色々と考えているのですよ。カミラの裏最強格は──おっと。この話はまだブラッドには早かったですか」


 と慌ててブレンダ姉が口を閉じる。


「さあ、せっかく海に来たんだから泳ぎましょう。水着にも着替えましたしね」


 そう言うブレンダ姉の姿を、あらためて見る。


 肌の露出も多く、()()()水着を着ているせいで目のやりどころに困る……というのは当時の俺では思わなかったが、なんにせよ艶やかな光景であった。


 さっきから周りの人たちがちらちらと、水着姿のブレンダ姉を見ている。当時の俺は「なんでだろう?」と疑問に思っていた。


「うん! 泳ご泳ご! 今日は訓練とかないんだよね?」

「当然です。今日は海に来ること自体が目的だったのですから。遠泳で百キロ先まで泳げとかは、言わないですよ。安心してください」

「よかった! じゃあブレンダお姉ちゃんも──」


 そう言葉を続けようとした時であった。



「おっ、そこのキレイな姉ちゃ〜ん。俺たちと遊ばね?」



 と明らかにチャラそうな男が俺たちに声をかけてきた。


 ブレンダ姉は一瞬不快そうな顔を浮かべて、すぐに笑顔で取り繕う。


「結構です」

「えー、そんなこと言わずに〜」

「分からないんですか? 私は今、可愛い弟と海に来ているのです。弟との至福の時間を邪魔するとは、言語道断。本来なら死で償ってもらうところでしたが、今日の私は機嫌がいい。見逃してあげますから、目の前から消え失せてください」

「はっはっは! なかなか怖いことを言うな。だけど俺はそういう気が強い女も嫌いじゃないぜ〜?」


 男はブレンダ姉の肩をポンポンと叩く。

 ブレンダ姉は笑顔のままであるが、眉間に皺を寄せ右手をぎゅっと握りしめていた。


 あっ……まずい。


 俺は彼女の本性を知っている。

 ブレンダ姉がこうしている時は、怒りが爆発する寸前だ。すぐにチャラそうな男をどかさねば、青い海が血に染まってしまう。


「ダ、ダメだよ。すぐに離れて──」


 ゆえに俺は男の心配をし、彼をブレンダ姉から離そうとした。


 しかし。


「うっせえな! 今俺は大事な話をしてんだ。ガキは黙ってろ!」


 彼は鬱陶しそうに俺を手で払う。


 カミラ姉やブレンダ姉の動きに比べれば遅く、避けることも可能であったが……当時の俺は「人間の前ではあまり訓練の成果を出さないように」と教えられてきた。

 だから男が払った手を避けず当たり、そのまま砂浜の地面に尻餅をついてしまった。


 これにかっと目を見開いたのがブレンダ姉である。


「こんの……っ! 私の可愛い弟に、そのような狼藉を働くとは! 死ねええええええええ!」

「え──」


 彼にとっては、なにがなんだか分からないだろう。


 ただの一見ただのセクシーな女性──に見えるブレンダ姉は右腕に血管の筋を浮き上がらせる。

 そして拳を炸裂。

 それを男は避けられるわけもなく、拳を腹で受け止める。それだけではとどまらず、そのまま「ぐあああああ!」と断末魔を上げて吹っ飛び、海の彼方へ消えてしまった。


「ブ、ブレンダお姉ちゃん!?」

「し、しまった……ブラッドに手を上げられたから、ついかっとなってしまい……」


 周囲の視線がブレンダ姉と吹っ飛んでいった男に集中する。

 ブレンダ姉にしては珍しく、罰が悪そうな表情を浮かべていた。


「た、大変だよ! すぐに蘇生そせー魔法をかけてあげなくっちゃ!」

「大丈夫ですよ。一瞬我を失ってしまったとはいえ、魔王様の許可なしに人間を殺すほど愚かではありませんから。ちゃんと手加減をしました」


 にっこりと笑うブレンダ姉。

 その表情はいつもの()()()ブレンダ姉だった。


 ブレンダ姉……怒ると怖いんだよなあ。


 魔王城でもよく、カミラとクレアが喧嘩をして、ブレンダ姉がキレてそれをおさめるという場面を何度も見てきた。

 一度怒り出すと手が付けられない二人を、拳一つでおさめられるのは世界広しと言えどもブレンダ姉か魔王くらいだろう。

 だからさっきの男を彼女から離そうとしたが……一足遅かった。


「とはいえ、もうここにはいられませんね。無用な騒ぎを生みます。そうなったら魔王様にも怒られますし……ブラッド、帰りますよ」

「遊びたかったのに……」


 と俺は肩を落とすのであった。



 ──何年か後。

 ブレンダ姉の裏最強格が《体術》であったことを、俺は知るのであった。

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☆☆新作です。よろしければ、こちらもどうぞです☆☆
「憎まれ悪役令嬢のやり直し 〜今度も愛されなくて構いません〜」
― 新着の感想 ―
[一言] 海の彼方にふっ飛ばされたナンパお兄さん。 手加減されたといえ、大海原のど真ん中に吹っ飛ばされて、太平洋ひとりぼっち状態。 即死攻撃受けて苦しまずに逝けたほうがまだ、幸せだったかも知れん。。。…
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