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119/130

119・俺達は冒険者だから

「アリエル、やっぱりここに来たか」


 ノワールの広場。

 そこに転移すると、アリエルが一人で黙々と剣を振るっていた。


「ブリス!」


 アリエルは俺の姿を見ると、まるで尻尾を振る子犬のように駆け寄ってきた。


「わたくしがこの場所にいるとよく分かりましたわね?」

「もちろんだ。ここは俺達にとって思い出の場所だからな」


 最初──俺がアリエルを助けるためにゴブリンキングを倒した時、彼女はその報酬金を辞退した。

 その代わりに、アリエルは俺に剣術を教えてもらうことを願った。

 それからこの場所で、俺とアリエルの二人きりの稽古が始まった。

 ……まあ途中でエドラも加わったけどな。


「ブリスは最初、わたくしに気斬を教えてくださいましたね」

「そうだな。すぐにアリエルが気斬をものにした時は、素直に驚いたよ。その上、千本気斬華まで……」

「ふふふ、これもブリスのおかげですわ。あっ、そうだ──足捌きについて、ちょっと気になるところがありますの。教えていただけますか?」

「もちろんだ」


 女神は倒して脅威は去ったが、俺達のすることは変わらない。

 日々鍛錬を続け、心身ともに強くなる。

 怠けていたら、すぐにあの四天王共に怒られそうだからな。


 それから俺達はしばらく稽古に勤しんでいた。


「そこはもう少し握りを強くしてだな……」


 ピタッ。

 教えるのに夢中になりすぎて、いつの間にかアリエルの手首を握ってしまっていた。


「……す、すまんっ!」

「い、いえいえ! それに……こうしてくれた方が分かりやすいですから。このままでお願いしますわ」

「お、おう」


 アリエルの後ろに回り込んで、あらためて彼女の両手を取る。


 彼女と正式に付き合えるようにはなったものの、まだまだこういうのには慣れない。

 カミラ姉は俺がアリエルとエッチなことをするんじゃないか、と危惧していた。


 やれやれ。

 これじゃあ、そういうのはまだ先のようだ。


「ブリス? どうかされましたか?」

「い、いや! なんでもないっ!」


 慌ててそう誤魔化すと、アリエルは不思議そうに首をかしげた。


 こうしているとアリエルの温かみが伝わってくる。

 どうして男と女では、こうも体つきが違うのだろうか。

 柔らかな肌は、こうして触れているだけで気持ちいい。華奢な腰回りは色気を感じさせた。


「……ブリス。さっきから手が止まっています。もしかして……エッチなことを考えていましたか?」


 じーっと疑うような視線を俺に向けるアリエル。


「そ、そんなことは!」

「本当ですかー? もしかして、わたくしとエッチなことがしたいんじゃ……」

「し、したくない──と言ったら嘘にはなるが、俺はアリエルの嫌がることをしたく……」


 焦っていると、アリエルはくすくすと揶揄うように笑いを零した。


「冗談ですわ。それに……わたくしもブリスといつか、そういう関係になってみたいです。だってわたくし達、こ、こ恋人同士なんですからっ」


 自分で言ってて恥ずかしくなったのか、アリエルの顔が真っ赤になる。

 俺達はお互いに照れてしまって、次にどんな言葉を口にすればいいか分からなくなっていた。


 ──その時であった。



 俺達の頭上を一羽の鳥が飛んでいる。



 突き抜けるような青空。

 その鳥はまるで泳ぐように頭上を滑空していた。


「あれは……伝羽鳥か?」


 通信魔法は誰にでも使えるものでもないし、魔石も高価。なので基本的には、この鳥が誰かからの手紙を運んでくれる。

 伝羽鳥はゆっくりと舞い降りて、アリエルの指に止まった。

 脚のところに付けられている手紙を、アリエルが丁寧にほどく。


「……ギルドからです。教団の残党のことですわ。その基地の所在を探していたのですが──ようやく見つかったようです」

「それは大事おおごとだな。俺も行くよ。すぐに向かおう」

「ええ」


 アリエルが駆け出そうとした寸前、


「アリエル」


 俺は彼女を呼び止める。


「……? なんでしょうか?」

「その、なんだ……手を繋いで行こうか? そうしてないと、君がどこかに行ってしまいそうで──不安になるんだ」

「──っ! そうですわね」


 アリエルが嬉しそうに俺の手を握る。

 そして俺達はギルドに向かって走り出した。 


 やれやれ。女神を倒しても、まだまだ落ち着けないな。

 しかしそれについて不満はない。



 何故なら──俺達は冒険者だからだ。



 大切なものを守るためなら、俺はどこにでも駆けつけるだろう。


 アリエルと走る道はどこまでも続いていそうで、彼女とならどこまでも行けそうな気がした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


これで絶縁から始まったブリスの物語、本編が完結いたしました。

ここまで書くことができたのは、読者様のおかげです。本当にありがとうございました。


ですが、ブリスの人生はまだまだ続きます。

書きたいことも色々と残っていますので、もしかしたら短編──もしくは新章を投稿するかもしれません。

なので、完結設定ではなく連載中のままにしておきます。


最後に、もう一度。

みなさま、本当にありがとうございました。

書籍三巻も好評発売中ですし、コミカライズ一巻も1月6日発売予定となっています。

そちらもぜひ、手に取ってくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても楽しく読ませていただき有難うございました。 新章を楽しみにしています。
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